第41話 俺のバカ
・登場人物・
ヤマト……主人公。勇者で憲兵団団長。
アメリア……女魔法使い。二発かましてちょっとスッキリした。
カレンテ……駐在部隊の女性隊長。趣味は人間観察。
ンゴ……憲兵。本当はンゴニー。
ブルボン……憲兵。本当はバラボン。
サイナリア……妖精。自称二十三歳。
ボーラン……悪徳商人(確信)。準貴族。
クードク……飼育員の男性。感情が見えない。
**********
「エルフとは、本当に厄介ですね……」
そう言いながらカレンテが頭を抱えている。
「北エルフ語を話していたから国外のエルフでは無いと思うが、それはそれで問題があるな」
最初の部屋に戻ってきた俺達は憲兵と、先ほど俺が見た他人種について話していた。
エルフと人間の間には昔から
と言うより、エルフが他人種を一方的に見下しているのだ。
こう言った事例があると、エルフ側が人間を非難する格好の材料に成りえる。
「やってくれたなボーラン、流石にこれは釈明の余地は無いぞ」
憲兵とボーランの立場は既に完全に逆転している。
「そう言えばお前、ベビシュテン伯爵がどうとか言っていたが、後でそれについても聞かせてもらうからな」
カレンテがきつい口調でボーランを詰める。
「どうせワシは極刑を免れないんだ。もう煮るなり焼くなり好きにしてくれ……」
もう誰だよお前状態となったボーランが力なく答える。
「なぜそこまで分かっていてエルフにまで手を出したのですか……大体、ここまで派手にやっておいてバレないと思いましたか?」
ジャウベが半分憐みのこもった声で言う。
「…………」
ボーランはうつ向いて黙ってしまった。
「そして、クードクと言ったな」
カレンテに呼ばれたクードクが、ゆるりと顔を上げる。
「貴様は生物学者だそうだが、自分の意志でボーランに協力していたのか?」
「……そうと言えばそうですし、違うと言えば違います」
意外にもしっかりとした口調で答えるが、その答え自体ははっきりしない。
「クードクに生き物の世話を依頼したのはワシだ」
代わりにボーランが答える。
その言葉に、クードクが顔を上げて、
「……利害が一致したのです。先代の飼育員が逃亡してからその穴埋めを探していたボーラン様と、希少な生物の研究をしたい私とでね。まあ先代はどちらも酷い……いえ、これは私ごときが口にすることではないですね」
彼は粛々と語った。
「その辺の事は、時間をかけて聞く必要がありそうだな。で、護送まではまだかかりそうか?」
カレンテがジャウベに問う。
「今、屋敷に居た者全員を食堂に集めて身元を控えていますが、それが終わってからですね。どれくらいかかるか確認して来ます」
そう言ってジャウベは階段を上がって行った。
「ヤマト団長。少し相談なんですがよろしいですか?」
「どうぞ」
俺はそう言って、カレンテに続きを促す。
「本部に団長から口添えをお願いできませんか? 正直この件に関しては我々の手に余ります」
彼女は本当に申し訳なさそうに言っているが、
「心配せんでも、この件は恐らく王国の預かりになるだろう。まだまだ余罪があるだろうしな。そのために俺がここにいるわけだしな」
俺がそう言うと、彼女は「ありがとうございます」と複雑な表情を作る。
「そもそも、人身売買の証拠をつかんでいたのだったらその中にエルフがいる可能性を把握していなかったのか?」
この質問に、カレンテは眉間を抑えて、
「申し訳ありません。その情報は全くありませんでした」
彼女は更にかしこまった様子で続ける。
「言い訳のように聞こえるかもしれませんが、そもそもの情報源というのが捉えられた西側の密猟集団が、その卸し先を吐いたからなんです。エルフは完全に別件だと思われますので……」
実際その辺の細かい物の流れや、憲兵がどのような捜査を行ったかの情報を俺は把握していなので、この口出しは余計だったかもしれない。
「でも応援は呼べるんだよな? 流石にこの人数じゃ厳しいだろ?」
俺はそう言って話を変える。
「はい。ボーゼンドルフ領と南のボルウィン領からいくらか回してもらう事になってます」
待てよ、やっぱりよく考えたらなんでこんな少人数でこんな大規模な作戦をやっているのはおかしいぞ? 生き物もせいぜい多くて数十匹かとおもってたが、三百匹以上いたぞ。
「しかし、団長には本当に助かりました。団長の力量を疑ってたわけでは無いですが、本部から”団長は百人力どころか万人力”だから一人で大丈夫だ、と言われた時には流石に耳を疑いましたから」
チクショーーーー!
そういうことかよ! 完全に足元を見られた!
これらなら報酬十倍くらいふんだくるべきだった!
「隊長、護送の準備ができましたしたので、二名をこちらへお願いします」
ジャウベが憲兵を数人引きつれて、そう言いながら室内に入って来る。
「分かった。ではこれからボーランとクードクの両名を駐在所まで護送する。バラボン、拘束魔法を――」
ぽーん!
突然謎の音がしめやかに地下室内に響く。
同時に、俺の第六感が悪い方向へビンビンと反応している。
それを聞いたクードクが、ガタンと音を立てて椅子から立ち上がり、駆け出す。
「!? おい!! どこへ行く!?」
バラボンが慌ててクードクの腕を掴む。
「多分、アメリアのいる場所の何かの結界が解けてる」
「え!?」
魔力制限下の漠然とした感覚だが、おそらく間違いない。
「ボーパルバニーだ!!」
クードクが壁に設置された何かを指して、渾身の叫び声を上げる。
「!? 何だって!?」
カレンテが驚きの声を上げる。
「ボーパルバニーの檻の封印が解除されてる!!」
こいつこんな声出せたのかというような大声を上げるクードクと、その内容を聞いた周囲が騒然とする。
俺は現実逃避したい心情に駆られる。
「放せ!! あの区画を早急に閉鎖せねば大変なことになる!!」
取り押さえた憲兵を振りほどこうと暴れるクードク。
「バラボン放してやれ! ヤマト団長! 申し訳ございませんが私と一緒に現場に向かって頂けますか?」
これは俺の落ち度だ。
こうなることは分かっていたんだ。
ただ、アメリアにはあの結界をどうこう出来ないだろうという思い込みと、イマイチ信用できないとはいえ、一応見張り役が付いていたから流石に大丈夫だろうという思い込みがあああああああああ!!
バカバカバカ!!
俺のバカアアアアアアア!!!!
「すぐに向かおう」
俺は極めて冷静を装って答えた。
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