第27話 イメージじゃない

「今家に帰って大丈夫なの?」

「そんな心配しなくていいよ。母さんに着替えをボストンバッグにでも詰めてもらって、それを実家近くの公園のベンチにおいてもらって、僕はそれを回収するだけだから」

「なんでそんな犯罪めいたやり取りしてるの……」

「母さんがそういうの好きなんだよ」


真佐子さんの意外な趣味が判明した。しかしそれなら危ない目にはあわないだろう。安全のためならそれくらいしてもいい。


「未来の僕の買った服は他人の服借りたみたいで着心地悪かったけど、咲良さんに借りるよりは気楽だなと思って」

「そうだろうね」

「お金も用意してもらっているし、借りるのも申し訳ないからそろそろ未来の僕のお金を使うよ。望にもちゃんと返すから」

「いや、もう仕事ぶりで十分すぎるほど返してもらってるから。そうだ、また影武者の写真撮らなきゃなんだけど、いい?」

「うん。なら今のうちにお願い」


2回目なので慣れた様子で静は本棚の前へと移動した。壁紙からマンションを特定される場合もあるから、本棚を背景にするといいらしい。私はスマホと小道具の単行本を持ってくる。


「単行本で顔の上半分隠して。今日は上半身出すから」

「脱ぐ?」

「脱がなくていい。でも筋肉とかアピールしたけりゃいくらでもどうぞ」

「咲良さんみたいなの見てるとそんな気にはなれないよ」


それでも静は腕まくりして胸を張る。兄ほどではないにしても、いいかんじに腕の筋肉が見えているしいつもよりたくましい雰囲気だ。

それでも漫画家らしさはある。男性なのはちゃんとわかるし、静の顔も隠れている。しかし顔下半分だけでもイケメンとわかるのがすごいな。

あとは……


「ちょっと今の長袖Tシャツがイメージじゃないかな。まぁ兄さんの服よりはいいし、偏った感じが漫画家って感じがするけど」


ブランド名らしきアルファベットが入ったTシャツ。それは静の上品な雰囲気とはあわない気がする。でもある意味漫画家っぽいので別にいいか。

撮った写真はすぐ武田さんに送信しておいた。


「ところで望。今日の過去の記憶確認なんだけど」

「あれ、実家帰るんじゃなかったの?」

「まだ時間あるからやろう。今から思い出そう」

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