第31話 なろう系テンプレ

・登場人物・


ヤマト……主人公。勇者で憲兵団団長。

アメリア……女魔法使い。ゲロイン。今の所活躍の場が無い。


**********


 俺はそう言って、ポケットを弄ってを取り出す。


 そして、手に持った物を戦士風の男の前にぶら下げる。


「ん? なんだコレ? ネックレス?」


 ポカーンとそれを眺める男。


 ガタッ!


 カウンター越しに、飛び跳ねるように立ち上がった職員が物凄い勢いでギルドの裏手へと駆けて行った。


 その職員に対して不意を突かれた様子を見せた男だったが、


「え? なんだなんだ? ああ、これでよろしく頼むってやつか? グヘヘ、なかなか高そうじゃねーか」


 そう言って、俺のネックレスを受け取ろうと手を伸ばす。


「アニキッ!! ちょっと待って!!」


 先ほどまで俺達の様子を眺めているだけだった腰ぎんちゃく風の男が大きな声を上げる。


「!? クソてめぇ!! いきなり大声を出すな!!」


 散々ビックリさせられている戦士風の男が、反射的にそいつを怒鳴りつける。


「あ、兄貴!! 待ってください! その……それっ!!」


 焦った腰ぎんちゃくが俺の手に持ったものを指差す。


「ああん? これが何だ?」


 全く理解できていない戦士風の男が、俺とその腰ぎんちゃく風の男を交互に見る。


 そして、スカウト風の男もこれの正体に気づいたようで、その細い目をめいいっぱいかっ開いた。

 ついでにその男は、口も開いてこう叫んだ。


「そ、それ”S級冒険者章”じゃないっすかああああ!!!!」


 今日一番の大声に、遠巻きで眺めていた冒険者連中も一斉にこちらに注目する。


「ん? は? え?」


 理解が追い付いていないのか、男が間抜けな顔で間抜けな声を上げている。


「兄貴っ!! その人多分めちゃくちゃ人っす! ”騎士”とか”貴族”様かもっす!!」


 腰ぎんちゃくがそう言うと、隣に座っている魔法使いが驚いて椅子から転げ落ちそうになった。


「…………」


 戦士風の男が固まって冒険者章を見ている。

 未だに頭が付いてこない様子だ。


 それにしても、ンゴニーといいこういうヤツははなんでモルモット並みの知能しかないんだ?


「ヤマト様ああああああああ!!」


 そして今度はギルドの裏から物凄い雄たけびを上げながら、一人の男が飛び出してきた。


「失礼しましたヤマト様。お早いご到着で……」


 なんとも神経質そうな中年男が、手を揉みながら俺に頭を下げる。


「わたくし、このプラソディー町支部を預かっております”ニケルルパ”と申します。以後お見知りおきを」


「ああ、宜しく。騒がせて悪いな、すぐ出るから」


 俺がそう言うと、彼は「いえいえ奥でお茶でも」と引き留めてくる。


「ヤマト? もしかして”勇者ヤマト”?」


 スカウト風の男が呟く。


「ひゅっ」


 戦士風の男の口の端から空気が漏れる。


「すすすすすすすすびばせえええええんん!!」


 スカウト風の男が再び叫んで、地面に正座して指を組む。


「そんな方とはつゆ知らずう!! 大変失礼な口をききましたあ!!」


 そう言いながら男は何度も神に祈るように頭を下げる。


「だからあ!! どうか命だけはお助け下さいいいいい!!!!」


 スカウトの男がそう叫んだのを皮切りに。


「お、オレは何も言ってません!! 何も言ってません!!」


 腰ぎんちゃく男がそう言い残してギルドを飛び出していく。


「あ、ああら、アタイは最初からじゃないと思ってたよお?! 勇者様、よかったら今夜時間ない??」


 魔法使いの女が、手をすり合わせながらすり寄って来る。


「なんだよこのテンプレみたいなの」


 アメリアは呆れたようにその様子を眺めれいる。


「悪いが俺、今日は予定が詰まってるんだよ、もうこれで失礼するよ」


 もう二度と立ち寄ることも無いと思われるので、俺は挨拶も早々にこの場を切り上げに掛かる。


 てか、バジョンは何やってんだよ?

 こういう場合は先にギルドで待っててくれるものじゃないのか?


「今度この町に立ち寄ることがありましたら、ぜひギルドにお立ち寄りください」


 自分で言うのもなんだが俺なんかに媚びを売った所で得るものは無いどころか、逆にババを引かされる事態にもなりかねないのでやめた方がいいと思う。


 そう思うと、昨晩の門番は中々堂々としていたな。

 ちょっと悪いことしたかもしれん。


 そう考えながら、俺は足早に出口へと向かう。


「なあ? ここ来る意味あったか?」


 出口へ向かいながら、アメリアが小声で俺に尋ねる。


 バジョンに言われたから来たが、正直意味があったのかと言われると、断言して意味が無かったと言える。


「ねぇヤマト様ぁ~。そんなガキじゃなくてアタイが相手してあげるからぁ~」


 魔法使いの女は、俺達について来て、俺の腕に胸を押し当ててくる。


「ヤマトぉ~~こんなガバ○○なんて相手にしちゃだぁめぇ~~」


 アメリアが女の口調を真似して、その慎ましい胸を擦り付けてくる。


 いつも思うが、アメリアを引き合いに出してすり寄って来る女は、アメリアが俺の身内だったりという事を考えないのだろうか。

 まさか本気でロリコンだと思われてる?

 そして逆に、なぜか男からは兄弟扱いされるケースが多かったりして謎が多い。


「あら~お嬢ちゃん。アタイは別に三人でも良くってよぉ~?」


「アタシは化粧臭い女との〇Pなんて御免だよぉ~」


 なかなかしぶといなこの女。

 あと、アメリアは悪乗りが過ぎるので、そろそろやめてほしい。


「じゃあ、ヤマト様。そう言う事だから、気が向いたら今夜、あたしの所に来てねっ!」


 そう思た矢先、俺のポケットに何かを押し込んで、女は自分の席に戻って行った。


「いいですねヤマト様はモテモテで!」


 皮肉を言うアメリアに俺は、


「なんだかんだノリノリだったじゃん? 実はまんざらでもないんじゃないの?」


 俺はそう言って、アメリアのケツを叩く。


「はいはい私相手でんだったらいくらでも相手になりますよぉ~」


 コイツ一体どうしたんだ? ちょっとキモイんだけど。


 そんな下品な話をしながら、俺達は出口をくぐりギルドを後にする。


 そして最後に、ギルドの中から戦士風の男のダミ声が聞こえてきた。


「あっ! 勇者ヤマトにサイン貰っとけばよかった!」

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