第3話 コーヒーカップ

 400年前、世界はエロスとキリスト教的性道徳が奇妙な均衡を保ちながら構築されていた。ピューリタン的な性差別の中で、性の平等が叫ばれるという矛盾した状況が存在した。この偏った世界の中で、矛盾の火種が次第にその根幹へと広がっていった。


 すべては情報に基づいている。350年前に起こった事件が世界を闇へと導いた際、忘れ去られたのは情報だった。世界の秩序はある基準に基づいて成り立っていたが、それは極端な平等化のために意図的に歪められていた。すべての人が平等であるべきという考え方が支配したのだ。


 人類を支配する手段は3つある。1つはメディア、2つは教育、そして3つ目が富や名声による支配だ。この3つの力がなぜここまで急速に歪められたのか、その背景を理解する必要がある。それはある国のトップだけでなく、国民全体にまで影響を及ぼすものである。情報が偏っているのは当然だ。偏った国の偏ったリーダーたちが決めた政策なのだから。


 国民を納得させ、メディアや教育機関を黙らせるためには、正確な情報を集めることが必要だった。しかし、その過程は死を超えた恐怖の連続であった。深淵を覗くと、そこから何かが出現し、目が合った瞬間に恐怖と不幸が襲いかかる。国を大切に思う人々も、不名誉な死に対する恐怖に怯えることだろう。すべてを抹殺するための言い訳はすでに用意されている。


 罪を犯すことへの恐怖や、他者から敵と見られる殺人は非常に辛い。しかし、情報がねじ曲げられた世界では、周囲から賞賛され、罪がすぐに消え去ると分かって行う殺人は容易である。このねじ曲げられた世界を作るには、多くの同志、犠牲、そして巨額の資金が長い年月にわたり必要だ。さらに、天才的な頭脳も少なからず必要となる。少なからずというのは、長い年月の中で多くの変更が伴うからだ。途中で大きな失敗をしても、根本的な思想が消えない限り、いくつもの道が成功(悪の)へと繋がる。


 では、このような歪められた世界に来た場合、どうするべきか。それは抗うべきではない。その道に乗るしかないのである。そして、自分の根本的な思想を持ち、それをその道に乗せながら大きくしていく必要がある。破壊ではなく、建設が求められるのだ。


 その道を進む者たちの不幸を見ると胸が痛むが、その不幸は争いに敗れた者たちの姿である。戦わなければ敗れることはないが、すでに作られた道(まるで自動に進むエスカレーターのようなもの)を止めるには遅すぎるのだ。凶悪な独裁者を止めようとする過程で、多くの血が流れるのと同じように、地獄へのエスカレーターは止まらない。


 誰が破滅するかは分からないが、多くの人々が不幸になるのは確かだ。そして同時に、多くの人々がその血を吸い、力をつけ、幸福を手に入れる。それは建設的な話である。そのエスカレーターはもう止まらず、世界を巻き込み混沌へと走り続ける。


 自分や国、惑星を守るために最も必要なのは情報である。情報を集めない者は不仁である。為政者や代表が情報を集めずに動けば、彼ら自身だけでなく、その人々を支える多くの人々に、多大なる損失と不幸を与えるだろう。この世界も当然、情報がすべてである。しかし、いつしかPOPIDに頼る部分が多くなり、その情報のほとんどがPOPID内のデータに依存している。これでは情報を得ることとは違う感覚が生まれる。


 かつては情報や大戦略的なことが未然に防がれていた。だが、POPIDは肥大化し、分裂し、そしていつの間にか薄くなっていった。それはすべてを覆い尽くす代わりに、半透明な薄っぺらいビニールのような存在となってしまったのだ。


 この世界であなたが何をしたいか、それは人それぞれである。しかし、明確な意見を持つ人々もいる。その人々の考えが揺らぐことはない。もしその思想が他者から見て悪であった場合、それはどうなるのだろうか? 他者とは、他国や他の惑星の人々を指す。それゆえに、その人自身やその惑星では善とされても、外部から見れば悪とされる。それらが複雑で危険性を帯びた問題であることは言うまでもない。


 西の最果てにあるこの星もその一例であり、その思想はさらに尖っているのだ。

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