第10話 オレンジコンピューター

【分福まつり】ちゃんに誘拐された……じゃなかった、友達になった次の日。

 わたしは昨日渡された地図を元に、まつりちゃんの家へと向かっていました。

 まつりちゃんの家は、わたしが住んでいる所の隣町にありました。昨日行ったから場所は覚えているんだけど、地図があると安心するよね。

 そうこうしている内にまつりちゃんの家に到着。少し見た目が違うけど、てんこちゃんの家と同じような古民家。【獣人】は木で作られた家が好きみたいです。


『ピンポーン♪』


「はーい、開いているポコね」

「おじゃまします」


 自動で開く、玄関の引き戸のドア。もう驚かなくなったよ……。

 家に上がって物音がする部屋へと行くと、昨日と同じ緑の着物を着たまつりちゃんが、ちゃぶ台の前で二つのタブレット端末を持って、わたしのことを待っていました。


「もう遅いポコ!」

「ご、ごめんなさい」

「ゆいかちゃんには、さっそくこれを渡しておくポコね!」


 わたしは、まつりちゃんからタブレット端末の一つを受け取ります。

 ちなみに、お互いの自己紹介は昨日の内に済ませているよ。


「これって、昨日まつりちゃんが使っていたタブレットだよね?」

「そうポコ。これは【ポコPad】っていう、タブレットの配信機材ポコね」

「やっぱり、これで配信していたんだ」


 タブレットからは、丸いタヌキの耳と、丸いタヌキの尻尾が生えてきます。

 少し画面が割れている古いタブレットだけど、てんこちゃんの例から考えて、普通に使えるんだと思う……。


「さっそく、電源を入れてみるポコね」

「うん!」


 わたしが電源ボタンを押すと、画面にはりんごアップル……じゃなかった、みかんオレンジのロゴが出たあとに、いくつもアプリが並んだ画面が出てきます。


「これって……、世界的有名企業のパクリ商品……」

「そ、そんなことないポコ……。気にしたらダメポコね……」

「う、うん……」


 細かいことは、気にしたらダメみたいです。

 それにしても、【あやかしアプリ】がたくさん画面に並んでいます。も入っているみたい……。

 まつりちゃんが自分のタブレットを指さして、丁寧に説明してくれます。


「マイクとカメラは、すでに【ポコPad】の方に付いているポコ」

「これも【あやかしの力】を使っているんだよね?」

「【古狸術】っていうポコね」

「てんこちゃんの【妖狐術】と同じものだと考えていいんだよね?」


 わたしがきつねという単語を口にしたとたん、まつりちゃんは不機嫌になります。


「【妖狐術】より【古狸術】の方が、すごいポコ!」

「あ、うん……」

「この【ポコPad】も、てんこの【コンコンコンピューター】に負けないポコ!」

「そうなんだー。わー、すごいー!(棒読みだよ)」


 まつりちゃんの前で、てんこちゃんの話題はNGだね……。


「話がそれたポコ。そして、このカメラのアイコンの【あやかしアプリ】を起動すると……」


 まつりちゃんの指示通りに、わたしは【あやかしアプリ】を起動します。すると画面には、ボタンサイズの小さなタヌキの顔が浮かび上がります。

 数秒後、わたしのタブレットに映し出されたのは……。


「えっ、これもわたし!?」

「【古狸術】で変身した、ゆいかちゃんポコね!」


 てんこちゃんの時とはまた違った、丸いタヌキの耳が付いた、もう一人のVTuber【ゆいか】が映っていました。


「まつりちゃんの【ポコPad】だと、わたしはタヌキになるんだね!」

「すごく、似合っているポコね!」


 ちょっと得した気分かも! だってこれって、VTuberの新しい衣装みたいなものじゃん! キツネの女の子にも、タヌキの女の子にもなれて、すっごくお得だよ!


