第25話 推理の穴
「あ、でも駄目だ。それなら事故後に名乗り出るよね。『私の彼氏が痴話喧嘩中に車に跳ねられちゃったんですー』くらい言うよね普通」
それが私の推理の穴だ。自称彼女達は自分が静の彼女であると信じている。ならば事故った後、ちゃんと付き添う。(自称)彼女なんだから逃げる理由なんてない。
静はその答えになるほどというかんじで頷いた。
「でもいい線いってると思うよ。僕も誰に追われたかはわからないけど。でもそこから僕は考えたんだ。安全な場所にいた方がいいって」
「誰かがまた静の所に来るってこと?」
「うん。そしたら記憶のない僕は丸め込まれるかもしれない」
家にいるのは危険。外に出るのも危険。だから静はうちで世話になろうと決めたのだろう。外出だってなるべく避けたほうがいい。ここにいて、私の世話を焼くのが都合いいということだ。
「そうか、静にも何が起きているのかわからない以上、こうしてうちにいるのが安全だよね。でもそれならなおさら記憶を取り戻さないと」
「うん。誰に追われたくらいは思い出したい。けど、ちょっとした目星もつけてある」
「目星?」
「事故当日は高校の同窓会だった。それに高校生の僕でもわかる推理で、僕の事を追いかけてもおかしくはない人がいる」
事態が急に動いた。静には読みがあった。それも中身高校生の彼でもわかるほどのわかりやすさのある相手だ。そんなのもう、元凶に決まっている。
「それは誰?」
「……その話、ちょっと長くなるなぁ」
「今話してよ」
「牛丼冷めちゃうから、また今度ね」
漫画だったらずっこけそうになる会話だ。しかしこうなると静は何も言わないのでため息ついて諦める。
思えば、静は私に何も話さない。わりと最近に起きた他愛もない事なら話すけど、子供の頃の話とかは全然しない。彼の中にはきっと話せないラインがあって、そこだけは絶対に触れさせない。人懐っこい雰囲気を持ちながら、付き合っていた私にも言わないようなことがある。
おそらくは事故当日、同窓会だったのだからそこに出席した誰かが元凶なんだ。だとしたら元凶は私の知っている人かもしれない。
気になるけど今聞いても無駄と悟って、私は食器の用意をするのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます