第34話 白くてスベスベのおてて
・登場人物・
ヤマト……主人公。勇者で憲兵団団長。
アメリア……女魔法使い。そろそろ一発かましたい気分。
カレンテ……駐在部隊の女性隊長。趣味は人間観察。
サイナリア……妖精。自称二十三歳。
**********
手を借りるって……。
((あ~ん。 この白くてスベスベのおててぇ~~))
「ヤバくて草」
手を借りるとは何のことかと思えば、サイナリアは先ほどからずっとアメリアの腕に頬を摺り寄せている。
「本当に連れて行くんですか?」
カレンテがその様子を微妙な表情で眺めながら言う。
「だってこいつあたしの腕から一生はなれねぇーんだもん」
こちらも微妙そうな顔をしたアメリアがそう漏らす。
そして、先ほどからすれ違う人という人から怪訝な視線を向けられている。
「まあ大丈夫だろ。何ならそのボーランとか言うやつの当てつけに使えるかもしれん」
正直、アメリアごと置いて行こうかと考えたが、それはそれで問題を起こしそうなので、目の届く範囲に置いておくため仕方なく連れていくことにした。
「しかし、最近天気が良いですね。水不足にならなければよいのですが」
確かに、ここ一週間ほど晴天が続いており、それはそれで温かくて過ごしやすく良いのだが、本来聖王国の内陸部はこの時期雨期に当たるため比較的雨天が多いはずである。
しかし例年その降水量は安定せず、数年に一度は大規模な干ばつを起こしており、それは湿地の多いこの地方も例外ではない。
「淀んだ水場には瘴気も溜まりやすいし、特にこの辺は大変かもな」
まあ、雨が降ったら降ったで、ただでさえぬかるんだ道が更にぐちゃぐちゃになるので、難しい所である。
「それにしても……」
そう言いながらアメリアの方を見ると、サイナリアは飽きもせずにアメリアの腕にまとわりついていた。
「お前、なぜか定期的に同性から好かれるよな?」
俺がそう言うと、アメリアは何とも言えない表情で俺の方を向いて、
「定期的ってそんなの誰かさんだけだし今回のこれはなんていうか人というよりペットみたいな感じだし」
でもそれ、二十三ですけどね。
「でも自分はアメリアさんが同性に好かれる理由が何となくわかりますけどね」
アメリアはそれを聞いて更に渋い顔をする。
言われてみれば、アメリア側から女性に突っかかっていくことはあれど、相手側からキツく当たられることは少ない気がする。
「つまりそれって、同じ女として見られていないだけじゃないのか?」
それを聞いたカレンテは、
「い、いえそう言う意味では無く、女性としても大変魅力的だと思いますよ!」
かわいいには二通りあるとはよく言ったものだ。
「なあそれよりさっきからこいつ股間を擦りつけてくるんだが……」
サイナリアはアメリアの腕に絡みついて、それを抱き枕のようにしている。
「それが妖精流のスキンシップなんだろ」
俺は適当にそんな事を言う。
「あたし体毛割と濃いからそんなスベスベじゃないと思うんだが……」
その光景をやんわり無視して、
「カレンテ、そのボーランって言うのはどんなやつなんだ?」
カレンテにそう質問すした。
「恐らくヤマト団長の想像の通りの人物だと思いますよ? とりあえず私達にはかなり横暴な態度をとっていますが、団長にはどうでしょうね」
この世界の金持ちが俺と対峙した時の態度には、主に二通りのパターンがある。
一つは、とりあえずひたすら頭ごなしに上から威圧してくるタイプ。
そしてもう一つは、とにかくこびへつらうタイプである。
「どういうタイプか賭けないか?」
そうカレンテに提案すると、
「賭けですか? よろしいですよ、では私は下手に出る方に賭けます」
「じゃあ俺は媚びてくる方に賭けるか」
カレンテは「それでは賭けになりませんよ」と返して来るが、もとより真面目に賭ける気は無かったのでこれで良い。
「見えてきましたよ、あそこです」
そう言ってカレンテが指差す先には、高級邸宅地の中にもひと際大きなレンガ造りの塀が見える。
中の建物はその頑丈そうな塀に隠されており、伺うことは出来ない。
「なあやっぱこいつ息遣いヤバいって。しかもなんかあたしの腕濡れてるんだけど」
「あそこが門か、門番を二人も雇って御大層なもんだな」
門自体は視認できないが、長い塀の先に門の両サイドに立っているであろう武装した衛兵が見える。
「そ、そうですね。あそこが門ですね」
全く何を動揺しているのか、カレンテの様子がおかしい。
それにしても、高い塀だ。
こんなに高くして、一体何を守っているんだか。
そんなことを考えながら歩いていると、門番がこちらに気づいたようで、顔をこちらに向けた。
ここまで来ると流石に人通りは疎らで、憲兵の服を着て妖精を連れた俺達は相当目立つだろう。
遠くからでも分かるくらい、門番はこちらを凝視している。
「さて、ここからだな」
そう呟いて、俺は懐の令状を触って確認する。
「ああんっ!!」
ぷしゃっ。
「は?」
甲高い声が聞こえ、続けてアメリアが低い声を出した後、その場で硬直した。
ちらりとそちらを見ると、アメリアの腕から透明の液体がしたたり落ちているのが見えた。
そして、その腕を抱えてぐったりとしているサイナリア。
「はああああああ!!?? コイツ!! あたしの腕で有頂天だぞ!?」
アメリアが意味不明な言葉を叫ぶ。
「単に尿意を堪え切れなかったんだろう」
俺は真顔でそう言った。
「いやいやいやそうはならんだろ! しかもなんかめっちゃ甘いにおいがするんだよコイツ!」
「糖尿なんだろ」
「いやいやいやいや!」
その様子を何とも言えない表情で見ていたカレンテが、二人に顔を寄せると、
「確かに、話には聞いていましたが、砂糖菓子を焼いたときのような甘ったるいにおいがします」
「そこ掘り下げなくていいから、もう無視してとっとと行こうぜ……」
なんか動物の交尾を見た時のような、しかしそれとも違う複雑な気分だ。
「ああクソ服にもかかってる! ヤマト! なんか拭くもの!」
アメリアは謎の液体で濡れた服を見て、俺にそう要求してきた。
「ハンカチくらい持っとけよ……ほらっ」
俺はポケットからハンカチを取り出すと、アメリアに押し付ける。
「これぜった後でベトベトするやつじゃね!? なあヤマトぉ」
「知らねーよ! 気になるなら舐めて見ればいいんじゃね? あとそのハンカチ返さなくていいから」
そんな言い合いをしている横で、カレンテが謎の体液で濡れたアメリアの腕を、指でそっとなぞった。
「……え?」
「え?」
固まってお見合いする二人。
「!? い、いや!! 舐めませんよ!?」
慌てて飛びのくカレンテ。
そんな俺達を、遠くで門番が、ものすごい剣獏で睨みつけていた。
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