第16話 影武者
「僕、お世話になっているからには何か作りますよ。お安く手早くはレパートリーそんなにないですけど、時間だけはありますから」
「じゃあたまにはお願いしたい。もちろん記憶を戻すの優先だが」
そんな話をする静と兄だけど、私は一つ思い出した事がある。一晩眠って考えた話だ。
「待って。滞在費代わりというなら、静には影武者やってほしいんだけど」
「影武者?」
兄が聞き返した。ここでは私は昨日編集さんとした話を兄にもする。
「静には写真で私のふりをしてもらって、中原望は男性漫画家という事にする。昨日はそんなの別にいいと思ってたけど、兄さんが結婚するからには寧々さんや未来の甥姪が巻き込まれたら嫌だから」
今まで私のアンチに対してどうせ何もしてこないと思っていた。でも兄さんが結婚して関わる人が増えて、守らなくてはならない人が増えたならそうは思っていられない。もしもがないようにできる限り可能性は減らしておきたい。
『中原望は男性漫画家』とすれば、アンチがいなくなるわけではないが実生活まで攻撃しようとする人間は減るはだろう。
兄さんはその事に感激しているようだし、静も言い出しただけあって安心したようだった。
「いいよ。どういう写真にする?」
「とりあえず手元の写真だけでも撮らせて。それを雑誌広報アカウントに載せてもらうから。兄さんも私の仕事の話は内緒にしといてね。在宅のデザインとかの仕事でごまかして」
これから漫画家中原望は男性とする。そうなるとどこからバレるかはわからないので家族にもごまかしてもらわなくてはならない。
「望は友達に漫画家って事は言ってないの?」
「あんまり。漫画家目指したの遅いし、知ってるのは夕海くらい?」
「ユウミちゃんって、僕の友達の大塚の彼女だった?」
「そう。あれから一番の親友だから、それもあんたのおかげかもね」
彼氏の友達の彼女だった夕海。それを彼女同士というわけで仲良くし始めて、あれこの子めちゃくちゃ気が合うなと思い、お互いが彼氏と別れたが私達の交流は未だに続いている。私が漫画家している事を知っているのも夕海だけだ。だから家族以外では夕海に口止めしてもらえればいい。
「静、朝ごはん食べたらまた思い出すのを付き合うよ。写真撮影もしてね。それから私は原稿作業に入るから」
記憶喪失の元カレや結婚を控えた兄など色々あるけど、仕事もしなければいけない。とくに連載中のけんげんのネームでOKをもらったからには下書きを始めなくては。原稿作業をするのは夜の方がいいから、朝のうちに厄介事を終わらせておく。
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