第16話 侵入者の名は。

「どうしよう……、かなでちゃんと喧嘩しちゃったかも」

 わたしは一人で、小学校の帰り道を歩いていました。

 いつもは、小学校から帰り道が別れる十字路まで、朝も夕もずっと、かなでちゃんと一緒に歩いていたのに。今日は、下校前のホームルームが終わると、かなでちゃんは、すぐに教室から出て行ってしまいました。

 やっぱり怒っていたんだよ、わたしに。

 でも、怒らせるようなことをした記憶がないよ。

 せめて、なにに怒っているかぐらいは教えてほしいよ……。

 とぼとぼと歩いているわたしに、声をかけてくる二つの人影がいました。

「ゆいかちゃん、どうしたんだコン?」

「ゆいちゃん、元気がないポコね……」

「あっ、てんこちゃんにまつりちゃん……」

 十字路でかなでちゃんと別れるまでは、姿を現すことはないんだけど、さすがにわたしの様子がおかしいからか、心配して出てきたみたい。

「ごめん。明日コラボする元気が出ないかも……」

「ええっー、何でだコン?」

「何か悩んでいるんだったら、アタシが話を聞くポコよ!」

「ぼ、ボクも聞くコーン!」

 二人とも、優しくてイケメンだよ。

 もし二人が女の子じゃなかったら、わたし惚れているかもしれないね。

「お言葉に甘えて、二人に相談してみようかな……」

 そして、てんこちゃんの家へと、場所を移します。


       * * *


「――というわけで、かなでちゃんと喧嘩しちゃったんだけど、理由が分からなくて……」

「かなでちゃんは、いつもゆいかちゃんと一緒にいる、〈人間〉コンか?」

「たしか、かなちゃんは、ゆいちゃんの大親友だったはずポコね!」

「うん、そうだよ」

 てんこちゃんの家のリビングで、ちゃぶ台を挟んで三人で正座しています。

 わたしは今までにあったことを、二人に説明し終わりました。

「それで、二人に相談したいことがあるんだけど……」

 わたしは、大事な話を切り出します。不慣れな正座をしているのは、そのためです。

「わたし、VTuberの活動、少しお休みしようと思う……」

「ええっ、なんでだコンっ!!!」

「急にどうしたんだポコっ!!!」

 わたしのカミングアウトに、目を丸くして、二人は立ち上がります。

「だってわたしが、かなでちゃんと喧嘩になったのは、VTuberの活動が原因だから」

 本当は薄々分かっていたこと、少し前から考えていたことを、わたしは二人に話し始めます。

「最近のわたし、かなでちゃんとほとんど遊べていなかったから……。たぶんかなでちゃん、そのことに関して怒っているんだと思う……」

 ずっと前までのわたしは、休みの日はかなでちゃんと遊んでいた。だけど、てんこちゃんたちと出会ってからは、それを疎かにしていた。それは、喧嘩にもなるよね……。

 それにかなでちゃんには、わたしが休みの日に何をしているのか、まだ伝えることができていない。それって、すごく不満が溜まると思うの。

 もちろん、わたしも教えることができないのもあるんだけど、そんな事情、かなでちゃんには関係ないよね。その不満が今日、爆発したんだと思う。

 ずっと、ずっと、わたしは、かなでちゃんとの友情の亀裂に気付いていたの。

 でも、見てみない振りをしていた。

 今回は、わたしが悪いよ。

 だから、VTuberの活動をお休みして、休日はかなでちゃんと遊んで、仲直りするんだ。

 だって、かなでちゃんは、わたしの一番の友達なんだから。

「ゆいかちゃんがそう言うなら仕方ないコン……」

「VTuberの休止は、あるあるだポコね……」

「二人とも、いつもコラボに誘ってくれてありがとう」

 あとは、かなでちゃんに謝って、きっとそれで解決だよ……。でも……。

「ゆいかちゃんは、それでいいんだコン?」

「えっ」

「ゆいちゃんからは、VTuberを続けたいっていう想いが、伝わってくるポコ……」

「あ……、うん……」

 本当はVTuberとして、まだ活動したいこと、二人にはちゃんとばれているよ。

 だけど、VTuberを取るか、かなでちゃんとの友情を取るか、わたしにはどっちも大事で、どっちも捨てたくなくて。

 わたし、わたし、どうしたらいいんだろう……。

 わたしの目から、涙が出そうになっているときでした。

『カラン♪ カラン♪』

 てんこちゃんの家に、複数の鈴の音が鳴り響きます。

「な、なに、この音!?」

 肩をビクッとさせるわたしに対して、耳と尻尾を天へと向けたてんこちゃんが、説明をしてくれます。

「ボクの家に、侵入者が入ってきたんだコン!」

「え、そうなの? いつの間に防犯設備がついたの!?」

 前にわたしがてんこちゃんの家に来たときには、そんなのなかったよね。

「配信中に〈人間〉が入ってきたことがあったから、取り付けたんだコン! 最近は、とある化けタヌキがコラボの邪魔をしてこないように、付けたままにしてあるんだコン!」

「あ……」

 それって、わたしとまつりちゃんのことだよね。

 わたしたちはお互いの顔を見合わせました。

「とにかく、誰かがボクの家に入ってきたんだコン! 撃退しにいくコン!」

「あっ、わたしも行く……」

 玄関へと向かうてんこちゃんのあとに、わたしとまつりちゃんも続きます。

 さらにその途中、わたしたち三人とは別の女の子の悲鳴が聞こえてきました。

「た、助けて……」

「罠にかかったみたいだコン!」

 足を速めるわたしたちは、ついに侵入者の正体を突き止めます。

 体に縄が巻き付いて、身動きが取れなくなった女の子が床に倒れています。

「か、かなでちゃんっ!?」

 なんと、侵入者の正体は、わたしと喧嘩中の友達、九条かなでちゃんでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る