第6話 IT'S SHOWTIME!
【コラボ歌枠】山から下りてきた友人と一緒に歌うコーン!【白雪てんこ】
これが【白雪てんこチャンネル】の、今日の配信のタイトル。
そして、配信のサムネ(サムネイル)には、てんこちゃんとわたしが、仲良く並んでいる画像が映っています。
【妖狐術(ようこじゅつ)】って、本当にすごいんだね! 配信のサムネも、一瞬で完成しちゃうなんて。文字のレイアウトとかも、プロ顔負けだよー!
……って驚いている場合じゃないんだよっ!
「てんこちゃん、歌コラボをするなんて、わたし聞いてないよー!」
「だって、今言ったばかりだコン!」
「大事なことは、昨日言ってよっ!」
そうしたら、少しは歌の練習をしてきたのに。
実は昨日、〈白雪てんこ〉ちゃんのことを色々と調べたんだ。
今のわたしの『設定』は、〈白雪てんこ〉ちゃんの大ファンだからね。てんこちゃんのことをきちんと知っておかないと、嘘だとばれちゃうからね。
その〈白雪てんこ〉ちゃんだけど、過去に何回も歌の配信をしていたの。それをいくつか観てみたんだけど、どれもすごく上手かったんだ。
てんこちゃんが大人気VTuberな理由が、少し分かった気がする。
普通の配信も面白いけど、みんな、てんこちゃんに魅せられていたんだ。
【アヤカシの力】や【妖狐術】なんかじゃなくて、本物のてんこちゃんの歌声に。
そんなてんこちゃんの歌配信に、わたしが参戦。絶対に荒れる未来しか見えないよ!
「もしかしてゆいかちゃんは、歌うのが好きじゃなかったコン?『からおけ』には行かないコン?」
「カラオケで歌うのは大好きだよ! でも、そんなに上手くないだけで……」
「なら、大丈夫だコン!」
なんで今ので、てんこちゃんは大丈夫だと思ったの!?
たしかにわたしは、歌うのは大好きだよ。アイドルとかボーカロイドの曲をいっぱい聴いて、それこそ、カラオケで毎回歌っているよ。
でも、みんなに聞かせられるほどじゃない。
「どうしよう……」
わたしは【コンコンコンピューター】の前でうじうじとしていました。
そして、ついに配信の時間をなります。
〈白雪てんこ〉と〈わたし〉、歌コラボ配信が今、幕を開けました。
「〈人間〉のみんな、こんにちはだコーン! 山から下りてきた白銀のキツネ、〈白雪てんこ〉だコーン! こんコーンっ!!!」
【白雪てんこの配信中のコメント】
:てんこちゃん、コンコーン!
:こんコーン
:てんこちゃん、今日はすごくご機嫌だね
すごい、てんこちゃんの挨拶で、一気にコメントが盛り上がっているよ。
「今日はボクの故郷から、友人がやってきたんだコン。紹介するコン!」
あわわ、今度はわたしが自己紹介をしないと。
でも、なんて言えばいいの。VTuberの自己紹介なんて、色々な人のを何回も聞いてきたのに、いざ自分がするとなると、なんて言っていいか全く思い浮かばないよ!
わたしは目の前に置かれている【コンコンコンピューター】の、てんこちゃんの配信中の画面を見ます。いつの間にかリスナーさんは、500人を超えていました。
ご、500人……っ!?
配信が始まったばかりなのに、もう500人も、この配信を観ているの!?
てんこちゃんが歌い始めたら、さらに人が増えるよ……。
わ、わたしの小学校の全生徒数が480人ぐらいだったはず。それ以上なんて。全生徒の前に立って、わたしの生歌を披露するようなものじゃん。
そんな、校長先生のつまらない話より恥ずかしいこと、わたしできないよっ!
:てんこちゃんのお友達、中々しゃべらないね
:緊張しているのかな?
:もしかしたら、マイクのトラブルかも
み、みんな、わたしの挨拶を心待ちにしているよ。どうしよう。
ま、マイクのトラブルにして、逃げちゃう?
でも、そんなことしたら、てんこちゃんにも悪いし。
どうしよう、VTuberってこんなにも難しい職業だったんだ。
なんでわたし、将来なりたいと思ったんだろう。
やっぱりプリントに、VTuberって書かなくて良かったよ!
(でも……、でも……)
でも、このままで本当にいいのかな、わたし……。
せっかく念願だった、VTuberとしての配信、こんな形で終わりたくないかも。
そんな、弱気になっていたわたしの肩に、ぽんっと何かが置かれます。
それは隣にいた、てんこちゃんの手でした。
『ゆいかちゃん、恥ずかしがることはないコン!』
あれ、てんこちゃんの口は動いていないのに、頭の中に声が響いてくる。
『【妖狐術】で直接、ゆいかちゃんの頭の中に語りかけているんだコン! 今ならゆいかちゃんも同じことができるコン!』
『あっ、本当だ。わたしの声、配信には乗っていない……』
やっぱりてんこちゃんって、色々とできてすごいよ……。
『てんこちゃん……。やっぱりわたし、みんなの前で歌えないよ』
『歌の上手さは関係ないコン! 気持ちが大事だコン!』
『で、でも……』
隣にいるてんこちゃんは、わたしの目をじっと見つめてきます。
『ボクは知っているコン。ゆいかちゃんが、本当はVTuberになりたいことに』
『な、なんでそれを……』
VTuberになりたいなんて、お父さん、お母さん、友達のかなでちゃんにも言ったことがないのに。
『恥ずかしいのは歌が下手なことじゃないコン!』
てんこちゃんは叫びます。
「自分の気持ちに素直になれないことだコン!』
自分の気持ち……。
『ボクが全力でフォローするコン! だからゆいかちゃんは、楽しく歌っていればいいコン!』
悩んでいた、わたしの気持ち。
てんこちゃんの声で、少しだけ軽くなった気がしたよ!
『うん、分かった!』
てんこちゃん、ありがとう!
もしかしたらわたし、一歩だけ前に踏み出せそうだよ!
わたしは大きく息を吸うと、パソコンから繋がっていたマイクに向かって、元気よく話しかけました。
「は、初めまして、〈白雪てんこ〉ちゃんの友達の、【白雪(しらゆき)ゆいか】と言いますっ! こ、こんにちは……だコーンっ!!!」
今のわたしは【近衛ゆいか】じゃなくて、キツネ耳のついた女の子、【白雪(しらゆき)ゆいか】!
〈白雪ゆいか〉が、VTuberとしての、第二のわたしの姿!
【白雪てんこと『白雪ゆいか』のコラボ配信中のコメント】
:マイクが繋がったみたい
:ゆいかちゃんもこんにちはだコーン!
:ゆいかちゃん、声が可愛い!
わ、わたしの声が可愛いっ!? そんなこと、今まで学校で言われたことないよっ!?
でも少し嬉しい。自信にもなるかも!
「今日はてんこちゃんと一緒に、色々な歌を歌おうと思います……コーン! みんなで盛り上がっていコーンっ!』
:ゆいかちゃん、すごく明るい子だね
:何歌うんだろう、楽しみ!
:どうなることかと思ったけど、無事に配信が始まって良かった
「ボクとゆいかちゃんとの、楽しいコラボの始まりだコーンっ!」
わたしの声に負けない、てんこちゃんの元気なかけ声と共に、わたしたちの歌コラボ配信は始まったのでした。
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