第23話 寝るまで監視

「望はこの前も似たような事で学校で倒れたよね。テスト勉強とバイトが重なって。その時にも保健室で寝るまで見張ってたよ」


つい最近のように語るその話は私にとっては8年前の話だ。静にとっては確かに最近だろうけども。

当時、優等生を演じていた私は勉強を頑張っているのは当然のこと。それにパン屋でアルバイトもしていた。それも静の誕生日プレゼントと夏休み中のデート費用のためだ。

でもそんな生活のせいで学校で倒れてしまった。そして回復するまで監視された。あれをまたやるというのか。


「ほら、さっさと楽な格好して。スマホも電源切って。昼まで寝なきゃ許さないから」

「昼までってお昼はどうするの」

「昨日咲良さんに材料いっぱい買ってもらったから僕が作るよ。昨日の肉豆腐に肉追加した牛丼の予定」


そうだった。昨日静が作ってくれた肉豆腐はとてもおいしかった。それを思い出すだけで胃が動く。胃が動けば血が胃に行くくすると頭の血が減り眠くなる。

私は力ない足取りで自室に向かって歩いていた。


寝室は仕事場を兼ねている。私が着替えてベッドに入る頃には静が仕事用の椅子に座りベッドサイドにやってきた。


「本当に寝るまで監視するんだ……」

「するよ。今更僕が襲わないか心配とかは言わないよね?」

「言わないよ。あんたはわけわかんない奴だけど、そういう信用はある」


だからこうして私も異性であろうと居候を許すし、付き合っていた時も何もしないという信用がずっとあった。静は私に気持ちがないと知っているから何もしない。私もそういうところにすっかり安心して一緒にいて居心地が良かった。


「それにしてもこの部屋、初めて見たけど良くないよ。仕事部屋と寝室が一緒だなんて。望みたいなタイプはずっと仕事してそうで良くない」

「しょうがないよ、がんばらないといけないんだから……」


最初は兄との血の繋がりを指摘されたくなくて頑張っていた。次は静の完璧な彼女になって兄を安心させるために頑張った。その次は優等生でなくても兄に張り合うために漫画家として頑張った。そして今は……


今は、何のために頑張っているんだっけ。

その事を考えようとしたはずなのに、完全に眠気に支配された。


 

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