第10話 大乱闘の中にゆいか参戦!!

 わたし、近衛ゆいか、小学五年生。

 お決まりの自己紹介をしているわたしですが、今すごくピンチです。

 〈獣人〉のタヌキの女の子に、わたしはさらわれてしまいました。かと思えば、同じく〈獣人〉である、キツネの女の子〈白雪てんこ〉ちゃんが助けに来てくれました。

 これで、わたしは助かった! ……とはいきません。

 二人はなんとライバル関係だったのです!

 なにも起こらないわけがなく……。

「ゆいかちゃん、助けにきたコーン!」

「て、てんこちゃん!? どうしてここに?」

 てんこちゃんが勢いよく、わたしたちがいる部屋へと入ってきます。

「げっ〈てんこ〉! もうここが気付かれたポコ」

 わたしとタヌキの女の子の間に、てんこちゃんが割って入ってきます。

「やっぱり化けタヌキ、【まつり】の仕業だったコン! ゆいかちゃんに傷一つ付けたのなら、ボクが絶対に許さないコーン!!!」

 てんこちゃんは怒り心頭な様子。その一方で。

「許さないのはこっちポコね! 〈てんこ〉は、この〈人間〉を独り占めするのをやめるポコね!!!」

 タヌキの女の子も、てんこちゃんには怒っている様子。

 それに二人は知り合いみたい。顔を近づけて、バチバチとにらみ合っています。

 ど、どうしよう……。【アヤカシの力】を使って、喧嘩でも始めたら、わたしは止められないよ。

 こ、こういうときは、話し合いが大事だよね。お互いの話をよく聞かなきゃ。

 まずわたしは、出会ったばかりの女の子、タヌキの【まつり】ちゃんに話を聞いてみます。

「まつりちゃん、って言ったよね? やっぱり誘拐は良くないことだよ!」

「うっ、それは分かっているポコだけど……」

 まつりちゃんは一瞬、口ごもりました。悪いことだと、分かってはいるみたい。

 でも、まつりちゃんには、納得していないところもあったの。

「だけど、良くないことをしているのは、〈てんこ〉も同じだポコ!」

「そうなの?」

「【識の神(しきのかみ)】の力を持つ〈人間〉は、〈獣人〉のみんなと仲良くしないといけないだポコ! それなのに〈てんこ〉は独り占めしているんだポコっ!!!」

「ぎくっ、そ、そんなことはないコン……」

「嘘つくなポコ!!! アタシはだませないポコ!!!」

 いきなり、知らない単語が出てきたよ。

【識の神(しきのかみ)】……。たぶん、まつりちゃんの言葉から、わたしが持っている、〈獣人〉と話すことができる力のことだよね。そんな風に言うんだ……。

 それにわたしが、てんこちゃんとだけ付き合っているのは、なんかルール違反みたい。

 本当は色々な〈獣人〉と仲良くするのが、普通みたいだね。

 そして、二人の喧嘩は、クライマックスを迎えようとしていました。

「ゆいかちゃんの誘拐は、〈人間〉の世界の犯罪、そっちが悪いコーン!」

「彼女とお揚げを独占する方こそ、現代の巨悪だポコ!」

「あわわ……」

 お互いの体から、今にも【アヤカシの力】が爆発しようとしていました。

 このままだと、とてもまずい気がするよ。何がなんでも、止めなくちゃ!

