第11話 泊まり決定
現実でかくかくしかじかとしても伝わるはずがない。なのでそこから静が自ら説明をしだした。あまりにも手慣れた説明なので本当に彼が記憶喪失なのか疑いたくなる。
「なるほどな……記憶喪失なんて災難な」
「それで、しばらくの間こちらでお世話になれませんか?」
「いいぞ」
いいの!?
まさか兄がそんな事を言うとは思わず私だけが面食らう。
「ちょっと兄さん。この人他人なんですけど。それも音信不通だった元カレなのに」
「信用できる元カレだからな。あぁ、もちろん部屋は俺の部屋に泊まらせるし、俺が日本にいる間の話だ」
信用? 一度しか会った事のないような妹の元カレをどうして信用するんだ。兄は過保護で、私が一人暮らししようとしてもついてくるほどなのに。
「これは俺の長年の推測だから違うなら今否定して欲しいんだが、望は静君と別れてから漫画に打ち込んだだろ?」
「うん」
「だから静君は望と別れてでも夢を応援するため背中を押し、結果望は漫画家として成功した。それはなかなかできることではない。そう察していて、そういうところを信用してるんだ」
それは合っているようなズレているような推測だ。でもまぁ合ってる。合っているという事にしたい。
私は静のおかげで成功している。それが兄には自分の好意よりも彼女の夢の味方をした彼氏ととったのだろう。
「外したか? まさか暴力でも振るわれたならこれから合法的な報復をするぞ」
「ううん、合ってる。暴力も振るわれていない」
「ならいい。静君、しばらくよろしく頼む。俺もまた留守がちになるからいてくれるだけで助かる」
なんてことだ。あまりの事に気が遠くなる。兄の静の信頼度が高い。もしくは私の心配のせいか。確かに二人で暮らしているとはいえ兄はほぼ海外暮らしで、アンチのストーカー騒ぎも知っていて、また留守がちになるから静でも頼りたいんだろうけど。
「あれ、せっかくやっと帰ってこれたのに、まだ忙しいの?」
兄はいつも出張が終わってしばらくはのんびりとしているはず。さすがに時差ボケなどのある中働かされたりしないだろう。なのに留守がちとなる?
「あぁ、寧々と結婚する事になって、挨拶回りや準備があってな」
きいんと耳鳴りのするような、そんな感覚があった。そののち祝いたい気持ちがわいてくる。
「お、おめでとう! ついに、だね!」
「あぁ、何度か望を喧嘩に巻き込んで悪かったな」
「私、『寧々義姉さん』って呼べばいい?」
「普通に今まで通り『寧々さん』でいいんじゃないか?」
良かった、色々あったしお互い忙しいから心配していたけど、無事まとまったんだ。
「えっと、ケーキとか買う? あ、でもお店じゃもう開いてないかな」
「なんかくれるならコンビニで買える日本っぽいのがいい。大福とか」
「わかった、買ってくるね!」
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