第32話 犬人族
・登場人物・
ヤマト……主人公。勇者で憲兵団団長。
アメリア……女魔法使い。ゲロイン。今の所活躍の場が無い。
バジョン……冒険者ギルド職員。魔動車の運転手。
ジャウベ……憲兵。巡査長。
オルトウ……憲兵。次で出番最後です。
**********
「ヤマトさんなんで勝手に行っちゃうんですか!?」
一度宿屋に返って服を着替えた後、憲兵の詰所に集合した俺達は、遅れて入って来たバジョンに開口一番そう言われた。
「何でって、挨拶しろって言ったのはお前だろ?」
俺は反論をする。
「私が迎えに行くので一緒に行きましょうって言いましたよね? ……あれ、私言ってましたよね?」
顎に手を当てて記憶を辿るバジョン。
「あたしは聞いてないぞ」
「俺も聞いてない。はい、お前の負けー」
俺達に立て続けにそう言われたバジョンは、
「くぅっ……何でこんな時だけ息がぴったりなんだっ」
とても悔しそうな顔をしていた。
「ええと、よろしいですか?」
その様子を少し戸惑った様子で眺めていた女性が声をかける。
「改めまして、自分はプラソディ町駐在所で所長を任されております、小隊長の”カレンテ”と申します」
そう挨拶をした女性は、先日世話になった男性四人とは肌色も顔立ちも違い、北方出身のように見えた。
年は三十半ばくらいに見え、がっしりした体形でいかにも軍人といったいで立ちをしている。
「時間もあまりありませんので、本日の作戦について説明させていただきます」
カレンテは端的に言うと、詰所の壁に貼られたこの町の地図を指す。
「決行は本日の昼八つ。捜査対象は商人の”ボーラン・ラルゴー”邸宅です。容疑は人身売買および希少生物の密売です」
彼女は指し棒で該当の場所を丸くなぞる。
「このボーランという男ですが、領主に”性”を名乗ることを許可されている上級領民です。そのため、ほぼ部外者の我々が今まで表立って捜査することができず、歯がゆい思いをしておりました。しかし、この度ようやく十分な証拠が整い、身柄を確保する算段がつきましたので、ヤマト団長にご足労頂いた次第です」
その言葉を聞いて、バジョンが鞄から巻紙をカレンテに渡す。
「こちらが王国から発行された令状です」
渡されたそれに目を通したカレンテは、満足そうにうなずき。
「これで本願だったボーランの検断を行えます。ヤマト団長、今回は宜しくお願いします」
そう言って彼女に、その令状を差し出された。
やっぱ俺がやるのかぁ……。
俺は嫌々ながらそれを受け取る。
「さて、ここで一つ面倒な事があります」
改めてカレンテが話を続ける。
「令状が出ている通り、ボーランがこの町の密輸と密売の頭取であることは間違いないのですが、その保管場所の確認が出来ておりません。しかし、状況的にほぼ屋敷の地下であると確信しておりますので、本日はそこへ踏み込んで直接証拠を確保できるかが重要になっています」
カレンテがアメリアを見る。
「その地下室の捜索のために、探知の魔法に長けた魔法使いを同行願いました。アメリアさん、その件お任せします」
「えっ? あたし?」
まるで初めて聞いたというような素振りだが、実際に伝えてないのでその反応で間違いない。
「いや、こいつは保険だから、基本的には俺が捜索するよ」
保険というのは建前で、実際には俺以外の魔法使いを連れて行けと言われたので、仕方なく連れて来ただけだ。
「そうですか、では宜しくお願いいたします」
そして俺達は彼女と細かい作戦の内容とすり合わせ行ったが、内容を要約すると、俺がボーランの屋敷に踏み込んで地下室の場所を魔法で確定する。
そのままの勢いで地下室にも突入し、現場を確保するというものだ。
個人的にはこれくらいシンプルな方が動きやすくて良いのだが。
「あの、団長。説明している私が言うのもなんですが、こんな作戦で大丈夫なんでしょうか?」
カレンテが不安になって聞いてくるので、
「大丈夫だ。問題ない」
そうやって答えておいた。
「では、私はヤマト団長と正面、ジャウベ隊は搬入口、そしてオルトウ隊は裏口という事で。お前たちは逃げ出す者が居た場合それを抑えてくれれば良いので、出来る限り目立たないように頼むぞ」
コンコン。
一通り話がまとまった所で、室内にノックの音が響く。
「入れ」
カレンテがそれに声をかける。
「会議中失礼します。少しよろしいですか?」
若い新顔の憲兵がドアの隙間から顔を覗かせる。
「かまわん。今終わった所だ」
カレンテがそう言うと新顔は、
「例の通訳が見つかりましたので、お連れしました」
彼女にそう伝えた。
「おお、まさかこんなに早く。中にお連れして。オルトウは
カレンテは彼らにそう指示を出すと、通訳の人物を招き入れる。
「ど、どうもこんにちはでがす……」
そして、顔を出していたの憲兵と入れ違いに、犬顔の男がおそるおそる顔を出す。
”犬人族”だ。
「こちらにどうぞ。いや、突然申し訳ない、急にこんな事を頼んんで……」
そう言ってカレンテが、その犬人族の彼を迎え入れる
「んだば、失礼して……」
そう言って身を低くしながら、彼は促された席へ着く。
身なりからして労働者だろうか。
身長は俺より少し低いぐらいで、犬人族としては少し小柄であるが、体つきはがっしりしている。
「あっもすがすてゆうしゃやまとさんでがすぺ?」
突然謎の訛で話しかけられ、何て言っているのか分からなかった。
「ああ! 失礼しますた。国の言葉がぬけませんで、おいの名は”ブイヤン”いうでがす。あなたは勇者ヤマトさんとお見受けするでがす」
恐らく大陸西側の言葉がまざっているようで、犬人族特有の発音もあいまって彼の言葉はかなり聞き取りずらい。
「確かに俺はヤマトだが、もしかしてどこかで会ったか?」
俺がそう返すと、
「いいえ、昨日の晩げ、門の所で門番さんと話してるの聞いたでがす」
うわぁ。
嫌なとこ見られてるぅ。
「ははっ。これは変な所を見られたもんだ。普段はあんな強引な事はしないんだが、急ぎの用事があったもんでね」
俺が真剣に弁解をしていると、隣でアメリアが「なんだそのNPCみたいな話し方(笑)」と言いながら俺の脇腹を小突いて来た。
いつもの「
「分がっでがすぺ。勇者さんにもなると、そりゃもういぎなり大変だおもうでがす」
本当にそう思ってくれているかは定かではないが、これ以上変な噂が立つのは勘弁していただきたい。
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