第28話 プレゼント

にこにこと静は自分から記憶確認について申し出る。静がやる気ならいい事だ。だがなぜだろう。なにか違和感がある。


「付き合って3ヶ月の6月までは話したよね。で次は7月。7月は僕の誕生日だった」

「そうそう。だから私、6月にバイトしてたんだよ」


6月にバイトと勉強のしすぎで私は倒れた。それも7月3日に静の誕生日があると張り切ったためだ。

お金を貯めて、それなりに彼女らしいものをプレゼントしたかった。兄に相談したりしてアリバイ作りも忘れない。


けど、あれ?


「嬉しかったなぁ、望からのプレゼント。僕も同じくらいのものを誕生日に贈り返そうとしたけど、望の誕生日は4月の付き合う前だったんだよね」


喜びを噛みしめるように語る静だけど、それとは対称的に私は青ざめていく。


私、静の誕生日に何を贈ったっけ?


また最低な事は自覚している。でも恋愛的に好きではない相手に絶対にいいものを贈るだなんて難しい。だから悩みに悩んで、何度も答えを変えて、そのせいで結局何を贈ったかも忘れてしまった。悩みすぎたからこそ忘れたんだ。


「ああいうもの贈られるのだって初めてでさ。親にも友達にも自慢しちゃったよ」


静の発言からその名前が出てこないか探ったけど出てこない。むしろ静は分かっていて言わないでいるような気がしてきた。

これは素直に謝ったほうがいい。


「ごめん。私、静に何をあげたか忘れた」


やっとの思いで震えながら言葉にする。記憶確認のためだというのに、唯一確認のできる私が覚えていないなんて。ここでも私は最低だ。でも言い訳をさせてほしい。


「いっぱい考えてたんだよ。予算が友達の誕プレ以上にしなきゃいけなくて、でも静セレブだから下手に高いものは贈ったって意味ないし、それで何度も変更してて、結局何を選んだか忘れちゃって……」

「だろうなって思ってた」


怒りもせずさっきからのにこにこ顔のまま静は言う。からかってたんだ。


「望、今日はそれを頑張って思い出してみてよ。僕が荷物取りに帰っているうちにね」


静はその言葉を最後に出て行った。

上から目線でそう言われるのはむかつくけれど、忘れた私としてはなんにも言えない。記憶喪失の静が覚えているというのに、私が忘れていて思い出さなくてはいけない。これじゃ本来の目的とは逆だ。


別にこんなクイズ答えなくてもギブアップすればいいけど、思い出せませんと言うのもシャクだ。そこまで彼女として人間としての最低最悪記録を更新したくない。

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