第33話 念話

・登場人物・


ヤマト……主人公。勇者で憲兵団団長。

アメリア……女魔法使い。ゲロイン。今の所活躍の場が無い。

バジョン……冒険者ギルド職員。魔動車の運転手。

カレンテ……駐在部隊の女性隊長。実はこの町の出身。

ジャウベ……憲兵。巡査長。

オルトウ……憲兵。もうこの先出番無いです。

ブイヤン……犬人族の男。大陸西部の言葉(宮城弁)を話す。


**********


 そんな他愛もない話をしていると、今度はノックも無く扉が開き、昨日保護した妖精を連れたオルトウが現れた。


 それを見たブイヤンが目を見開いて、


「こりゃらずもねっぺ! ほんとによせさだべっちゃ!」


 思わず感嘆の声を上げた。


 そしてそれを聞いた妖精も。


「だべすだべっちゃんだばとんだやらばっちゃ!!」


 ?? 急に謎の言語を口にした。


「んだばだばでばちゃっちゃなしでばやっちゃ!?」


 ブイヤンもそれに対応しているが、俺には「だべだべ」いっている様にしか聞こえない。


「ええと、このはおいの国の言葉が分がる。したっけや完全じゃねがだす」


 多分、「この妖精は彼の国の言葉が分かるが、完全に通じるわけでは無い」と言っている。


「なるほど、とりあえず名前と年齢を聞いてもらえるだろうか」


 カレンテは勝手に話始めてしまった二人を、とりあえず向かい合わせて椅子に座らせると、ブイヤンに対してそう伝えた。


 そしてまた二人が二、三言、会話をする。

 やはり、本当に言語なのか怪しくなるような音を発している。


「よせさの名前は”サイナリア”だす。年齢は二十四でがすぺが、数え年だからこつらでは二十三だす」


 そして彼はカレンテをちらりと見ると。


「……おいはもっと年上だ思うだす」


 俺達に向けて小声で言った。


「そうか、では、どうして捕まったのかを聞いてもらえるか?」


 ブイヤンが頷くと、またまた二人で会話を始めた。


「二十三……」


 アメリアが深刻な様子でボソッと呟く。


「いがでばっちゃだばだば……だば?」


 会話の途中で、なぜかブイヤンが俺を一瞬見る。


「おぼこだがやまとどだばだばだばっちゃだぼ?」


「ちゃっちゃやばだべしょすいだべばだんばったちゃ!」


 そしてまた二人で俺の方を見る。


 かなり怪訝そうな表情をしている。


「なんが、ヤマトさんにいぎなしひん剥かれて、いろいろぶっかけられて、ぐるぐるまきにされだ言ってるだす」


 それを聞いたカレンテが嘘だろコイツと言ったような顔で俺を見る。


「二十三の女性を公衆の面前でひん剥いて液体をぶっかけてぐるぐる巻きにして車に連れ込んだ事に間違いありません」


「衛生的に酷く汚れていたため、魔法で洗浄してタオルを巻いて、この魔法使いのガキに託しただけだ」


 アメリアがとんでもない反射神経でそんなことを言ったため、俺はいたって冷静に反論した。


 それに対してカレンテは微妙な顔をしながらも、彼らの方に向き直り、


「そこではなく、最初に連れてこられるきっかけになったことを聞いてくれるか?」


 そう言って話を仕切りなおした。


 とりあえず、妖精のサイナリアの話としては、日課の花売りに行ったらその取引先に捉えられてこちら側まで連れてこられたらしい。


「花売りってまさか体売ってるって事か? 誰に?」


 アメリアがブイヤンに尋ねるが、今までの会話の流れ的に俺も同じことを考えていた。


「いんや。多分、薬の材料だす。貴重な高山植物の一部を、よせさが採集して人里に売ってるだす。こつらでは違法な物もあるだす」


 それはそれでダメなのではなかろうか。


「この辺の話は妖精側は悪気が無く、話を理解してもらうのに苦慮しているみたいです。人種による効能の違いや、違法成分の抽出方法を知らないとかで、向こうでは合法なんだとか」


