第4話 システムズ

 誰も彼女らのことは話さなかった。秘匿にされた伝説。いや、それは伝説とは言えないかもしれない。なぜなら目の前でいまだに活躍しているのだから。


 隠匿レベルはマックスだった。だが、その惑星の民たちはその情報を知らないものはいなかった。それくらいここではシステムズは人気だ。


 素行レベルが極限に高く、性格も良ければ顔も良い。愛嬌も良くて、そして想像を絶するほど強力な力を持っていた。そして……若い。フィリスは成人までまだまだの34歳であるし、菜穂に至ってはまだ幼さが残る29歳であった。

 

 以前の東宇宙まで遠出した時の戦闘はもちろん完全に極秘事項だが、治安維持の活動はよく知られていた。その解決法も竹を割ったような爽快さがあった。悪に対しても非道はしない。そういった心意気が好まれる理由だ。善悪の判断が一般の人たちとよく類似していたのである。

 

 全貌を知る人は群星連合のトップ連中数名しかいないが、ここの惑星には7人強のシステムズがいるとされている。フィリスと菜穂は同じ学園内にいることで親密であった。他の5名とはあまり話をしたことはない。


 個性の話をするなら、その中でよく目立ち好まれているのは5名、この2人もそれに入る。人気が高くアイドルになりそうなくらいだったが、過去に惑星高官たちはそれを危険視し全ての記録媒体やグッズを処分した。秘匿レベルは再びMAXとなり今に至る。


 フィリスは戦闘能力が飛び抜けているだけではない。その柔軟な心持ちで周りを笑顔に変える。

 

 ついこの間は、巨大な戦闘ロボが暴れた時に活躍した。このロボは反射性物質に囲われているため、通常兵器では歯が立たない。しかし、これもおかしな話なのだが、最近、ここ30年ほどこのようなロボや機械の故障が増えている。

 ロボが故障するなんてあり得ないのだが、それも古いものだけではなく新しいものも壊れている。


 その現場にすぐに駆けつけたのはフィリスと菜穂であった。その後から2名来るという予定であったがどうもその必要はないようだ。

 安全装置を外されたその周辺は異様な緊張感で包まれていた。


「又左ちゃん。このチェーンを切れるのは君しかいないよ」


「だがら……、その名前をやめやがれ!」


 単純に槍の使い手だから言われたあだ名だ。


 簡易バリアと最も安全性の高い防護服を着ている指揮官や兵隊達。それでもロボの一撃を喰らうと死もあり得る。安全装置を外した中にはどうしても入れずにいた。だが反射性物質に弾丸の効果は薄い、緊急用破壊装置でミサイルや弾丸が飛び回る、レーザーや超波動兵器などの仕様も試みたが、その莫大な火薬に対してどうも効果が薄い。

 そうこうして手をあぐねいていたタイミングにフィリスたちが来た、槍と拳を持って。


 戦闘ロボの速度は速い、巨大で体長は22mほど、重さにして120tほどある。歩くたび地面に埋まりどうしても行動は鈍くなるが全力で走ることもできるし、拳を振るうのはまるで風を操っているように速い。この大きさに対してこの速さ、攻めあぐねているのは当然であろう。さらには遠距離攻撃無効である。

 

 安全装置解除内に躊躇なく一気に踏み込む2人、菜穂の槍がロボの肩を殴りつける、部品が飛び散る、ここが弱点になるだろう、見ていた緊急攻撃班は照準を肩に合わせる。しかしシステムズの2人が飛び回っているので迂闊には攻撃はできない、そしてその必要はないようだ。

 

 ロボの風を切るような素早い攻撃を交わし、まさに紙一重で交わしていく。たった3秒間に5発は手を振り回しただろうか、ビュンビュンと空気がうなる音が聞こえる。そんな目に見えないパンチを繰り出すロボにフィリスは難なくそれをかわしながら近づき、さらには助走をつけて、顔面に一撃を喰らわせた。大爆発をしたような音がする。空気が震え、まるで時間が強制的に止められたかのような感覚を覚える。反射物質が反応して装備が周りに吹き飛んでいる。そのくらいの衝撃であっただろう。フィリスのパンチの破壊力と反射物質の効く音が合わさり爆音となり周りに衝撃波が飛ぶ。安全装置解除外にいた人たちや兵器類も被害を帯びた。

 衝撃波が止んだ。しばらくの静寂ののち、埃や煙が飛び交う、それらが風に乗りゆっくりとクリアになると、顔が吹き飛んだ後のロボがそこにいた、体部分もその衝撃で完全に沈黙した。

 

 菜穂との合わせ技によりたった2発で完全に破壊されたロボだった。この西側の最高のテクノロジーで作られた戦闘特化型ロボット。一応環境保全と災害時緊急要請用ロボとなっているが、今の時代それはいずれ来るであろう全面的な戦争への準備だった。

 

 実は西側のロボがこんなに簡単に壊されても問題なのだが、今回はシステムズの活躍と強さ、そして非常時での巨大自立型ロボの安全性の問題が浮き彫りとなる事件であった。

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