第24話 もしこれが漫画だったら



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醤油の香ばしい香りがして目が覚めた。

なんで朝からうちで醤油? と思いかけて寝ぼけていることに気付く。仮眠を取ったんだった。そして今は昼で静が昼食を作っているんだった。だから大体3時間くらい眠れたようだ。


それにしても静は私の世話を焼いている場合なのだろうか。キッチンに向かえば静は髪を束ねて慣れた様子でフライパンを揺すっていた。


「おはよう。ちゃんと眠れたみたいだね」

「おかげさまで。ねぇ、こんな事してて大丈夫なの?」

「うん? ご飯ならちゃんと炊けているけど」

「そうじゃなくて記憶の事。私も仕事あってなかなか付き合えるわけじゃないし、記憶を取り戻すために空き時間に別行動しとくとかさ。資金足りなければ貸すし」


静は居候として家事など色んな世話をしてくれているんだろうけど、そちらばかりに時間や気を取られてはいけないと思う。事故の元凶についてを聞いたせいだろうか。どうして静はこんなに平気そうに過ごしているのか不思議だ。


「静のお母さんから聞いた。あんたの事故って、何かに追われたせいであったものなんだって?」

「うん、そうらしいね」


ついでに作ったらしい味噌汁をかき混ぜながら静は答えた。静としては記憶がないのだからそう答えるしかないだろう。でも記憶がなくたってそんな状況だと知れば、怖くなるものじゃないのか。自分が追われてひどい目にあうかもしれない、誰かにひどい目にあわせたから追われていたかもしれない、と。


「真相を突き止めたいとは思わないの? もしかしたらまたその人に追いかけられるかもしれないのに」

「僕がその辺の女の子のお尻でも触って追いかけられたかもしれないよ」

「静はそんな事しない」


これだけははっきりと言える。静は人を馬鹿にしたりしないからそんな事はしないだろう。その信用に静はびっくりしたのか、少しだけ目を見開く。そしてにへらっと力の抜けた笑みを見せる。


「……望は漫画家だからかな。真相を知りたいと思ってしまうのかもね」

「そうかも」

「ちなみに望だったらどういう展開の漫画にする?」


追及しすぎた事を咎められると思ったけど、そんな事はないようだ。静は私に漫画家ならではの答えを求める。静が事故にあった原因、追いかけた人・元凶。それを漫画にするならどう組み立てる?


「……確か、静には自称彼女がいっぱいいるんだよね。追いかけていたのはその彼女達の誰かだとする。とすれば自称彼女は別れないでと静にすがりつく。ちょっとした接触で静は相手に怪我をさせてしまうかもしれない。だから逃げた。それで事故った、とか」


我ながら現段階で一番辻褄の合う答えだ。静は優しい。ていうか悪い言葉をはっきりと言わない。なので自称彼女がいっぱいできてしまったし、それをうまく断れない。相手が女の子なら腕にすがりつかられたのを払うのなんて簡単だけど、それをすると怪我をさせてしまう。となれば逃げるしかないが、別れたくない(と思っている)女の子は必死にそれを追いかけてしまう。

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