第31話 答え合わせ

帰省は賛成だ。兄さんの結婚報告を機に四人で家族団欒するのも悪くない。仕事だっていいペースだしタブレットがあればなんとかなる。でも静を連れて行くのはどうなんだ。他人で、こんなややこしい事情の男を。

ただ、居候は兄さんのいる間だけと約束した。兄さんが実家で一泊するのなら居候は許されないということになる。静には一泊だけ友達の所にでも泊まってもらうか。


「まぁ、俺は今までも結構留守にしているのに、お前達は何も問題ないようだからな。俺だけ帰省してもいいかと思っている。連れて行くにしたって一番居心地が悪いのは静君だろうし、本人にも聞いてくれ」

「わかった、聞いとく」


私としては一番いいのは私と兄さん帰省して静は友達の所に泊めてもらう、だけど。今静に私から何かを要求するというのはあまりにも図々しい。贈ったプレゼントを忘れるような女なのだからそんな提案をできる立場じゃない。決めるのは静だ。





■■■





その日の夕方、帰省の土産を買いに行く兄と大荷物を持って帰ってきた静は入れ違いになった。

玄関に荷物を置いていく。服を取りに行ったという話だけど、旅行カバン以外に米袋や有名和菓子店の袋まである。


「望、これ母さんからお米。僕の滞在費だって」

「現物支給?」

「うん。それからお世話になったお礼のおまんじゅうもどうぞ」

「あぁ、これはご丁寧にどうも」


頭を下げて受け取るも、それが目に入る。クイズの答えがわかったのなら早いうちに答えた方がいい。


「静のクイズ、わかったよ。その今着ている長袖Tシャツだよね?」


それが答え。私が誕生日プレゼントに選んだもの。

多分私は当時の高校生的にはちょっとしたブランドもので、静が普段選んだものとはかぶりそうになくて、合わなきゃ部屋着にすればいいという気持ちでそのプレゼントを選んだ。


なのにその事を忘れた。

さらには朝写真を撮るとき『そのTシャツイメージと違う』なんて言った。

だから静はイラッとして、こんなクイズを出したのだろう。罪悪感が半端ない。


「ごめん。本当に私って最低で、怒られても仕方ない……」

「別に忘れたのは怒ってないんだよ。それだけ色んなものと迷ったからだろうし、普通はそんな物持ち良くなくてこうして着て来るはずがないし」


きっと大事に着てくれたのだろう。Tシャツは色あせてはいるものの、擦り切れたり伸びたりはしていない。


「ただ大人の望と子供の僕の、そういう差が悲しいってだけ。僕は記憶がなくて持っている服のほとんどが他人のものという感覚だったから。その中にある望からもらったこの服に救われたんだよ」


静は悲しいというわりに声も表情も普段どおりだけど、そこにちゃんと悲しみがあることを私は知っている。彼はマイナスな感情を絶対外には出さない。だからこうして言葉にするのだって珍しいくらいだ。

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