第17話 綿密なアリバイ作り
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朝食掃除洗濯を終わらせて、私と静はまず影武者としての写真を撮り始めた。撮影場所はリビング。なにかが写ってはいけないから私の部屋よりいいだろう。
けんげんが掲載された月間少年ファイト最新号と静の手を画面内に収める。
「まずはピースしてみて。なるべく背景や反射が写りこまないようにね」
「アリバイ作りも大変だなぁ」
こうして撮った写真を編集さんに送っておく。あとはいいかんじに公開されるだろう。手の写真を公開したってそれが私のものとは限らない。でも皆が静の手を私だと思いこむ。嘘じゃない。皆が勝手に勘違いをするだけだ。
それからリビングの椅子に向かい合わせに座って語りだした。
「昨日どこまで話したっけ?」
「付き合い出して望がお弁当作ったり作られたりした話だよ」
「……じゃあ5月の、初デートの話でもしておく?」
こっ恥ずかしい記憶の扉を開くのは気がめいるが、これも静の記憶の確認をし、記憶を取り戻すきっかけ作りのためだ。
5月と言えばゴールデンウィーク。付き合いたての恋人ならばゴールデンウィークにデートをする事もあるだろう。5月には修学旅行もあったけど、その班決め予定決め時には付き合ってなかったのであまり恋人らしい事はしていない。
「ていうかデートでもないよね。私の家の近所のカフェに行くってだけだし」
「そうそう、僕が望の話に興味持って、ここは連れて行ってもらうという口実でデートしたかったんだよ」
デートの始まり。それは当時大学生でバイトの初給料をもらった兄にパンケーキをごちそうしてもらったという話だった。静はそのパンケーキの話にやけに食いついていた。当時は甘党だと思っていたけど、あれはデートしたかったのか。
「その時望の家で待ち合わせだったから、咲良さんとも初めて会えたよ」
「アリバイ作りに付き合ってくれて感謝」
「それからカフェに行って……うちの母が風邪引いたって話をしたら、望の様子が変わってデート中止になって」
「……いや、こればかりは大人になっても正解がわからないわ。普通はデート中止しないみたいだけど」
「風邪だからねぇ」
静も今となってはその判断が正解かどうかわからないらしい。ちょっとしたデートはちょっとした事情で中止になった。静の母が風邪引いて寝込んでいる、という話を聞いて、『なにやってんの、デートしてる場合?』と私が言ってしまったから。
実際の平均的なカップルなら家族の風邪くらいならデート中止しない、と思う。でも病院に運ばれる程ならば中止で当然だ。
しかし静のお父さんは仕事人間で家庭の事はあんまりだそうなので、静もなんでもできるが面倒見のいいタイプではないので、帰して良かった気もしている。
なによりこれはアリバイ作りのデートだ。私は華奢な王子様タイプの男の子と恋して、ごつめの義理兄なんかに全く興味はない、というアリバイ。
私としては兄と静が対面出来た時点で解散してもよかった、という最悪な事を考えていた。
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