第2話 突撃!隣のゲーム配信

「ゆいか、また来週」

「かなでちゃん、またねーっ!」

 登下校で使う道の十字路で、わたしとかなでちゃんは、別れの挨拶をしていました。

 今日は金曜日だから、明日、学校はお休み。

 次にかなでちゃんと会うのは、遊ぶ約束でもしない限り、来週の月曜日になるね。

「はぁ……」

 かなでちゃんと別れてから数分後、わたしの口からは、深いため息がもれていました。

「プリント、どうしよう……」

 プリントを出すのは月曜日。適当な職業を書いたら、今日の夜には終わるけど……。

 でも、やっぱりわたし……、VTuberになりたいっ!

 だって、歌やダンスが上手なVTuberは、わたしの憧れの職業だもん。

 学校の授業がダメダメなわたしでも、キラキラのステージの上に立ちたいもん。

 だけど、わたしの夢、クラスのみんなに知られるのは恥ずかしい。

 それなら、こっそりとVTuber事務所のオーディションに応募してみようかな。

 いつのまにか、大人気VTuberになって、クラスのみんなを驚かせてやるんだ!

 きっと、サインを求められちゃうよ。わたしのグッズは売り切れ続出で入手困難に。

 そうしたら、自分の分をクラスのみんなに分けてあげるんだ。

 なーんてね……、妄想はおしまい。

 現実は、オーディションを受けるなんてダメだよ。

 まだ子供だから、絶対に落ちるし。お父さんやお母さんの同意が必要なんだよ。

 それに、なにかすごく得意なことがないと、オーディションには受からない。

 結局わたしは、どうすることもできないだよね……。

 わたしは肩を落として、ふらふらと帰り道を歩いていると、古い木造の家が目にとまりました。

「あ、あれ!?」

 わたしは、違和感を覚えていました。

「こんなところに、家なんてあったかな……」

 たしか少し前までは、なにもない空き地だったような気がする。

 ほぼ毎日、この道を歩いていたのに、なんで家が建っていたことに、気付かなかったんだろう。

 それに、新築のわりにかなり古くさいし。

 普通、新しく建った家なら、木造じゃなくて、コンクリートのきれいな家のはずだよ。

「怪しすぎるよ、この家!」

 わたしは、何かに引き寄せられるように、家の敷地の中に入って行きます。

 そして、今どきは珍しい、引き戸の玄関の扉の前にやってきました。

 わたしは、ドアの引き手に手をかけます。

「開いてる……」

 それに家の中から、女の子の声が聞こえてきます。

『もう、このゲーム、難しいコン!』

 わたしと同い年ぐらいの女の子が、ゲームで遊んでいるみたい。

 何のゲームで遊んでいるんだろう?

『みんなして、下手って言わないでコン!』

 みんな!? 大勢の友達といっしょに遊んでいるのかな?

 それにしてはさっきから、『コンコン』言っている、女の子の話し声しか聞こえてこないんだけど。

 だんだんと、女の子の声が大きくなります。

 それはわたしが、家の中に勝手に侵入して、女の子がいる場所に近づいているから。

 抜き足、差し足、女の子に気付かれないように、わたしは、色々な疑問の正体を突き止めようとします。

 わたしは現場の近くに到着。

 廊下からドアを少し開けて、リビングで女の子が何をしているのか覗きます。

 そしてわたしは、世にも奇妙な光景を目撃するのでした。

(キツネの女の子が、パソコンのマイクに向かって話しかけているよ!?!?)

 部屋の中央に置いてある、丸いちゃぶ台。その前に、わたしと同じぐらいの背丈の女の子が、赤と白の着物を着て、正座で座っていました。

 何より、わたしが驚いたのは、その女の子の見た目!

 外国人のような、白い髪の上からは、白いとがった大きな耳が二本。

 正座して突き出しているお尻からは、同じく白いとがった尻尾が生えています。

(どこからどう見ても、人間じゃないよっ!?)

 とっさに声が出そうになります。しかしわたしは、すぐに両手を口に当てました。

 もちろん、キツネの女の子に、覗いていることがバレたくないのもあったの。

 でも、わたしが声を出さなかった理由は、実はもう一つありました。それは……。

「みんな、今日は配信に来てくれて、ありがとだコーン!」

 キツネの女の子は、なんと『配信中』だったから!

 ノートパソコンでゲームをしながら、一人でマイクに向かって話しかけている。

 これはもう、ゲーム配信をしているしかないよね! VTuberをよく観ているわたしなら、キツネの女の子が配信者だと、一発で見抜いちゃったよ。

 配信しているときに、他の人の声が乗ると、リスナーさんは混乱しちゃう。だからわたしは、絶対に声を出しちゃいけなかったんだ。

 そしてわたしは、小さくうずくまって、自分のスマホでライブ配信サイトを開きます。

 数秒後、すぐにキツネの女の子だと思われる、配信者を見つけ出すことができました。

(えーと……)

 わたしは、キツネの女の子のチャンネル情報をチェックします。


【白雪(しらゆき)てんこチャンネル】 チャンネル登録者数10万人


(〈白雪(しらゆき)てんこ〉ちゃんって言うんだ……)

 なんと、チャンネル登録者数は10万人! 大人気VTuber!

 今、やっているゲーム配信も、なんと1000人もの人が観ているよ。

(す、すごい……)

 そういえば、この子の配信、最近よくおすすめ動画に出ていたような気がする。

 わたしは知らなかったけど、今、すごく注目のVTuberなのかも?

 VTuberの〈アバター〉も、可愛らしい白いキツネの女の子。

 配信中に、耳がピコピコと動いているよ。

 わたしは、キツネの女の子の方も確認します。

(やっぱり耳が、ピコピコと動いている)

 もしかして、連動していたりするのかな……?

 VTuberは〈アバター〉を使って、様々な女の子に変身することができます。

 可愛い動物の女の子もいれば、頭に王冠、襟元に宝石を付けた、お姫様になることも。

 幽霊、妖怪、ロボットといった、人外のものにも、なることができるんだよ。

 きっとリスナーさんは、ただの女の子が、キツネの子に変身していると思っているよ。

 ちがう、ちがうんだよっ! キツネの女の子が、本当に配信しているんだよーっ!!

 も、もしかしてわたし、とんでもない場面を見ちゃったのかも!?

 それと同時に、わたしの直感が、ここから立ち去らないとやばい、と告げていました。

 それにこれは、着ぐるみの中に入っている人を見てしまったようなもの。やばいよ!

(わたしは、ここでなにも見なかったよ。いいね?)

 そっとUターンをして、この場から立ち去ろうとしました。しかし……。

『ピロリロリン~♪ ピロリロリン~♪』

 突然、わたしのスマホが鳴り出します。それは、友達のかなでちゃんからの電話。

(か、かなでちゃーん!? なんてときに電話しているの! これじゃばれちゃう……)

 だけど、時すでに遅し。

 キツネの女の子は、すぐに耳をピンっと立てて、わたしがいる方へと振り返ります。

 目と目が合う、わたしたち。わたしもキツネの女の子も、声には出さなかったけど、すごく驚いた表情をしています。

 少しの間、部屋に沈黙が流れたあと、キツネの女の子は低い声で話しかけてきます。

「キミは、誰だコン?」

 すごく、すごく、怒っています。

 もしかしたらわたし、とんでもないことに、巻き込まれてしまったのかもしれません。

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