第19話 匿ってあげて
『もしかして中原望さん?』
だけど電話向こうの静母は冷静に私の名前を言い当てた。私は名字しか名乗っていないはずなのに。
『昔静と付き合っていた子でしょう? 覚えているわ。静もよく名前を出してくれたし遊びに来てくれた事もあったもの』
「あ、はい。ご無沙汰しております……」
普通の電話会話になってしまい色々と考えていた内容がふっとんでしまう。モテるであろうイケメンの息子の高校生の時の彼女なんて、母親は覚えているものなんだろうか。確かに付き合っていた時に家まで行ったりしたけど。静も家族相手に名前を出していたなんて。
『今漫画家なんですってね。静の部屋に漫画があるの見たわ。今度アニメ化もするらしいわね』
「そう、みたいですね。ええと、静君からここに来るということは、お聞きしていたのでしょうか?」
『聞いてないのよ。でもあの子なら友達の家にいるんじゃないかと思って、とくに心配はしていなかったの。その友達だって親が知っているのは数少ないし、すぐに見つかるかと思って』
すごく過保護と見せかけて放任主義。しかもこんな状況だというのに声が弾んでる。まぁ、そういう癖のある両親に育てられたから静も今あんなかんじなのかもしれない。この状況を悲観的に見られているよりはずっといいけれど。
『とりあえずだけど、静は今家に帰って来ない方がいいから望さんが預かって下さると助かるわぁ。あ、でも望さん彼氏は? いたら邪魔になるわよね』
「彼氏はいません。でも兄がいるのでその期間だけ滞在を許すとのことなんですけど、帰らない方がいいだなんて、ご実家で何か……?」
『ちょっとね。静の彼女を名乗る女の子がわんさか来ちゃって。今静がいるとややこしいからそのまま匿ってあげて』
軽い調子で語られるのはとんでもない状況だった。その事は静の口から冗談半分に聞いていたけれど、そんな軽いものではなかったようだ。
『誤解しないでね。静がいい加減なことしているわけでなくて自称彼女だから。その自称彼女達で静が私達に名前を一度でも出した子はいないから。押しの強い子ばかりで本当に自分が彼女と思い込んでいる子もいるし、これをチャンスと思っている子もいて……だからこそ静も参っているんじゃないかしら』
「そんなに、ですか……」
自分のスマホを使いたがらないというのはそのせいな気がした。重要な情報源だというのに、その中身と現実があまりにも繋がっていない。あまりの情報量に知るのが怖いとすら思えるかもしれないい。でもパスワードのかかったスマホくらいは信じていいのに。
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