第3章 九条奏編
第13話 SOS LIMIT
わたしは近衛結花。小学五年生。
新人VTuber【ゆいか】としても活動中の女の子!
まつりちゃんと出会ってから、一ヶ月が過ぎました。
ある時には、【白雪てんこ】ちゃんとコラボ。
またある時には、【分福まつり】ちゃんとコラボ。
活動はすごく順調……。
――とは実はいっていなくて、最近はあることに悩んでいます。
それは、今日の朝の出来事。
* * *
「ゆいかちゃん、おはようだコン!」
「ゆいかちゃん、おはようポコね!」
朝の通学路に立ち塞がる、二人の【獣人】の女の子。
「てんこちゃん、まつりちゃん、二人してなんでわたしを待ち伏せしているのっ!?」
「明日は、ボクとコラボをするコン!」
「違うポコ。明日はアタシとコラボをするポコね!」
「そんなことを聞くために、朝早くからここにいたの!?」
大人気VTuberからの熱烈なプロポーズ。もしかして、わたしにモテ期の到来!?
二人ともイケメンじゃなくて、可愛い女の子なんだけど……。
「どっちとコラボするかはあとで決めるから! 今は急がないと、奏ちゃんとの待ち合わせの十字路に遅れちゃうよ!」
「ちょっと、待つコーン」
「ゆいちゃん、待つポコー!」
* * *
今朝の出来事、回想終わり!
つまりわたしは、明日どっちとコラボをするか迷っています……。
本当は土曜日と日曜日に、一回ずつコラボができればいいんだけど、家族とのお出かけもあるし。どうしてもコラボができる回数にばらつきがでちゃうの。
特にてんこちゃんは、まつりちゃんが現れるまで毎回コラボしていたから、不満が爆発中。その結果、二人はいつも大喧嘩。わたしはそれを止めるのに必死。
いち早くコラボの約束を取り付けるために、今朝みたいに通学路で待ち伏せしているときもありました。
「なんとかしないと、まずいよね……」
本当は三人でコラボしたいんだけど、何か良い方法はないかな……。
わたしが休み時間に考えていると、クラスメイトの話し声が耳に入ってきます。
「ねえ、あのMV見た?」
「見たよ、すごいよね! もう100万再生だって!」
アーティストとしても活躍している、超有名なVTuberの話題。
もちろん、【VTuberマニア】のわたしもその話題に付いていけるよ。
ついこの前出した、MVもついても……。
「そうだ、その手があったっ!!!」
わたしは大声を上げ、席から勢いよく立ち上がります。
「ゆ、結花ちゃん!?」
「急にどうしたの?」
そして、クラスメイトからは心配そうな目で見られました……。
「あ、ごめん。ちょっと悩み事が解決して……」
「もう、びっくりさせないでよ!」
「あはは……、ごめん、ごめん!」
あまりにも嬉しすぎて、飛び跳ねちゃったよ。次は気を付けなきゃ。
気を取り直して……。わたしが今思いついたこと。二人の仲直り大作戦を発表します。
それはずばり、MV(ミュージックビデオ)を作ることです!
MV(ミュージックビデオ)とは、アーティストが新曲を出したときに、宣伝目的で作られる映像のこと。
VTuberだと、『新曲』や『歌ってみた動画』を出したときに、歌と一緒にアニメやイラストを流していたりするよね。
何で、わたしは見落としていたんだろう。
てんこちゃんは歌が上手い。まつりちゃんはイラストが上手い。
だったら、その二人が協力してMVを作れば、きっとすごいものができるはず!
そして、そのMVがたくさん再生されれば、チャンネルの収益で二人の大好きなものがもっと食べられて、さらに協力するようになるってわけ!
わたしながら、完璧すぎる作戦だよっ!
「あっ……」
動画や楽曲の編集はどうしよう……。早くもわたしの完璧な作戦に穴が……。
そういえば、奏ちゃんのお父さんが作曲家だった。
ま、まだ、この作戦は終わっていないよっ……!
実はここだけの話、奏ちゃんのお父さんは、有名なVTuberの楽曲も作っていたりします。第一線で活躍するプロ。本当にすごいよね!
きっと、動画の編集が出来る人も知り合いにいるはず!
そうと決まれば、早速行動! とりあえず奏ちゃんに相談してみよう!
わたしは、前の席で本を読んでいた奏ちゃんに、計画を持ちかけます。
「奏ちゃん、ちょっと相談したいことがあるんだけどっ!」
「結花、また大声で何?」
奏ちゃんは、体をビクッとさせて振り返ります。
「その、わたしの知り合いに、歌とイラストが上手い人がそれぞれいるんだけど……」
「最近、結花がよく話題にする、休みの日に仲良くしている人?」
「そう、そんな感じの(獣)人!」
相変わらず奏ちゃんには、自分のことも、そして二人のことを話せていません。
いつも正体をぼかしています。やっぱり今回もぼかさないとだめだよね……。
わたしは言葉を選びつつ、奏ちゃんの協力を得ようとします。
「その二人の歌とイラストを使った、MVを作りたいなーって」
「あ……、もしかして、私に……」
「だから、奏ちゃんのお父さんに、それを手伝ってもらえないかなーって」
「私じゃなくて……、パパに……」
「うんっ!」
わたしは大きくうなずきました。
きっと奏ちゃんなら上手くお父さんに説明をして、協力を取り付けてくれるはずだよ。だって、わたしよりも頭がいいんだもん!
しかし、奏ちゃんから返ってきたのは、予想外の反応でした。
「私じゃだめなんだ……」
「えっ……」
普段は落ち着いていて、淡々と話をする奏ちゃん。
少し表情が読み取りにくくて、知らない人からは冷たいって思われることがあって。
でも、わたしはずっと友達だから知っているの。本当はすごく優しい子なんだって。
だからね、驚いたの。わたしが見たことがない、奏ちゃんの表情に。
冷たく、震える声。顔は少しだけ赤くなっていたの。
ずっと友達だから分かったの。奏ちゃんの今の感情が。
奏ちゃんは……、すごく怒っていました。
「そ、そんなことないよ……。でも……」
「結花はいいよね。夢に向かって突き進んでいて」
「えっ、いや……」
「私は、何もできていない……」
奏ちゃん、何を言っているの。
「奏ちゃんもすごいと思うよ! ギターとかも弾けて……」
そうだよ、お父さんにギターを買ってもらったって言っていたよね。
しかし、すぐに奏ちゃんは言い返してきます。
「でも、まだ私は何も形にできていない……」
そして、わたしが一番恐れていたことが起きました。
「私は結花とは違う!」
教室に響き渡る、奏ちゃんの怒鳴り声。
クラスメイトが一斉にシーンとなり、わたしたちの方を見ます。
わたしはどうすることもできませんでした……。
奏ちゃんに何て言葉を返していいのか……。
最後に奏ちゃんが、小さく一言だけ呟きます。
「結花、ごめん……」
そこで休み時間終了のチャイムが鳴り、静まりかえった教室に先生が入ってきました。
す、少しだけ、言い争いになっただけだよね……。喧嘩なんかしていないよ……。
授業が終わったら、いつも通り一緒に帰って、何ごともなく元通りだよ……。
しかし、わたしと奏ちゃんが一緒に帰ることは、その日、ありませんでした。
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