第17話 セコンしてますか?(⇔そのスピードがPOCSOK品質)
「かなでちゃんが、どうしてここに……!?」
不審者の正体に、わたしは驚きを隠せませんでした。
「あ、ゆいか……。助けて……」
「うん。今すぐに助けるよ!」
わたしはすぐに、かなでちゃんの体に巻き付いていた縄をほどきました。
「かなでちゃん、大丈夫? 怪我はない?」
「うん、大丈夫」
「それは良かった」
わたしたちは、お互いに抱きしめ合いました。
しばらくして、わたしたちは体を離し、落ち着いて話し始めます。
「でも、どうしてかなでちゃんがここに?」
「それは……」
「それにかなでちゃんは、普通の〈人間〉で、てんこちゃんやまつりちゃんの存在は認識できないはず……」
わたしは、気が付いていました。
かなでちゃんが、てんこちゃんやまつりちゃんの存在をしっかりと認識していることに。
本来、〈獣人〉の二人は、買い物とか、特別に〈人間〉と接触する以外、わたしにしか存在が分からないようになっています。
だけど、かなでちゃんの視線の先は、しっかりと二人の目を捉えていました。
それに、てんこちゃんの家も、普通の〈人間〉には、認識することができません。
事情を知る者以外には、ただの空き地にしか見えないの。
なのに、かなでちゃんは 普通にてんこちゃんの家に入ってきた。これって……。
「てんこちゃん! まつりちゃん! かなでちゃんもわたしと同じで……」
わたしの疑問に、二人はきちんと答えてくれました。
「驚いたコン……。彼女もゆいかちゃんと同じ力を持っているコン……」
「彼女も、【識の神(しきのかみ)】の力をもっているポコね……」
「やっぱり……」
かなでちゃんの持っている力を知って、言葉を失うわたしたち。
だけど当の本人は、いたって普通にしていました。
「この二人が、ゆいかが最近、遊んでいる人たち?」
「あっ、うん……」
「すごく、変わった容姿」
「だ、だよね……。あはは」
かなでちゃん、二人を見ても、全然驚いていないんだけど。
そして、かなでちゃんはなに食わぬ顔で、〈獣人〉の二人とも話を始めるのでした。
「いつも、ゆいかがお世話になっています」
「こ、こちらこそ、ゆいかちゃんから、かなでちゃんのことは聞いているコン」
「いつも、ゆいちゃんと仲良くしてくれて、ありがとうだポコね!」
ってなんで、保護者的な話をしているの?
わたし、そこまで子供じゃないよ!
それに、かなでちゃんと二人は、もう仲良くしているし。
こっちは、小学校一年のときからの友達なんだよ! ……今は喧嘩中だけど。
わたしは、すぐにかなでちゃんに言わないといけないことがありました。
だけど、怖くてそれが言い出せず、別のことを聞いてしまったの。
「ど、どうして、かなでちゃんは、てんこちゃんの家に来たの?」
「それは……」
そして、わたしの想い、かなでちゃんに先を越されてしまいました。
「ゆいかに謝りたくて」
「えっ」
「謝りたくて、通学路を戻っていたら、ゆいかが知らない二人と話しをしていて、この家に入っていくのを見て」
「そうだったんだ……」
わたしが、二人と会っていたところを見られて、跡を付けられてしまったみたい。
あとは、かなでちゃんも【識の神】の力を持っているから、この家の中に入るのは簡単だよね。以前のわたしと違って、てんこちゃんの防犯設備に捕まってしまったけど。
「ゆいか、ごめんなさい。私、ゆいかのことが羨ましくて、強く当たってしまった」
「ううん、かなでちゃんはなにも悪くないよ。わたしの方こそ、最近一緒に遊んでなくてごめんなさい」
「それは大丈夫。ゆいかが頑張っているの、私知っていたから。ゆいかのこと、私は応援したいし」
「うっ、かなでちゃん、ありがとう……」
かなでちゃんは、遊ぶ回数が少なくなっていたことに、怒ってはいなかったみたい。
だったらなんで……。それに、わたしが羨ましいって、どういうこと?
そのとき一つだけ、わたしは、心当たりが思い浮かんだの。それはわたしが、てんこちゃんやまつりちゃんとコラボをしたときに、必ず書き込まれていたコメント。
わたし、【ゆいか】のファン第一号のその人は、以前、こんなコメントを残していたよ。
『ゆいかは夢を叶えていてうらやましい』
コメントだから、当然、その人の顔は見えなかったの。すごくぼやけていて。でも、その先は悲しい顔をしていて。きっとその人にも夢があって、それが叶ったらいいなー、って思ったのを覚えているよ。
その人の名前は〈弁当ベン〉さん!
ぼやけていたその人の顔が、今はっきりと分かったよ!
「もしかして、かなでちゃんが〈弁当ベン〉さん?」
「うん」
「やっぱり、そうだったんだ」
わたしのファン第一号の人は、ずっと隣で、わたしのことを応援してくれていたの!
それに今なら、かなでちゃんが〈弁当ベン〉さんな理由も、はっきりと言えるよ。
〈弁当ベン〉さんの元ネタはもちろん、音楽家の『ベートーヴェン』。
そして、『ベートーヴェン』の有名な曲は『交響曲第九番』。
かなでちゃんの名字は『九条』だから、きっとそこから取ったんだよ。
音楽が好きな、かなでちゃんらしいネーミングだね。
ちょっとセンスは、あれかもしれないけど……。
「そっか、かなでちゃんが、わたしのファン第一号の人だったんだ。嬉しい!」
「たまたま、〈白雪てんこ〉の配信を観ていたら、ゆいかの声が聞こえてきてびっくりした。一発で【近衛ゆいか】だと、私分かったから」
「そうだったんだ」
衝撃の事実、発覚だったね。でもこれで、かなでちゃんが怒っていた理由も、悩んでいた理由も分かったし、その解決法も今ちょうど思いついたよ。
だけど、その前に一つだけ、きちんと言いたいことがやっぱりある!
「かなでちゃん、あらためて、ごめんなさい!」
「ゆいか、私の方こそ、急に怒ってごめん」
「ううん。全然、気にしてないよ!」
「私も気にしてない」
お互いの顔に、笑みが溢れていました!
これでばっちり仲直り。明日からは元通り……。
ううん、違うの!
かなでちゃんも、わたしと同じ【識の神】の力を持っていることが分かったから、さらにわたしたちは前に進めるはず!
「てんこちゃん、まつりちゃん、ここにいる四人でやりたいことがあるの」
わたしは置いてけぼりにしていた、てんこちゃんとまつりちゃんに、ある提案を持ちかけます。
これがわたしの、とっておきの解決法だよっ!
「わたしたち、四人『だけ』で、MVを作りたいの!」
大、大、大計画の始動ですっ!!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます