✦第3話✦ 天使コースと、悪魔コース
──講堂。入学式。
──「なんであんたが隣なのよ」
「知らねぇよ、怪力女」
あたしは、さっき絡んできた黒と金の髪の男の子と隣の列だったのだ。
「ふつう缶ジュース受け取っただけであんなに盛大に中身ゼンブぶちまけるかぁ? カーペットびっしょびしょになってたぞ。めっちゃベトベトして気持ち悪ぃんだけど。まじで怪力だな。この、ゴリラ女」
「うっっっるさいわね! 誰かゴリラよ!」
「そこ! おしゃべり禁止!」
ヒソヒソと小声でケンカしてたら、なんか先生的な人に怒られた。
っていうか、あの銀のケープ。多分、あれはこの学園の先生だ。
男の子が「ちっ!」と舌打ちをする。
壇上では、ひときわ輝く金のケープを身に着けた校長先生のような人が、
「え〜〜〜っと、ワシの名前は、満月みつると申す。この学園の校長をやっておる☆ ちなみに、好物はプリンじゃ☆ ほっほっほー☆ 皆の者、よろしくなあぁ〜」
と、自己紹介をしてから、エンデビ学園について色々説明している。
あたしの通ってた小学校の鮫島コノキ校長先生とはえらい違いで、満月みつる校長先生は、頭がツルピカで背の低い、とても優しげなおじいちゃんの校長先生だった。
てゆーか、好物はプリンって、あたしの使い魔と被るんだけど。
「……なあ、怪力女。さっきは悪かった。確かに、誰かの物踏んだり、人に物投げつけたりするのは、サイテーなことだよな。後ろの、あやみ……っていったか? ごめんな」
意外や意外。男の子が素直に謝ってきた。
「……あやみん、聞いた?」
あたしは後ろに並んでいるあやみんに問いかける。
「大丈夫ですわ。バッチを踏まれたことは正直、腹が立ちましたけど、もう気にしてませんわ」
「……サンキュー」
バッチをぎゅうっと握りしめてそう答えるあやみん。
──クロンによると、トップ入学生の証だという金のバッチ。
あやみんは、バッチに深い思い入れがあるみたいに見えた。
男の子はあやみんに謝ったことで気が抜けたのか、ふわー、とあくびをしている。
……意外と、いいヤツなのかも?
あたしも昨日は、天国のホテル(安いとこ)に泊まって、まくらが硬すぎたせいもあってあんまり寝てないんだよね……。
男の子のまねをして、ふわああー、と大あくびをする。
「──我が学園では、
あたしは、うとうとと油断していた。
先生の口から発されたのは、ショーゲキの言葉。
「桃井にな!
「はああ⁉」と声を上げたのは、さっき絡んできた、隣にいる男の子だ。名前はまだ知らない。
「なんでオレがこの女と同じ班なんだよ⁉ 認めねーかんな!」
叫んだ男の子に対し、先生が「コラッ」と叱る。
カチンっ!
この失礼な男の子、キョウスケ、っていうんだ!
「なっ! あたしのセリフよ! 意味わかんないんだから! っていうか、なんであたしの名前を知ってるの⁉」
「さっきあやみに自己紹介してた時、オレも聞いてたんだよ! 怪力ゴリラは本当のことだろ! バーカバーカ!」
「なんですってえ!」
ぎゃあぎゃあと抗議するあたしたちに、もう一人の同じ班の仲間、あやみんはオロオロととまどうばかり。
「
満月みつる校長先生が、真面目なトーンで話を終える。
命に関わる⁉ って、あたしたちもう死んでるんだよね?
「ああ、そうそう。そこにいる、桃井にな班は、悪魔コース決定だから、カクゴしておくように」
「はあ⁉」
「まあ……」
「どええーっ! なっ、なんであたしの班だけ、悪魔コース決定なんですか⁉」
「怪力だからな」
「そんなのなっとくできませんっ!」
「その怪力を、役立てたくないのか?」
あたしの怪力が、役立つ……⁉
「……わかりました。あたしは、悪魔コースにします」
「はあ⁉ 何流されてんだよ、にな! オレは天使コースがいいんだけど⁉」
キョウスケが焦った様子であたしに抗議する。
それも当然だ。
誰だって命に関わるなんてキケンなこと、自分から進んでなんてしたくないだろう。
でも、あたしには悪魔コースを選ぶちゃんとした
それは。
「悪魔コースなら、この怪力が、先生の言うとおり役に立つかも知れないから。あたしの怪力が誰かのためになるなんて、そんなの、そんなの……」
──嬉しすぎる。
言葉にならないあたしの横で、キョウスケが言った。
「……まぁ、缶ジュースひねりつぶすくらいの怪力ゴリラだからな。わからんでもない」
ハッハッハと笑うキョウスケ。
「まだ言うか! このサイテー男子もとい、いじわる男子があ!」
あたしはキョウスケの胸ぐらをガッとつかむ。
……って。
「あやみんは? あやみんは、悪魔コースで、本当にいいの?」
──このチーム編成の結果を、変えてもらわなくていいの?
あたしとキョウスケだけじゃない。
あやみんも、同じ班なのだ。
あたしたちは3人1組だってこと、これからゼッタイに、忘れないようにしなきゃ。
もうこんな風に思えるあたしって、偉くないっ?
あたしと、あたしに胸ぐらをつかまれたままのキョウスケの顔を見比べてから、あやみんは遠慮がちに言った。
「私は、悪魔コースでも、天使コースでも、どちらでも構いません。でも」
「でも?」
「キケンを避けるだけのキョウスケくんより、キケンがともなうのを承知で、あえて自分の長所を活かして悪魔コースを選ぶになさんは、とても格好いいと思いますわ」
ぐっ、とキョウスケが胸をつかれたように押し黙る。
「……フン。お前が、リーダーだかんな」
「まっかせといて! じゃあ、この3人で、悪魔コース、頑張ろう!」
あたしは、「オーッ!」と、こぶしを天に突き上げた。
あやみんが、ふふふ、と笑った。
「……変な女。誰がなんと言おうと、怪力ゴリラだな、まじで。さっきここに来る時見た学園の売店でバナナ買ってやろうか?」
ドゴォ! とキョウスケに遠慮のないパンチをくらわす。
「いってぇ!」
──あやみんは可愛いし、優しいいい子だからいいとして、こんなやつと同じ班だなんて、ありえないから!
かくして、あたしの波乱の学園生活が始まったのだった。
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