滞在二日目、五月の話
第15話 手料理
静滞在二日目。
朝は各自起きてきて、昨日の寿司の残りや和菓子の残りなど適当に食べた。
「この家、誰も食事を作らないの?」
兄に借りたぶかぶかな部屋着を着て、静が尋ねる。その顔色はやたらいいので記憶喪失中であってもよく眠れた様子だ。
「味噌汁なら作ったよ」
インスタントのを私がお湯を沸かして作った。まぁ静が聞きたいのはそういうことじゃないんだろう。
「うちはあまり作らない。栄養やコストや満足度を達成した料理なんて、日々の生活で負担でしかないからな。さすがに買うと割高なものや野菜を貰ったりして時間があれば自分で作るが」
兄はぎろりとした目で静に答えた。文句があるなら食べるなという視線だ。
うちは親が共働きで家庭料理はできればすごい事とするが、それが大事という家じゃない。頼れる時には外食冷食を頼るし、おいしいものが食べたければプロを頼るのが一番いいとしている。
昔はそれってどうなんだと思ったこともあるけれど、こうして働いてみるとよくわかる。料理とは美味しさだけではなく、安く素早く作るには別のテクニックが必要だ。
「いいと思います。僕もわりと作るけど趣味の範囲で、コストかけまくりですから。そうなると同じ料理とはいいがたいですよ」
「静君、中身は高校生なのに料理をするのか。その若さでその考え方はとてもいいな。ご家族にも喜ばれるだろう」
「喜んでくれたかはわからないですけどね。望が付き合ってた時にお弁当を作ってくれたのがきっかけみたいなものなので」
ほお、と兄は関心の声を返す。静は私が兄に恋愛感情を抱かないよう、アリバイ的に静に告白した事などほぼすべて知っている。それを告げ口するつもりはないらしい。
なのでアシストとして、今わざわざ話題にしてくれるようだ。兄が結婚した今アリバイ作りはもういらないというのに。
「そういえば昔に望が作った弁当を味見したな。料理を普段しないわりにはおいしかったが、静君には無理をさせてしまったのでは……」
「そんな事ないですよ。僕は望にお弁当を作ってもらうまで、手料理を当たり前のものだと思っていたので。味や色に偏りのあるお弁当でも、望が苦労して作ったであろうことは伝わりました」
偏ってて悪かったな。
でもそんな偏った弁当を知ったからこそ静は手料理のありがたみを知ったのかもしれない。静の母には一度会ったことがあって手料理をごちそうしてもらったけど、とてつもなく料理上手だった。それがいつも食卓に並んでいれば人間は皆そういうものとして思いありがたみがないのかもしれない。
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