STAGE✦2!

✦第8話✦ セカンドミッションは……家族に会える!?

 ──また命がけのミッションだったら、どうしよう!?

 2回目のミッションが発表される日。

 例によって、あたしたち3人は、エンデビ学園の先生の前にいた。

 あたしが真ん中で、あたしの隣にキョウスケとあやみん。

 そしてなぜか、あたしたち同様、あのんちゃんと男の子2人の班も同じように呼び出され、先生の前にはあたしを含め6人がいる。

 あたしの頭の中は、朝からずうっと、不安でいっぱい。

 そしてそれは、あやみんもキョウスケも同じだった。

 あたしの隣にいる2人の緊張が伝わってくるし、2人とも心の中ではきっと「なんで悪魔コースのミッションなんか……」って気持ちが、わずかでもあるに違いない。

 悪魔コースを選んだのはあたしだから、本当に申しわけない気持ちでいっぱい。

 リーダーとして、あたしがしっかりしなきゃ!

 ああ、悪魔コースが、こんなに過酷だとは!

「今回のミッションは……」

 ドキドキ。

 前回の銀行強盗の件も手伝って、緊張度マックスなあたしたち。

 ──お願いっ! 今度こそ、平和なミッションでありますように!

 あたしは多分無理であろうお願いごとを、心の中で必死に神様に祈る。

 しかし、その祈りもむなしく、先生の口から放たれたのは衝撃の言葉だった。

「出動せよ」

「「「また?」」」

 あのんちゃんたちの班を除くあたしたち3人の声が、まるで同じタイミングでかぶった。

 出動出動って、あたしたちは便利屋かいっ!

「今回のミッションは校内ミッションだ。南校舎4階で、天使エンジェルコースの学生ふたりが仲たがいだ。放っておいたら暴力事件に発展する恐れもある。話を聞いて説得、ただちに事態を鎮静化ちんせいかせよ」

「なお」と、先生は続ける。

「今回は天使エンジェル警察ポリスがいないかわりに、仁菜班とあのん班の合同ミッションとする。協力して挑むように」

 合同ミッション。あぁ、そういうことね。

 あのんちゃんたちがなぜか一緒にいるナゾが解けて、なるほどねって感じのあたし。

 あのんちゃんにはめちゃくちゃきらわれてるあたしだけど、今回ばかりはしょうがないか。他ならぬミッションだもんね。

「ふん。こんなの、なにも合同チームでやることじゃないんじゃなくって? キョウ、わたくしと一緒に行きましょ」

 あのんちゃんがキョウスケのうでをつかんで気だるげにそう言う。

「っておい……。なにもそういうわけにいかねーだろ」

 キョウスケは戸惑いがちだ。

「になさん、行きましょうか」

 あやみんがさり気なく話しかけてくれる。

 あたしはあやみんと現場まで向かった。


 ★ ☆ ★


 飛び交う怒号どごう

 さらに、あちこちから巻き起こる悲鳴。

「お前がオレを裏切るから!」

「お前がそんなヤツだとは思わなかった!」

 事態はあたしたちが考えていた以上に深刻だった。

 ふたりの男子生徒が大声で怒りながら暴れている。

 文字どおり取っ組み合いのケンカだ。

 ケンカを止めた生徒はケガをしてしまったらしく、そのケンカの激しさから、もはやお手上げの生徒や先生たちは、あたしたちがかけつけるのを待っていたらしい。

「あんたらねぇ、クラスメイトまで巻き込んで、なにもめてんの? 原因はなに?」

 ひとまずはあたしが、ふたりに声をかけてみる。

「てめぇはすっこんでろ!」

「てめぇはすっこんでろ!」

 すると、返ってきたのはみごとなまでのハモり。

 まさに聞く耳持たずって感じ。

「いったん落ち着いてくださいですわ」

「うるせぇ、優等生!」

 あやみんの言葉もまるで効果なし。

「落ち着きなさいよ」

「お前には関係ねーだろ!」

 あのんちゃんも声をかけてみるが、ふたりはケンカをやめようとはしない。

「悪魔コースだっていうから見に来たのにな〜。なんもしねーじゃん。帰ろ帰ろ〜」

 廊下では、あたしたち悪魔コースを見に来た野次馬たちが、明らかに期待外れって表情で、あきれたようにひとりふたりと自分の教室へと帰っていく。

「もう許さねぇ! 本気でなぐってやる! オレのプリン勝手に食いやがって、こいつ!」

 と、その時、片方の男子生徒がこぶしを振り上げた。

 は? プリン?

 ……天国ではプリンが流行ってるのかな?

 あたしは満月みつる校長先生と、使い魔を思い出した。

 ──って。そうじゃなくって!

 あたしは、とっさに間に入って、その振り上げられたこぶしをガッと右うでで止めた。

 スウ、と息を吸い込んで、叫ぶ。

「いーかげんに、しなさあああい!」

「おお!」とまわりから歓声があがる。

「あたしらはねぇ、ミッションの為に呼ばれて来たの。いわば仕事で来たようなもんなのよ。その仕事がこのくだらないケンカ? ふざけた理由でケンカしないでよ? ……っていうか、キョウスケも見てないで応戦しなさいよねっ! 以上」

 シン、と静まった教室から、拍手があがる。

 ふたりの男子生徒は、ケンカはやめたものの、この状況がどうやら面白くないみたいで。

「なんだと〜? 調子に乗るんじゃねぇよ、チビ女!」

「……なによ」

 ひとりが、あたしの手前まで来てあたしをじろじろと観察した後、あたしがつけているネックレス──おとんにもらったネックレスを、ブチッと引きちぎった。

「けっこう高そうな代物じゃん」

「やっ! ちょっと! 返してよ!」

「返してほしいんなら取り返せばいいじゃん?」

 背伸びして取り返そうとするが、届かずバカにされるだけだ。

 やだ! これ、タチの悪いヤツだ!

「返せよ!」

 と、その時、キョウスケが怒ったように叫んだ。

「くだらねーことしてんじゃねぇよ。女の子相手に」

「キョウスケ……」

 とくん。

 高鳴る鼓動。

 なぜだか胸が熱くなった。

 おとんにもらったネックレスのことは、キョウスケには言ってないのに……。

 ふたりの男子生徒は、完全にぶち切れてしまったようで、

「くそが! 返してほしけりゃ、地上に行ってとってこいよ!」

 と言って教室の窓から、ネックレスを【現世に通じる池】に投げ入れた。

「あたしのネックレス!」

 ミッションの途中だということも忘れて、あたしは、ダッ! とひとり無我夢中で教室を飛び出しかけていく。

「にな!」

「ちょっとキョウスケ!」

 背中で聞いた、あのんちゃんとキョウスケの声。

「行く気なの⁉ あんな子の為に、オキテ破りのキケンをおかすなんて……!」

「あいつはオレの大事な仲間なんだ! 放っておけねー! 意外といいヤツだから、お前ももう意地の悪ぃことすんな!」

 信じられない、そんな表情の、あのんちゃん。

「なによ……。最近のキョウスケってば、になになって、いくら同じ班でも桃井さんのことばっかり……っ!」

 あたしは気づかなかった。

 あのんちゃんが、燃え盛る炎のような瞳で、走り去るあたしたちの背中をにらんでいたのを。

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