第30話 必勝法
「そもそもプレゼントって難しいよな。俺も今寧々の両親に渡す用のお土産を用意したけど、いっそあげない方がいいとすら思えてきた」
「そんな、きっと喜んでくれると思うよ。絶対渡した方がいいって。そういうのって気持ちだし」
「それを言ったら静君もそうだと思うぞ」
兄さんの場合は気持ちでいいけど、当時の私が気持ちでいいだなんて言い出すはずがない。
駄目だ、兄さんに嘘ついたってヒントなんて出そうにない。これはもう自分で考えるしかなさそうだ。
「とはいえ、俺には昔からのプレゼント必勝法がある。無難にしたいなら食べ物とか消耗品。ちょっと趣味がわかるならその趣味に近いけど確実に相手が持ってなさそうなもの。全くわからないけど仲良くなりたいなら自分の趣味で、でも気楽に使えるもの」
昔からの必勝法。となれば8年前にもそれを利用したはずだ。私は前のめりにそれを聞いて考える。当時の私と静の場合は最後のやつか。『相手の趣味は全くわからないけど仲良くなりたい』。昔の私ならそう思うはずだ。
「自分の趣味って、ゴリ押ししていいの?」
「相手の好みを知らないのはどうしようもないだろ。だから自分の趣味をゴリ押す。ただし一回は使うものな。小物とか、あえて自分の趣味じゃないものを持つのがいいって事もあるだろ」
「まぁ、自分じゃ買わないものだし。小物とかそういうものがひとつあればコーデがいいかんじになるよね」
兄の話も一理ある。趣味じゃないものをゴリ押し。なるべく役立つものを、と当時の小賢しい私ならそういう考え方をしそうだ。となれば衣料品か。帽子やカバンなどが考えられる。7月という季節的にマフラーやストールはないだろう。
ちょっと待て、また何かひらめきそうな感じがあるぞ。なんだろう、この『なんでこんな当たり前の事に気付かなかったの?』ってかんじな……
「あ……」
思い出した。そして猛烈に後悔する。
静がこんなクイズを出すわけだ。
「どうした? スープお前もいるか?」
「いや、なんでもない……」
「仕事、忙しいのか?」
「いや、そっちはめちゃくちゃ順調……」
兄はスープをよそい席につく。私はとんでもない罪悪感のせいで潰れそうになる。兄はスープを一口すすって深くため息をつく。それからとんでもない事を言い出した。
「なら良かった。明日と明後日の土日、望も一緒に帰省しないか? 寧々と一緒に結婚の報告をちゃんとするために」
「帰省……?」
「お前もけんげん連載してから帰ってないだろ。あぁ、勿論静君も一緒に」
「なんで静も一緒!?」
「居候の条件は俺だからな。俺のいない時の事を考えて、だ」
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