第16話 ナギナギの実と多重影分身の術
わたしたち四人だけでのMV作り。
まずはてんこちゃんの家に行って、レコーディングの進捗状況を確認します。
ちなみに、MVの内容は小学校で人気の曲の『歌ってみた動画』に決定しました。
本当はオリジナルソング、『オリソン』を作りたかったんだけど、一から曲を作るのは大変みたい。それはそうだよね……。
だから四人で相談して、人気の曲をてんこちゃんがカバーして歌う、『歌ってみた動画』がいいってことになりました。
「てんこちゃん、作業は進んでいる?」
わたしは、いつもてんこちゃんが配信している部屋のふすまを開けようとします。
しかし……。
「あれ、開かない……。てんこちゃーん!」
わたしは何度も、てんこちゃんの名前を呼びます。
部屋には、確かにてんこちゃんがいる気配がするのに、ふすまという扉を閉ざして、中から出てこようとしません。ど、どうしてだろう……。
わたしが途方に暮れていると、急にふすまが開きました。
「あれ、ゆいかちゃん! いつ来ていたんだコン?」
「いつって、ずっと呼んでいたんだよ!」
「それはごめんコン。実はさっきまでレコーディング中で、防音の結界を張っていたんだコン」
「えっ、そうだったの?」
「だから、ゆいかちゃんの声が全く聞こえなかったんだコン」
そういえば、プロのアーティストがレコーディングするとき、ガラス張りの部屋の中で歌っていたりするよね。
今のてんこちゃんの姿を見ると、耳に黒いヘッドホンを付けていました。
プロ意識が高すぎるよ……。でも、それだけ本気ってことだよね!
……ってあれ? てんこちゃんが付けているヘッドホンの位置、わたしと同じ人間の耳のところなんだけどっ!? てんこちゃんの耳って、頭の上の白い三角じゃないの?
耳が四つ……。ううん、知らない方がいいこともあるよね……。
とりあえずわたしは、てんこちゃんの邪魔をしてしまったみたい。
「あと少しで、レコーディングは終わるコン」
「もう!? 残りも頑張ってね!」
「まつりには負けないコーン!」
レコーディングの現場からは以上です。このまま、次の現場に行くよー!
* * *
次はイラストを描いている、まつりちゃんのお家。
まつりちゃんの作業は、『歌ってみた動画』で歌う元の曲のMVをみて、てんこちゃんバージョンのイラストを何枚も描くこと。
「まつりちゃん、イラストは描けている?」
わたしは、まつりちゃんの部屋のふすまを開けました。そこには。
「ええっー、まつりちゃんが四人もいる!?!?」
丸いちゃぶ台に二人、二箱あるみかん箱にそれぞれ一人、合計四人のまつりちゃんがタブレットでイラストを描いています。
「「あ、ゆいかちゃん、今頑張ってイラストを描いているポコ(ね)!」」
「二人同時にしゃべらないでよ! 声がハモっていて頭が混乱するんだけど!」
「あ、ごめんポコ。次は気を付けるポコね」
ちゃぶ台で作業していた、まつりちゃん(A)が謝ってきます。
「それにしても、まつりちゃんって分身もできたんだね……」
「これくらい、朝飯前ポコね!」
自信満々に答えるまつりちゃん(A)。わたしは一つの疑問がわきます。
「まつり先生ー、五人以上には分身できないんですか?」
「で、できるには、できるポコだけど……」
別のまつりちゃん(B)が口ごもりながら答えます。
「五人以上の分身を作ると、一人は遊び始めるポコね……」
「そうなの?」
「そして、一人遊び始めるとずるいってことで喧嘩しちゃうポコ……。アタシの今の実力だと四人が限界ポコね……」
「四人でも十分にすごいよ! だって作業時間が四分の一ってことだし!」
今までの謎が解決したかも。紙芝居とか作るのが得意なはずだよ。
「ゆいかちゃんにそう言われると、照れるポコね……」
わたしのほめ言葉に、四人のまつりちゃんの手はピタッと止まっていました。
「あ……」
イラスト製作の現場からは以上です。こっちもわたしがいると作業が止まっちゃうよ!
こうしてわたしは二人の所を訪ねてみたけど、それぞれ得意な【あやかしの力】を使って作業しているみたいだね。何も問題なさそう!
実はここだけの話、わたし、少し不安だったんだ。二人が喧嘩しないかどうか。
最初はお互いに文句を言い合っていたし……。
でも、急にぱたりとそれが止んだんだよね……。
今ではライバルに負けじと頑張っているし……。
二人の間にいったい何があったんだろう。すっごく、気になるんだけど……。
* * *
最後はわたしと奏ちゃん。
わたしたちは、二人が完成させた楽曲とイラストを元に、てんこちゃんの家の一室を借りて作業しています。
【あやかしアプリ】は本当にすごいんだよ! わたしでも動画編集ができているんだから! 奏ちゃんの方もしっかりとアプリを使いこなせているみたい。
もちろん、全て自動でやってくれるわけではないから、苦労しているところもあるよ。
でも、【あやかしアプリ】は使う人の想いを、現実という形にしてくれるものだったんだ。
奏ちゃんは【音楽家の卵】。
わたしは【VTuberマニア】。
それぞれ得意なこと。【あやかしアプリ】に絶対に必要な完成のイメージはばっちり。
わたしたち二人の想いなら、プロにも負けないよ!!!
「最後は、わたしが頑張らないとっ!」
仕上げとして、動画編集のわたしがみんなの努力の結晶を一つにまとめます。
そして、ついに――。
「で、できた……っ!」
わたしのパソコンには、一つの動画ファイルが出来上がっていました。
「四人で作った、『歌ってみた動画』が完成したよっ!!!」
わたしたちはついに、MV作りを成し遂げたのでした。
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