第5話 謎

学生の頃の私なら、ドキドキしてしまったのかもしれない。


でも、もう私も、いい歳の大人だ。

さっきの可愛いという台詞は、秀人のささやかな巧言だ。

ここは、気持ち良く受け取ろう。



それに良美は知っていた。

親友の千賀子から、ずっと前に聞いていた。


「秀人さん、結婚したらしいわ。噂によると、秀人さんが積極的にアプローチしたらしいの。あの、秀人さんがよ。奥さんも、とても良い方らしくて、理想的なご夫婦だと聞いたわ」


秀人さんなら、素敵な家庭を築いているだろう。ちょっと羨ましい気もした。

でもそれ以上に、秀人が幸せになっているのが嬉しかった。



その日2人は、連絡先を交換し、それぞれの帰路についた。



…今度、パートナーを見つけるなら、やはり秀人さんのような優しい人がよいな。


「ただいまー。遅くなっちゃった」

夕御飯の支度は、とっくに終わっている母は、心配していたようだ。


「何かあったのかと、心配していたのよ。連絡くらいくれればいいのに」

「ごめん、ごめん」

「どこまで遠くに出掛けたの」

「お母さん、覚えているかなぁ。中学の同級生だった、曽根秀人さん。ばったり会ったのよ」


心配する母にそう伝えた。

曽根さん、曽根さん……と、小声で呪文を唱えるように呟くと、思い出したようだ。


「……あの、味噌屋の曽根さん?」

「そうそう、あの味噌屋の曽根さんです(笑)」

ちょっとふざけた調子で言ったのだが、母の反応は、いまいちだった。


「……良美。曽根さんもお忙しいでしょうから、そっとしておきなさいよ」

「?」

「あまり関わらないように、ね」

「何、それ?」


母は、早く晩御飯にしましょうと言って、

その話はそれきり終わってしまった。


夕御飯も食べ、お風呂に入り、すっかり寛いだ頃、自分の部屋に戻った良美は、秀人の事を思い出していた。



靄のかかったような、母とのやり取りも。


~あまり、関わらないように~

なんとなく、しっくりこない。


別に、お母さんに友達の事を言われてもなぁ。


ふと、良美は親友の千賀子を思い出した。









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