「ちょっと、二人ともストーップ!!!」

 今度はわたしが、二人の間に割って入る番でした。

 【アヤカシの力】を持たないわたしが、かなり無茶なことをしています。

「二人とも同じ〈獣人〉なんだから、仲良くしてほしいんだけどっ!」

「うっ、ゆいかちゃんが強く望むなら、しかたないコン……。でも、キツネとタヌキは全く違うコン!」

「むっ、【識の神】の〈人間〉がそういうポコなら……。でも、タヌキとキツネを一緒にしないでほしいポコ!」

「わたしにとっては、どっちも可愛い動物だよっ!」

 わたしの台詞を聞いて、二人はお互いに頬を赤らめていました。

「そ、そんな、可愛いコンなんて……」

「可愛いポコなんて、直接言われたのは初めてポコ……」

 よく分からないけど、二人の【アヤカシの力】が収まった気がするよ。その隙に、なんとかこの場を納めるよ! さらにわたしは、まつりちゃんに質問をします。

「まつりちゃんって、てんこちゃんと同じく、VTuberをしているの?」

「えっ、アタシ? うん……。少し前からVTuberを始めたポコね」

 そう言うとまつりちゃんは、自分のタブレット端末を何回か触って、その画面をわたしに見せてきました。

「これがアタシの、VTuberのチャンネルポコね」

 そこには可愛らしいタヌキの女の子、第二のまつりちゃんが映っていました。

「す、すごい!?」


【分福(ぶんぶく)まつりチャンネル】 チャンネル登録者数9万人


 チャンネル登録者数は、なんと9万人!

 てんこちゃんと同じく、大人気VTuberだよ!!!

 わたしの反応を見て、すごく不満そうなてんこちゃん。

 顔をしかめて、まつりちゃんに文句を言ってきます。

「〈まつり〉は、ボクがVTuberで成功しているのを見て、パクったんだコン!」

「それは、パクりとは言わないポコよ!」

「でも、羨ましくてマネしたのは事実だコン!」

「また、アタシを馬鹿にして……。やっぱり、化けキツネは許さないポコね!」

「お、ボクとやるかコン?」

「だからなんで二人は、すぐに喧嘩しちゃうの!?」

 この二人、絶対に同じ部屋に入れたらダメなやつだよ。

 でも、だいたいの状況は分かってきたよ。まとめると、たぶんこんな感じ。

 登場人物は、

 キツネの女の子のVTuber、【白雪(しらゆき)てんこ】ちゃん。

 タヌキの女の子のVTuber、【分福(ぶんぶく)まつり】ちゃん。

 二人はライバル関係だよ!

 わたしは、一ヶ月前にてんこちゃんと出会い、それからコラボ配信を何回もしている。

 それで、【白雪てんこチャンネル】は大成功を収めているみたい。

 その結果、てんこちゃんはスーパーや商店街で、『お揚げ』を買い占めしている。

 それを、まつりちゃんは、とてもうらやましがっているみたいだね。

 そして、まつりちゃんの話がもし本当だとしたら……。

 わたしは、【識の神(しきのかみ)】の力を持っていて、【獣人】と話をすることができる。

 でも、わたしが、一人の【獣人】とだけ仲良くするのは、実は良くないことみたい。

 誘拐の件はいったん置いといて、今の状況はまつりちゃんにとって、とても不公平だとわたしは思ったの。

 だったら、問題を解決するのは簡単だよ! わたしがてんこちゃんに、小学校で流行っていることを教えているみたいに、まつりちゃんにも、同じく教えてあげればいいだけ。

 それでこの問題は、まるっと解決するはずだよっ!

「まつりちゃん、もしわたしを家に帰してくれるのなら、わたしはまつりちゃんにも『協力』するよ!」

「えっ、本当だポコ? アタシにも『協力』してくれるポコね?」

「うん!」

 もちろんてんこちゃんは、不満ありありみたい。

「ゆいかちゃん、それはないコーン」

「でも、てんこちゃんにだけ『協力』するのは、ずるいと思うから」

「で、でもだコン……」

「わたしはまつりちゃんとも、仲良くなりたいから!」

「ほら、彼女もそう言っているポコ! 〈てんこ〉は、独り占めを諦めるポコね!」

 てんこちゃんには悪いけど、これで解決だね。

 でも、このときわたしは、大きな勘違いをしていたの。わたしの考えている『協力』と、まつりちゃんの考えている『協力』、少しだけ意味が違っていました。

「それで、アタシとの『コラボ』は、いつしてくれるのだポコ?」

「えっ、コラボ!?」

「そうだポコ! 今から楽しみだポコね!」

 わたしは、【分福まつり】ちゃんとも、コラボすることになったみたいです……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る