第3話 【スクープ】白雪てんこ、彼氏と同棲か!?

 やばい、やばいよ! キツネの女の子に、わたしのことがバレちゃったよ。

 それに、今のわたしは不法侵入者。つまり、犯罪者ってこと。警察を呼ばれたら、一発でアウトだよー。

 わたしはじっとにらんでくる、キツネの女の子の目に耐えることができず、スマホに映っていた、【白雪(しらゆき)てんこチャンネル】の配信へと視線をそらします。

 てんこちゃんの配信のリスナーさんは、わたしのせいで混乱していました。


【白雪てんこの配信中のコメント】

:いまの音なに!?

:部屋から着信音が聞こえたみたいだけど?

:てんこちゃん、スマホが鳴っているよ


 それだけなら、まだ良かったんだよ。一部のコメントでは……。


:てんこちゃん、彼氏でもいるの?

:まさかてんこちゃんに同居相手が!?

:てんこちゃん、お幸せに……


 あわわわわ……、やばいよ! アイドルなのに彼氏バレ?

 こんなの、すぐに悪質な記者にすっぱ抜かれちゃうよ!

(わ、わたしは女の子で、てんこちゃんとはただの友達(※嘘)ですよー!!!)

 ゲーム配信中のなごやかなコメントから一変、嵐のように荒れています。

 それに対して、キツネの女の子〈白雪てんこ〉ちゃんは、落ち着いた様子で、マイクに向かって再び話し始めました。

「みんな、ごめんコン。ボクの友人が、家を訪ねに来たみたいだコン!」


:なんだ、友人だったのか

:不審者じゃなくてよかった

:てんこちゃんの友達はキツネなの?


「友達『は』じゃなくて、友達『も』だコン!」

 少し怒った声で、てんこちゃんはリスナーさんに対して、訂正を求めていました。

「ボクは正真正銘のキツネだコン!」


:そうなんだー

:はいはい

:てんこちゃんは、キツネの『設定』だもんね!


「だから、本当にキツネなんだコーン!!!」

 トラブルにも動揺せず、てんこちゃんは、リスナーさんと楽しく会話をしていました。

「申し訳ないけど、今日の配信は終わりだコン」

 てんこちゃんは、締めの挨拶に入っていました。

「おつコーン!」


:おつこーん!

:おつコン

:おつコーン!


 そして、てんこちゃんは、ノートパソコンのマウスを何回かクリックしました。

 わたしのスマホに映る、【白雪てんこチャンネル】の配信画面には、

 『この配信は0分前に終了しました』

 と表示されていました。

 大きな混乱もなく、無事に配信が終わったみたい。めでたし、めでたし……。

 わたしは再びUターン。てんこちゃんの視界から、そっと消えようとしました。

「では、わたしはこれで……」

 そろーり……。

「ちょっと、待つんだコン!」

「うっ……」

 そ、そうだよね……。不審者のわたしを、見逃してくれるわけがないよね……。

「ごめんなさい。別に覗くつもりはなかったんです。ただ、ちょっと気になって」

 てんこちゃんは正座をやめて、ゆっくりと立ち上がります。

 しっかりと見る、てんこちゃんの全身。

 頭に付いている、白く大きな耳。後ろから覗かせる、白く長い尻尾

 年齢はわたしと同じぐらい。身長も同じくらい。だけど、耳の高さを含めると、わたしの負けだね。

 あと、着物を着ているから、少し大人っぽく見えるかも? こういうのって、和風美人って言うんだよね。半分、人間じゃなくて、動物だけど……。

 そして、ぱっちりと大きく開いた瞳は、わたしのことをにらんでいます。まるで、野良犬に吠えられているみたい。完全にわたしのことを、敵だと認識しているよ……。

「なんで、【人間】がここにいるんだコン」

「人間?」

「そうだコン。ボクは【獣人】。キミは【人間】。この家は【獣人】以外、入れないようにしていたんだコン。それなのにコン……」

 やっぱりこの女の子、わたしたちと同じ人間じゃないんだ。だって普通、耳と尻尾なんて、体から生えていないもんね。コスプレみたいな作り物には、とても見えないし。

「そ、その、〈獣人〉って、一体なんですか?」

「そこから、説明しなきゃいけないんだコン?」

「お、お願いします……」

「しょうがないコン。〈獣人〉とは、動物の間からまれに生まれる、〈人間〉と交流することができる動物のことだコン。飛鳥(あすか)時代から動物は〈獣人〉を通じて、〈人間〉と密かに交流していたんだコン!」

「そんなこと、全く知らなかったよ……」

 飛鳥時代って、わたし、社会苦手なんだけど。かなでちゃん、今電話してきてよー。

「そしてボクは、その選ばれた、キツネの〈獣人〉なんだコン!」

「わー、すごーい!」

 わたしは半分、棒読みで褒めています。もちろん、すごいのは事実なんだけど、ここは相手を怒らせないように、盛大に褒めておくのがいいよね。

「そういえばキミには、〈獣人〉と交流ができる〈人間〉の血が流れているコン……。だから、ボクの結界を通過できたのかコン……」

「そうなの? もしかしてわたしも、選ばれた人物だったりするの?」

「でも、血はとても薄いコン……。自慢できることじゃないコン……」

「そうなんだ……」

 なんか、がっかりしたかも。でも、てんこちゃんの話によると、なぜかわたしには、〈獣人〉と交流ができる力があるみたい。それって、やっぱりすごいことなんじゃ!?

「さて、説明も終わったところで、キミの記憶は消させてもらうコン」

「ええーっ!?」

 喜んでいたのも束の間、いきなりの急展開!?

「ボクたち〈獣人〉と交流ができるとはいえ、正体を知ってしまった〈人間〉は記憶を消すのがルールだコン。悪く思わないでくれコン」

 ど、どうしよう……。せっかく、わたしが持っている秘められた力を知ったのに、それも忘れちゃう! それに……。

 わたしたち、知り合ったばかりなのに、もうお別れなんて悲しいよ。もっと、このキツネの女の子とお話がしたいよ。

 わたしは、〈獣人〉の〈白雪てんこ〉ちゃんのことが、もっと知りたいよっ!

 どうしたら、記憶を消されずに済むの。わたしは助けを求めるように、自分のスマホの画面を見ました。

(そうだ、これにかけるしかないっ!)

 わたしは、てんこちゃんにスマホの画面を見せつけます。

「じ、実はわたし、〈白雪てんこ〉ちゃんの大、大、大ファンなんですっ!」

 わたしのスマホの画面に映っていたのは……。

 【白雪てんこチャンネル】を登録済みのページでした。

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