 カレンテがその雰囲気を察して補足する。


「そもそもおいの国は国としての構造がこつら側とはっぱり違うだす。足並みそろえて規制なんて無理な話だす」


 西側の国は、国というより民族の集合体といったような物なので、大まかな枠組みの中でそれぞれの民族が村社会を形成して暮らしている。

 なので、国として見た際に全体として統率が取れているとは言い難い部分があるのだ。


「それでも、やはり向こう側でもようやく問題になってきているようで、昔よりはだいぶ協力が扇げるようになっているんですよ?」


 なんか少し話が不穏になって来たので、とりあえず俺が気になっていることを尋ねることにした。


「なあ、その妖精……サイナリアに”念話”が出来るか聞いてほしいんだが」


 念による会話なら言語が分からなくてもある程度の意思疎通が行える。

 しかし、強引に相手の精神に直接干渉する魔法は違法なので、一応相手に承諾を取る必要がある。


「念話だすか? 聞いてみるだす」


 妖精は魔法が得意なはずなので、ワンチャン可能なのでは無いかと思っている。


「いけるみたいだす。”精神防御”を解いてほしいらしいだす」


 そう言われたので、俺はサイナリアに精神のチャンネルを合わせる。


((ああ? デカ猿分かる?))


 うぉっ。

 思った以上に鮮明な意思が流れ込んできて、思わず驚く。


((あんた昨日はよくもあたちをはずかしめてくれたわね))


((お前、こんだけ話せるんなら最初からこうすればよかったわ))


((あんたがあたちの魔力を封じてたからできなかったのよ。まったく、これでもあたちは村でもゆうすうのなのに、あたちをおさえるなんて、あんたとんでもない魔力量ね))


 魔法で相手に自分の意思を明確に伝えるにはそれなりの技術が居る。

 昨日は咄嗟の事だし、車内魔法厳禁の魔動車での移動だったためサイナリアの魔力を即時封印してしまったのだ。

 まあ、結局あの場合は事故を避けるためには仕方なかっただろう。


((あのときは遅れをとったけど、あたち本気だせばあんたなんてこなごなにして畑のひりょうにしてやるんだから))


「どうです? 話せてますか」


 カレンテが俺に尋ねる。


「とんでもなく口が悪いぞコイツ」


 俺がそう言うと、横で大人しくしていたアメリアが、


「なああたしも! あたしも混ぜて!」


 興奮気味にそう言っている。


((あーあー。あたしの名前はアメリア。こんにちは妖精さん))


((こんにちは小猿おさるさん。あなたはお子さまだからひりょうにするのはゆるしてあげるわ。それにあなた、お顔がすこしあたちのこのみだし))


((んん? それは一体どういう意味だ?))


 ちなみに彼女らのこの会話は俺に向けられていないが、当然のごとく傍受している。

 これは秘匿されてない限り違法ではないので悪しからず。


((そこで、あんたたちにあたちが挽回のよちをあたえてあげる))


 一体何を言い出す気だこいつは。


 サイナリアはそう言うと、何故か突然もじもじし始める。


((なんだよ? 早く言えよ))


 俺がそう急かすと、


((だまりなさい! あんたじゃないわよ!))


 俺じゃないのかよと思ったが、そういえば傍受してるんだったわ。


((その、あなたのおててを貸してほしいの))


((え? あたしの手?))


 なんか、この妖精やたらもったいぶるなぁ。


((具体的に言えよ。アメリアに何を手伝わせたいんだ?))


((ほんとうるさいわね! ちがうわよ、手よ手! おててよ!))


((手?))


((手って? 物理的な意味か?))


((そうよ! あなたのその、しろいおててを借りたいの!))


 俺たち二人は意味が分からず顔を見合わせて呆けている。


「一体団長たちは何の話をしているのでしょうか?」


 カレンテが俺達の横でごく真面目な表情をしながら、バジョンに尋ねていた。

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