第11話 ドローイングバトル! ~ライトあやかし級~

【コラボ配信】となりの山で仲良くなった友達とイラスト対決するポコ【分福まつり】


 ――というタイトルのコラボが、今、始まりました。


「【人間】のみんな、こんにちはポコ。山から下りてきた賢いタヌキ、【分福まつり】ポコ。こんポコ、こんポコね!!!」


:まつりちゃん、こんポコー!

:こんポコね

:まつりちゃんの配信が始まった!


 てんこちゃんに負けず劣らず、配信コメントも盛り上がっているよ。

 もう500人も配信をみている。


「今日は、アタシの新しい友達を紹介するポコね!」


 あっ、わたしも自己紹介をしなきゃ。てんこちゃんに鍛えられたから、もう大勢のリスナーさんの前でも、恥ずかしがったりしないよ。


「はじめまして、【分福まつり】ちゃんにお呼ばれしました【ゆいか】です。みんな、こんポコーっ!」


【分福まつりとゆいかのコラボ配信中のコメント】

:はじめまして

:こんポコ!

:こんポコー、はじめまして!


 みんな、優しいコメントで歓迎してくれているよ。イラストの方は自信がないけど、まつりちゃんとのコラボ、上手くいきそうな予感!

 さらに、予想外のことも起きたの。それはね……。


:あれ、ゆいかちゃんじゃん!

:まつりちゃんのコラボ相手って、ゆいかちゃんだったんだ!

:嬉しいサプライズだね


 なんと、わたしのことを知ってくれているリスナーさんが何人もいたの!

 これって、すごいことじゃない!? 数ヶ月前までは考えられなかったよ!!!


:ゆいかちゃん、こんコーン、じゃなかったこんポコー!

:タヌキのゆいかちゃんも可愛い!

:タヌキにも変身できたんだ、どうやっているの!?


 この姿もかなり好評みたい。


「タヌキ姿のわたしも可愛いでしょ?」

「タヌキ姿じゃなくて、タヌキ姿の方可愛いポコ! こっちの方が100倍キュートポコね!」

「はいはい」


:まつりちゃん、嫉妬してる!

:てんこちゃんはライバルだもんね

:負けるな、まつりちゃん!


 配信が始まってから、もう場の空気が暖まっていました。

 それにわたしも、自然とまつりちゃんのファンの輪に入っています。


「生意気なゆいかちゃんを、お絵かき対決でぎゃふんと言わせるポコね!」


 上手くいくはずのコラボ配信。しかし、ピンチは早々に訪れるのでした。


       * * *


 お絵かき対決開始から、数十分後。


「ううっ、まつりちゃん、強すぎるよ……」

「ゆいかちゃんが、弱すぎるポコね……」


 場の空気はさっきとは打って変わり、冷めきっていました……。

 対戦の内容は、出されたお題にそってイラストを描く方式。自分のタブレットにイラストを描いて、それを最新のAIが判定。得点の高い方が勝ち。すごくシンプル。

 そして、わたしが現在10連敗中。イラストが上手いまつりちゃんに全く勝てません。

 もちろん、配信をみているリスナーさんも面白くない。スポーツの試合でも、10-0よりも、5-5のハラハラドキドキした展開をみんなみたいよね……。


:まつりちゃんが強すぎる

:ゆいかちゃん、がんばれー

:今日の配信、おもしろくないかも


 うっ、否定的なコメントも見えるよ。配信をみていた人も少しずつ減っているし。

 どうしよう、このままだとコラボ失敗だよ……。

 そんな中、どこからともなく、まつりちゃんの声が聞こえてきます。


『ゆいかちゃん、ゆいかちゃん……』

『まつりちゃん!? もしかして、頭の中に話しかけているの?』

『そうポコ……』


 まつりちゃんの声を聞いて、わたしは少しだけ安心します。

 でも、まつりちゃんの声はか細いです……。


『ゆいかちゃん、ごめんなさいポコ……』

『ぜ、全然、大丈夫だよっ。わたしの方こそ、イラストが下手でごめんなさい』

『コラボの内容を勝手に決めた、アタシが悪いポコ……』


 まつりちゃん、今にも泣き出しそうな声だよ……。

 まつりちゃんが、勝負で手加減する手もあるけれど、そんなのすぐにバレちゃう。

 それにそんな茶番な対決、誰もみたくないよ。

 どうしよう……。打つ手がないよ……。


(でも……、こんなところで……)


