第30話 プラソディ町の冒険者ギルド
・登場人物・
ヤマト……主人公。勇者で憲兵団団長。
アメリア……女魔法使い。ゲロイン。今の所活躍の場が無い。
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朝食を終えた俺達は、だいぶ明るくなったプラソディの町を冒険者ギルドに向けて歩いていた。
立派な石造り城壁のせいで朝日は見えないが、既にそこそこの人通りがあり、町はにわかに動き出しているようだ。
「朝早くからご苦労なこった」
そんな様子を眺めていたアメリアが不意にそんなことを言い出す。
「お前な、本来冒険者は朝早く起きて、そして日が落ちる前に町に入るものだ。いつも昼まで寝てるお前がおかしいんだよ」
こいつは俺と行動していないときは大抵、ダラダラと仕事もせずに過ごしている。
B級の冒険者にそんな余裕は無いはずなのだが、そこのところを全く理解していないのだろう。
「毎度言っている事だが、お前はもっと危機感を持て。今回の仕事だって俺が居なければ受けれない仕事なんだ。食事だって宿だって、もっと身の丈に合った生活をしないと近いうちに破綻するぞ?」
むしろもう破綻しているのだが、という事に俺は言った後に気づいた。
「あーうるせえうるせえよく飽きもせず毎日毎日説教できるなお前に言われなくても分かっとるわ」
いつかコイツのケツに火が付くその日まで、俺は言い続けるだろう。
それは自衛であり、腐れ縁に対する俺のやさしさでもある。
そうこう言っている間に、俺達はプラソディ町の冒険者ギルド前までやってくる。
話には聞いていたが、町の規模から考えると大変に質素な佇まいである。
俺は少しだけ建物を眺めてから、ギルド内に踏み込んだ。
中は外見に違わず貧相な雰囲気だが、人はそれなりにおり、特段寂れているという様子ではない。
しかし、カウンターには頬杖をついた女性職員が一人いるだけで、他の冒険者もたむろして話しているだけで、これからすぐにクエストに出かけるといった感じでもない。
俺達が踏み込むと間もなく、中にいる冒険者の視線がこちらに集まる。
田舎のギルドにありがちな嫌な雰囲気だ。
そのまま二人でカウンターまで歩いて行くが、カウンターの女性はちらりとこちらを見ただけで、すぐに目線を手元に落とす。
アメリアはお上りさんのように、キョロキョロとギルドの室内を眺めている。
カウンター前まで来ると、やはり職員は手元を見ており、そこに何かあるのかと思ったが、机の木目を指先でなぞっているだけだった。
そして、すぐ近くの席に腰掛けている、おそらくパーティーと思われる冒険者の四人が、俺達二人の事をジロジロと見て来ている。
あまり長居したくないなと思った瞬間だった。
「おう。なんだなんだ? ここは遠足に来る場所じゃないぜ?」
明らかに俺達に対して大げさな口調で、その集団の一番手前に腰掛けている戦士風の男が声を上げた。
「労働者ギルドは商業地区だぜ兄ちゃん? 道に迷ったんなら憲兵さんにでも案内してもらいな」
「キャハハハハ!」
続いてスカウト風の男がそう言うと、その向かいに座っている魔法使い風の女が甲高い声で笑った。
こんな露骨に絡まれたのは久しぶりだ。
「なあキミ。マスターに挨拶しに来たんだが、俺は――」
そんな連中を無視して、俺はカウンターの女性に話かけたのだが、
「キャハハハハハ! 無視されてるしー! まじウケるぅー! てかお兄さん、ちょっといい男じゃない??」
先ほどの、いかにも尻軽そうな風貌をしている魔法使いの女が、再び大きな笑い声をあげる。
「兄ぃちゃん中々肝が据わってるじゃねぇか。それともあれか? ビビっちまってこっち向けねぇのか?」
うぜぇ……。
なんなんだここは?
どんな田舎のギルドだって、ここまでテンプレみたいな絡み方はしてこないぞ?
「えっと、俺は今日ギルドに言われて――」
なおも俺が無視してカウンターの職員と話をしようとすると、戦士風の男がドンッとテーブルを拳で叩く。
「なあ? 兄ぃちゃん、いい事を教えてやる。お前ぇここに来たら誰より先にまずは俺様に挨拶だ。そして、この俺の忠告は必ず聞いた方がいい」
もー。
何これぇ……。
言った後に男は、こちらに胸を張って見せる。
それなりの体躯だが、ボヨンと出っ張ったお腹から、コイツが大した冒険者でないことは一目見て分かる。
「じゃあ俺様にまず挨拶だ。ほれっ」
そう言って男は手招きのような仕草をするのだが、一体何を挨拶しろというのだろうか。
彼の後ろでは、ニチャニチャと笑う腰ぎんちゃく風の男がその三下っぷりを演出している。
「ああ。すまない。よろしく頼む」
面倒くさいので、俺は適当に挨拶をしたのだが、どうもそれは気に入ってもらえなかったらしく、
「チッチッチ。違う違う、そうじゃない」
今度は隣のスカウト風の男が口を挟んできて、すくっと立ち上がる。
「うえっ!?」
そして俺を見上げて仰け反った
他のメンバーも驚いた顔をしている。
「な、なかなかいい体してるじゃねーの……」
どうもアメリアとの対比で俺の身長を図り損ねていたようだ。
つまり、アメリアは逆に、コイツ等には幼稚園児くらいに見えているかもしれない。
「なあヤマト? こいつらやっちゃっていい?」
アメリアが余計な口を挟む。
「あ? 嬢ちゃん? 今何て言った?」
ほら見た事か。
そう言ってスカウト風の男が、アメリアに詰め寄る。
「待ってくれ、俺はここには挨拶というか顔を出しに来ただけなんだ。それが終わったらとっとと出ていくから、穏便に頼む」
そう言って宥めようと試みるが、
「挨拶? 俺以外に誰に挨拶だって?」
駄目だ、まるで話が通じない。
「マスターだ。ここのギルドマスターに話しが……」
待てよ?
なんでこんなに絡まれるんだ?
いつもならもっと――。
「「あっ!」」
俺とアメリアが同時に声を上げたため、連中が驚いた表情を作る。
横ではカウンターの女性もこちらに目を向けていた。
「スマン。普段着けてないからすっかり忘れてた」
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