第9話 識の巫女ゆいか

「て、てんこちゃん!? どうしてここに?」


 てんこちゃんが耳と口をとがらせて、わたしたちがいる部屋へと入ってきます。


「げっ、てんこポコ。もう気付かれたポコっ!?」

「やっぱり化けタヌキ【まつり】の仕業だったコン。ゆいかちゃんに傷をつけたのなら、ボクが絶対に許さないコーン!!!」


 今日のてんこちゃん、いつもよりカッコイイかも……。

 てんこちゃんが男の子なら、キュンとしたよ。


「ゆいかちゃんは返してもらうコン!」


 しかし、その台詞にまつりちゃんは言い返します。


「許さないのはアタシの方ポコ! てんこは【しきの巫女】の知識を独り占めするのはやめるポコ!!!」


 えっ、今、急に聞き慣れない単語が出てきたんだけど……。

 わたしは、まつりちゃんに尋ねます。


「あの、まつりちゃん……。【識の巫女】っていったい何ですか?」

「【識の巫女】とは、アナタが持っている力のことポコね」


 さらに詳しく、まつりちゃんは説明してくれます。


「アタシたち【獣人】と話せる力を持つ、【特別な人間】のことも指すポコね」

「つまり、わたしが……【識の巫女】ってこと?」

「そして【識の巫女】は【獣人】と等しく仲良くしないといけないポコ。これは昔からのポコ」

「え、そうだったんだ……」


 巫女って呼び名は可愛いけど……、今は喜んでいる場合じゃないよね。


「てんこは【識の巫女】の知識を独占しているんだポコ。一人だけいい思いをしているポコ」

「ギクッだコン……。そ、そんなことはないコーン……」

「嘘つくなポコっ! これは明白な違反ポコっ!!!」

「そ、そんな古いルール……、ボクは1ミリも知らないコーン!」

「だったら、ここで決着を付けるポコっ!!!」

「望むところだコンっ!!!」


 あわわ……、二人の体から【あやかしの力】があふれ出ているんだけど。

 白いオーラと赤いオーラ。ほっといたらこの家がドカンと爆発しちゃうよ!?


「ちょっと、二人ともストーップ!!!」


 わたしは二人の間に割って入ります。


「二人とも同じ【獣人】なんだから、仲良くしてほしいんだけどっ!」


 わたし、かなり無茶なことをしているよね……。なんで!?


「ゆいかちゃんがそう言うなら仕方ないコン。でも、キツネとタヌキは全く違うコン」

「【識の巫女】がそう言うポコなら。でも、タヌキとキツネは一緒にしないでほしいポコ」

「わたしにとっては、どっちも可愛い動物だよーっ!」


 それを聞いた二人は、急に頬を赤らめます。


「そ、そんな、キツネが大好きコンなんて……」

「【識の巫女】にほめてもらったポコ……。う、嬉しいポコね……」


 よく分からないけど、二人の【あやかしの力】が弱くなったよ。今のうちに、なんとか二人をなだめないと!

 わたしはまつりちゃんに話しかけます。


「わたし、【分福まつり】ちゃんのことが、もっとよく知りたいんだけど」

「えっ、アタシのことポコ? ちょっと待つポコね……」


 まつりちゃんは持っていたタブレットを触って、その画面を見せてくれました。


「これがアタシのチャンネルポコ……」


 そこには可愛らしいタヌキの女の子、第二のまつりちゃんが映っていました。


「やっぱり、すごい……」


【分福まつりチャンネル】 チャンネル登録者数7万人


 大人気と噂には聞いていたけど、チャンネル登録者数が7万人もいる!

 てんこちゃんと同じく、大大大人気VTuberだよっ!!!

 わたしのリアクションを見て、てんこちゃんは耳とつむじを曲げています。


「まつりは、ボクが成功しているのを見て真似したんだコン」

「ち、違うポコ……。アタシは……」

「まつりも天ぷらをいっぱい食べたいだけコン」

「アタシはてんことは違うポコ! やっぱり許さないポコっ!!!」

「おっ、ボクとやるかコン?」

「望むところポコ!」

「だから、なんで二人はすぐに喧嘩しちゃうの!?」


 この二人、同じ部屋にいれたら絶対にダメなやつだよー。

 でも、大体の状況は分かってきたよ。まとめると、たぶんこんな感じ。


 登場人物は、

 キツネの女の子のVTuber、【白雪てんこ】ちゃん。

 タヌキの女の子のVTuber、【分福まつり】ちゃん。

 二人はライバル関係だよ!

 わたしは一ヶ月前にてんこちゃんと出会って、それからコラボ配信をしている。

 それで、【白雪てんこチャンネル】は大成功を収めているみたい。

 その結果、てんこちゃんはスーパーや商店街でお揚げを買い占めしている。

 それを、まつりちゃんは快く思っていないみたいだね。

 そしてここからは、まつりちゃんの話がもし本当だとしたら……。

【獣人】と話をすることができる力、【識の巫女】っていうみたい。

 その力を持つわたしが、てんこちゃんとだけ仲良くするのは、実は良くないことみたい。

 誘拐のことは置いておくとして、今の状況はまつりちゃんにとって少し不公平かも。


 だったら、問題を解決するのは簡単だよ!

 わたしがてんこちゃんに教えている、小学校やVTuberの間で流行っていることを、まつりちゃんにも教えてあげればいいだけ。

 これでこの問題は、まるっと解決するはずだよっ!


「まつりちゃん、もしわたしを家に帰してくれるのなら、わたしはまつりちゃんにもするよ」

「えっ、本当ポコ? アタシにもしてくれるポコね?」

「うんっ!」

「ゆいかちゃん、それはないコーン」


 もちろん、てんこちゃんは不満ありありみたい。だけど。


「わたし、まつりちゃんとも、仲良くなりたいから!」

「ほら、彼女もそう言っているポコ! てんこは独り占めを諦めるポコね!」


 てんこちゃんには悪いけど……。ここは【VTuberマニア】として、【分福まつり】ちゃんの人気の秘密を根掘り葉掘り調査しちゃうよっ!

 しかし、このときわたしは大きな勘違いをしていました。わたしの考えていた協力と、まつりちゃんの考えていた協力、少し食い違いがあったの。


「それで、アタシとのは、いつしてくれるポコ?」

「えっ、コラボ!?」

「そうポコ! 今から楽しみポコね!」


 わたしは【分福まつり】ちゃんとも、コラボすることになったみたいです……。

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