第14話 アヤカシピローファイト

「な、なんとか終わったよ……」

「ゆいちゃん、お疲れ様ポコね!」

 まつりちゃんとのコラボが終わって、わたしは安堵のため息をついています。

 くたくたなわたしに比べて、まつりちゃんはまだまだ元気がいっぱい。

 それもそのはず、まつりちゃんは配信が楽しくなって、あのあともずっと勝負を挑んできたの。もちろんリスナーさんの判定で、わたしのイラストに、一回もまつりちゃんが勝てなかったのもあるんだけど……。本当に負けず嫌いなんだね。

 その結果、予定では一時間でコラボは終わるはずだったのに、その倍の二時間もしちゃたの。

 だから、わたしの体はくたくた。ずっとしゃべっていたから、喉はカラカラ。

 でも、わたしも楽しかったから、気にしていないよ!

 それに、配信者として、すごく勉強にもなったから。

 だって、まつりちゃんのすごさを、目の当たりにしたんだからね。

 コラボ配信が成功したのは、実はまつりちゃんのおかげ。

 わたしの独特なイラストがリスナーさんに受けたあと、まつりちゃんは、わたしのイラストの雰囲気に合わせて、勝負を変えてくれたんだと思う。だって、あのまま普通に勝負をしていたら、AIの判定で、まつりちゃんの勝ちが続いていたからね。

 途中から、おもしろイラスト対決に変わって、判定もリスナーさんに変更。勝負の行方は完全に分からなくなった、ってわけ。

 そして、わたし分かったんだ。

 VTuberは、人を笑顔にできる職業なんだって!

 わたしはまつりちゃんみたいに、上手なイラストを描くことはできないけど、人を笑顔にできるイラストは描くことができるよ。

 でも……、やっぱりイラスト、もう少し上手くなりたいかも。

 図画工作のときの先生の話、もう少し真面目に聞こうかな……。

「やっぱり、アタシとゆいちゃんの相性はバッチリだったポコね!」

「そ、そうかな?」

「いいコンビになれるポコ! これからは〈てんこ〉じゃなくて、アタシの配信に出るポコね!」

「ええっ!?」

 いきなり、そんなことを言われても困るよ。

 もちろん、まつりちゃんとのコラボは楽しかったし、タヌキ耳のわたし【分福ゆいか】も可愛かったから、断る理由はないんだけど。

 でも、てんこちゃんとまつりちゃん、どっちを選ぶかなんてできないよ。

 そして、前回と同じく、一人の女の子が部屋に乱入してきます。

「ちょっと待つコーン! ゆいかちゃんは、ボクの大切なパートナーだコン!」

 その人物はもちろん、〈白雪てんこ〉ちゃんでした。

「げっ、また来たポコね! この泥棒キツネ!」

「泥棒はそっちコン! コラボはもう終わったコン! ゆいかちゃんを返すコン!」

「もう、二人ともやめてよー」

 わたしを挟んで、二人はバチバチとにらみ合っています。

 お互いの手には、武器と思われる、葉っぱを握りしめていました。

 コラボもだけど、わたしは、てんこちゃんとまつりちゃんが、なにか起こさないかが一番心配だよっ!

 うなる二人を止めるのを諦めて、わたしはさっきのコラボ配信をチェックします。さっそく、いくつものコメントが書き込まれていました。

 コメントの大半が、コラボが面白かったことへの感想。中には、わたし【分福ゆいか】を褒めるコメントもありました。

 その内の一つに、わたしは目が釘付けになります。


【コラボ配信に書き込まれたコメント】

 @弁当ベンさん

 今日のコラボも面白かった

 ゆいかは夢を叶えていてうらやましい


「わたしのファン第一号の子だ!」

 〈弁当ベン〉さん。あれから欠かさず、わたしの配信を観ていて、いつもコメントを残してくれるんだよ! だから、すっかり名前は覚えたよ。

 それに、音楽家の『ベートーヴェン』みたいな名前で、とても覚えやすいし。

 今回のコラボも楽しんでもらえたみたいで、嬉しいな!

 でも……、なんだか悲しい顔をしている気がする。

 コメントだから、相手の顔は、はっきりとは見えないけど。

 もしかして、この子にも夢があるのかな。

 〈弁当ベン〉さんの夢も、わたしみたいに叶うといいな!

 そんなことを思っていた、わたしの顔の横を、お茶碗が勢いよく通り過ぎます。

「えっ、お茶碗!?」

 不可思議な現象の原因は、てんこちゃんとまつりちゃん。

 二人は【アヤカシの力】を使って、食器や家具で、枕投げみたいなことをしています。

 気が付けば、この部屋に置いてある様々なものが、宙を舞っていました。

「もう、仲良くしてよーっ!!!」

 再び止めに入るわたしに、二人は真剣な表情をして尋ねてきます。

「ゆいかちゃんは、ボクとコラボしたいに、決まっているコン?」

「ぜったいに違うポコ! ゆいちゃんはアタシとコラボしたいに、決まっているポコ?」

「だ か ら 、どっちも選べないよーっ!!!」

 わたしは、キツネの女の子とタヌキの女の子、二人とさらに仲良くなりました。

 めでたし、めでたし。じゃないよー、これっ!!!

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