 わたしはタブレット強く握ります。

 ここで諦めたらだめだよ。絶対にコラボを成功させるって、配信前に決めたんだもん。

 まつりちゃんをもっと多くの人に知ってもらうために、このコラボは成功させないと。

 いったいどうすれば……。イラストを採点しているのは最新のAIだし……。


(AI……、そうだ……っ!)


『まつりちゃん、ここはわたしに任せてっ……!』

『ゆいかちゃん!?』


 わたしは重たい空気を吹き飛ばすように、大きな声でマイク向かって話しかけます。


「次のお題に行くよーっ!」

「でもポコ……」


 まつりちゃん、リスナーさんが不安がっている中、さらにわたしは付け加えます。


「そして、ここでルール変更。今のルールだとまつりちゃんが有利すぎるよ。それにこのAI、絶対に壊れているよ!」

「アタシの【あやかしAI】が壊れているなんて、そんなこと、ないポコだけど……」


 もちろん、わたしも壊れているとは思っていないよ。でも……。


「だから、次の採点はリスナーさんにしてもらおうよ。勝負の内容もからに変更だよっ!」

「えっ!? あっ……、アタシはどんな勝負でも逃げずに受けるポコね!!!」

「じゃあ、次のお題は『キリン』っ!!!」


 わたしたちは、それぞれ『キリン』のイラストを描き始めます。

 そして、イラストの発表。

 まつりちゃんはキリンの特徴を捉えつつも、マスコット的な可愛さがあるイラスト。

 一方のわたしは首だけが長い、珍獣的なイラスト。

 しかし、勝負の結果は……。


:ゆいかちゃんかな

:ゆいか!

:ゆいかちゃんに一票


 わたしの圧勝でした。


「な、なんでポコね!?」


 まつりちゃんはこの結果に驚いています。


「だって対決だもん。それに審査員はリスナーさんだよ。審査員に文句を言ったら一発で退場だよっ!」

「うぐっ……、次にいくポコね!」


 さらに、イラスト対決は続きます。

 次のお題は『ゾウ』。そして判定の結果。


:ゆいかちゃん

:ゆいかちゃんだね!

:また、ゆいかちゃんの勝ちだ


 またしても、わたしの勝ちなのでした。

 わたしの作戦が上手くいったみたい。

 勝負の内容をわたしに有利なものに変えて、さらに判定の方法もリスナーさんにする。これで勝負の行方は完全に分からなくなったよ。

 ただ……、その一方で、わたしの心は少しだけ傷ついていました。


:ゆいかちゃんのイラストが独特すぎる

:また図鑑に載っていない、新動物が生まれた!

:ゆいかちゃん、珍獣しか出てこないんだけど


(わたし……、大真面目に描いているつもりなんだけど……)


 なぜか、わたしの描く動物は珍獣になってしまうみたいです。しかも。


「ゆいかちゃんのイラストに勝つのが難しいポコ……。なんでこんなにもおかしく描けるポコね……」


 まつりちゃんも、ペンと頭を悩ませていました。


「イラストが下手すぎて、ちょっとがっかりしたポコ……」

「ま、まつりちゃんっ!? ひどいよっ!!!」


 わたしのこと、嫌いにならないでー!!!

 頬を赤らめていたときの、まつりちゃんに戻ってよー!!!


 こうして、お絵かきコラボ対決は、活気を取り戻していったのでした。

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