第11話 オレンジコンピューター

 〈分福(ぶんぶく)まつり〉ちゃんに誘拐された……、じゃなかった。友達になった、次の日。わたしは、昨日渡された地図を元に、まつりちゃんの家へと向かっていました。

 まつりちゃんの家は、わたしが住んでいる所の隣町。昨日、一回行ったから、場所は覚えているんだけど、でも地図があると、少し安心するよね。

 って、聞いてよ。昨日はすごく大変だったんだから!

 わたしとまつりちゃんとのコラボに、てんこちゃんは大反対。

 やっぱり、一触即発の雰囲気になりました……。なんとか、わたしが止めたけど……。

 コラボは想定外だったんだけど、やっぱり、まつりちゃんともしないのは、不公平かなー、って。だからわたしは、学校で流行っていることを教えるのと同時に、コラボでも一肌脱ぐことになりました。

 ちなみに、わたしはてんこちゃんから、念のためと言われて、特別な『防犯ブザー』を渡されています。

 その名も、【コン音量防犯ブザー】。

 見た目はキツネの顔をした、普通の防犯ブザーなんだけど、ひもを引っ張るとものすごい音がして、すぐにてんこちゃんが助けに来てくれるみたい。

 まつりちゃんは、もう悪いことはしないと思うんだけど、地図と同じで、これもあると安心するよね。

 そうこう昨日の説明をしていると、まつりちゃんの家に到着! 見た目が違うけど、てんこちゃんと同じ木造のおうち。〈獣人〉は木で作られた、自然の家が好きみたいです。

『ピンポーン♪』

「開いているポコよ!」

「お、おじゃまします」

 自動で開く、玄関の引き戸のドア。もう、驚くことはなくなったよ。

 家に入って、物音がするリビングへと向かうと、昨日と同じ、緑と白の着物を着たまつりちゃんがいました。ダブレット端末を二つ手に持って、わたしのことを待っています。

「もう遅いポコね! えーと、そういえばまだ、名前を聞いていなかったポコ!」

「近衛ゆいかです。好きな呼び方でいいよ」

「じゃあ、ゆいちゃんポコね!」

「りょうかい!」

 昨日色々とあったから、自己紹介がまだだったことを忘れていたよ。

「ゆいちゃん、さっそくこれを渡しておくポコ!」

「これって、昨日まつりちゃんが使っていたタブレット端末だよね?」

「そうポコね! これは【ポコPad】っていう、タブレット型配信機材ポコ!」

「やっぱり、これで配信していたんだ……」

 タブレット端末の上には、丸いタヌキ耳。下には、同じく丸いタヌキの尻尾。

 少し画面が割れていて、古いタブレット端末なんだけど、たぶん、普通に使えるんだと思う。

「さっそく、電源を入れてみるといいポコ!」

「うん!」

 わたしが、電源ボタンを押すと、画面にはりんご(アップル)……じゃなかった、みかん(オレンジ)のロゴが出たあとに、アプリのアイコンがいくつか並んでいました。

「これって、世界的有名企業のパクr……」

「き、気にしたらダメポコよ!」

「う、うん……」

 細かいことは、気にしたらダメみたいです。

「マイクとカメラは、すでに【ポコPad】の方に付いているポコ」

「これも、【アヤカシの力】を使っているんだよね?」

「そうポコね! 【古狸術(こりじゅつ)】っていうんだポコ!」

「てんこちゃんの【妖狐術】と、同じようなものだと考えていいんだよね?」

 わたしが、『狐』という単語を口に出した途端、まつりちゃんは不機嫌になります。

「【妖狐術】より【古狸術】の方が、すごいんだポコ!」

「あ、うん……」

「このタブレット端末も、最新の物より『11倍』のスペックを持っているんだポコ!」

「わー、すごい……」

 【妖狐術】は『10倍』だったから、それに対抗しているみたい。

 10倍も11倍も、そんなに変わらないと思うんだけど……。

「それにしても〈人間〉は、物を簡単に捨てるポコ」

「あ……」

 嫌な予感がします。

「ゆいちゃんが使うタブレット端末が簡単に見つかったから、今回は許すポコだけど、山にゴミを捨てる〈人間〉は、絶対に許さないポコね!!!」

「人間の代表として、本当にごめんなさいっ!」

ポイ捨てだめ! ぜったい!

「少し話がそれたポコね。それでこのアプリを起動すると……」

 まつりちゃんはわたしの背後から、タブレット端末を指でさわってきます。

 数秒後、わたしのタブレットの画面に映し出されたのは……。

「えっ、これもわたし!?」

「【古狸術】を使って変身した、ゆいちゃんポコね!」

 てんこちゃんのときとはまた別の、丸いタヌキの耳がついた、もう一人のわたしがいました。

「まつりちゃんのタブレットだと、わたしはタヌキになるんだね!」

「すごく似合っているポコよ!」

 ちょっと得した気分かも! だってこれって、VTuberの新衣装みたいなものじゃん! キツネにもなれて、タヌキにもなれて、もしかしてわたしって、すごく恵まれているかも。

「ゆいちゃんは、タヌキの姿とキツネの姿、どっちが好きポコ?」

 え、なにその質問……。まつりちゃんが期待している答えなんて、一つしか思い浮かばないよ。わたしは、てんこちゃんが【妖狐術】で聞き耳を立てていないことを祈りつつ、質問に答えます。

「タヌキの姿の方が可愛いかな……。あはは」

「やっぱり、そうポコよねっ!」

 本当はどっちも可愛いんだよっ!

「ところでまつりちゃん、今日は何のコラボをする予定なの?」

 そういえば、今日のコラボの内容を聞いていなかったよ。自己紹介がまだだったみたいに、昨日は二人の喧嘩を止めるだけでも大変だったんだよ。

 そして、まつりちゃんは、ついにコラボの内容を発表します。

「今日はアタシと、お絵かきコラボ対決ポコね!」

「げっ……」

 それは、わたしが学校で苦手な教科、その2。

 この流れは、お約束だったのかもしれません。

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