第29話 旅人の朝は早い
・登場人物・
ヤマト……主人公。勇者で憲兵団団長。
アメリア……女魔法使い。ゲロイン。今の所活躍の場が無い。
「起きろクソガキ!」
窓の外が白む頃、俺は隣のベッドで寝息ともいびきともとれる音を出しているアメリアを刀の鞘を使って文字通り叩き起こす。
「うーん……あと5時間」
俺は容赦なくアメリアの被っている掛け布団をはぎ取り、目元を魔法の明かりで照らす。
「うおおぉ! まぶしぃ! 寒いぃ!」
「いいから起きろ! 今日はやる事いっぱい夢いっぱいなんだ!」
もちろん夢などないのだが、やることがいっぱいなのは本当だ。
俺は昨夜手入れした刀を鞘に戻して腰に差すと、茶色のマントを羽織る。
「……まだ暗いじゃん。流石に早くね?」
眠い目をこすりながらアメリアは体を起こす。
「今日はまず冒険者ギルドに行って、その後憲兵詰所で作戦会議、そんで昼からは屋敷に強制捜査だ」
アメリアは大きく背伸びをすると、ついでに大きな欠伸をする。
そしてようやく靴を履いて、着替えの支度を始めた。
「じゃあ俺は先に顔洗って下に居るから、早く降りて来いよ」
そう言って俺は部屋を出た。
――――
旅人の朝は早い。
この大陸は、中央山脈を隔てて東西に隔てられており、量は多くないが西側の物品が東側に流れてくる。
そしてこのプラソディの町は、良くも悪くもその物流の拠点としてそれなりの地位を確立しているわけである。
俺が部屋から降りて来た時には、既に旅支度を終えた人が疎らに、朝食をとっているところであった。
俺はパンとソーセージを二人分頼みそれを受け取ると、適当に端っこの席に着いた。
そしてそれをモソモソと齧りながら、商人らしき風貌の三人組の会話に耳を傾けた。
「ああこっちも最悪だよ、取り締まりが厳しくなってて、どこも買い取ってくれねぇ」
彼らはそれぞれ別の商隊の人間だろうか、話は始まってからそれ程立っていない様子で、自分たちの商売の成果を報告し合っている。
「今は上等な品以外は南に卸すのがトレンドだって”犬っころ”共が言ってたが、あいつ等のいう事を素直に聞いとくべきだったか」
犬というのは、おそらく”犬人族”の事だろう。
大陸西側と東側では定住している人種が大きく異なっている。
おそらく、この商人の仕入れ先の種族がそれなのだろう。
「それもどうだかな。 現に”ナマモノ”はまだ経路が無いだろ? どうやって南に運ぶかって話だ」
彼らの言うナマモノ。
つまりは
馬でさえそうなように、生物が生きるには食べ物がいるし、衛生管理も必要なので、ただそれを馬車に乗せておしまいという訳にはいかない。
その分、それに特化した専用の設備がいるし、経由地点も増える。
折角用意した輸送経路も、一つだけでもバレれば、それだけで彼らは大損害を被るのである。
もちろん、その経路を摘発するのも憲兵の仕事であるが、こういうのは金がかかる割に殆ど実入りが無いので、今までかなりの部分が見過ごされていた。
「憲兵もバカだねぇ。放っておけばいいのに。現にこの町もどんどん貧しくなっていって、このままじゃ東海岸の諸国といっしょで治安も悪化するんじゃねぇかって俺は思ってるんだがな」
商人目線で言えばそうかもしれないが、事はそんな単純な話ではないのだ。
そうこうしているうちに、アメリアがあくびをしながら階段を下りてくる。
俺はそれに手招きををする。
すると、商人の一人がそれを横目でジロリと見て、
「おい、なんでガキがここにいるんだ?」
そんなことを小声で言う。
もちろん俺達には聞こえていないつもりだろうが、俺には魔法で丸聞こえだ。
「あれは”東海国”の魔法使いの帽子だ。冒険者か何かだろ、どうしてこんな所にいるのかは知らんが」
この宿は高級とまではいかないが、そこそこの等級の宿である。
彼は、何でそんな所にガキを連れた冒険者なんかが泊まれているのか、という意味で言っていると思われる。
「なんにせよ、俺達もいつまでちゃんとした宿に泊まれるか分からねえ。俺は今日もう一回街を回ってみるわ」
そういって一人が立ち上がると、他の二人もそれに倣って宿の外に出て行った。
「どう? なんか面白い話聞けた?」
席に着くなり、アメリアが俺に尋ねる。
「とりあえず憲兵隊はちゃんと機能してるみたいだな」
その言葉にアメリアは「はあ」と生返事を返すと、目の前のパンに齧りついた。
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