「ゆいかちゃんは、タヌキの姿とキツネの姿、どっちが好きポコね?」


 え、なにその質問……。まつりちゃんが期待している答えなんて一つしかないじゃん。

 わたしはてんこちゃんが【妖狐術】で聞き耳を立ててないことを祈りつつ答えます。


「タヌキの姿の方が可愛いかな。あはは……」

「やっぱり、そうポコよねっ!!!」


 本当はどっちも可愛いんだよっーーー!!!


「ところでまつりちゃん、今日のコラボ配信は何をするの?」


 そういえば、配信の内容をまだ聞いていなかったよ。

 昨日から驚き(と突っ込み)の連続で頭が回らなかったんだよー。

 そして、まつりちゃんの口から、衝撃の内容が発表されます。


「今日はアタシとお絵かき対決をするポコね!」

「げっ……」


 わたし、絵が下手なんですけど……。

 てんこちゃんの時と同じく、再びピンチです……!!!


       * * *


 まつりちゃんとの、お絵かきコラボ対決。

 ここで両陣営の選手紹介ターイム!

 まずは現チャンピオン(?)、【分福まつり】ちゃん!


【分福まつりチャンネル】の登録者数は7万人。言うまでもなく大人気VTuber。

 まつりちゃんのメインコンテンツは。人気アニメのキャラクターや、自分で考えたオリジナルキャラを配信で描いているんだよ。

 配信の中では、初心者でもイラストが上手く描けるようにと、分かりやすい解説もしていたよ。

 プロ顔負けのイラストを描くことができる配信者。人気が出るのも当然だよね!


 対する挑戦者(?)は【ゆいか】!

 小学校の通知表、図画工作は三段階評価の一番下、

 …………絶対に勝てるわけがないじゃん!


「まつりちゃん? わたし、勝負の内容に異議ありっ! なんですけどっ!」

「古今東西、勝負で仲を深めるのは基本ポコね!」

「うっ、そんな気もしなくないけど……。でも、やっぱり納得がいかない……」


 まつりちゃんって、やっぱり考え方が古い気が……。


「ところでまつりちゃん、一つ、聞きたいことがあるんだけど……」


 わたしは、まつりちゃんに尋ねます。


「どうしてまつりちゃんはVTuberを始めたの?」


 てんこちゃんと違って、着物を着て、古いしきたりを重んじるまつりちゃん。

 それなのにVTuberを始めるなんて、なんか、まつりちゃんらしくないなーって。


「それはポコ……」


 まつりちゃんは耳を丸めてうつむき、小さな声で答えます。


「もっと多くの【人間】に、アタシのイラストを見てもらいたくてポコ……」


 まつりちゃんは上目遣いで、恐る恐る、こちらを見つめてきます。


「やっぱり、おかしいポコよね……。アタシがVTuberをするポコなんて……」

「そんなことないよっ!」


 わたしはすぐに、まつりちゃんの不安そうな声をかき消します。


「まつりちゃんのイラストはすごいもん! むしろ、もっと多くの人に見てもらわないともったいないよ!」

「えっ……」

「自分のやりたいことに、おかしい、おかしくないは関係ないよっ!!!」


 たぶん、声が大きくなっているのは、にも言い聞かせているから。


「まつりちゃんはVTuberを始めてよかったの?」


 まつりちゃんは迷いなく答えます。


「良かったポコ……。てんこの気持ちが少し分かったポコね……」

「だったら、それでオッケーだよっ!」


 まつりちゃんって、女の子らしいところもあったんだね。ちょっと安心しちゃった。

 それに、まつりちゃんの実力は間違いなくだよ。

【VTuberマニア】のわたしが、ばっちり保証します!!!


「ゆいかちゃん、ありがとうポコ……」


 いつの間にか、まつりちゃんの顔には笑顔が戻っていました。

 配信前にまつりちゃんのことを、もっと知ることができて良かったかも。

 それに今のまつりちゃんを見たら、今回のコラボ、絶対に失敗なんてできないよ!


「まつりちゃん、コラボも絶対に成功させようね!」

「も、もちろんポコね!」


 わたしとまつりちゃんは、気合い十分でコラボに臨むのでした!

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