第26話 妖精

・登場人物・

ヤマト……主人公。勇者。清掃業。

アメリア……女魔法使い。ゲロイン。魔法は火力だぜ!

バジョン……魔動車の運転手。整備もこなすエリート。

ジャウベ……憲兵A。巡査長。

ンゴニー……憲兵B。ヤバいやつの匂いがする。

オルトウ……憲兵C。

バラボン……憲兵D。小太り。


**********


「なあまさかマトリョシカみたいに永遠に箱が続くなんて事は無いよな」


 アメリアが箱を見下ろしながら言う。


「これは緩衝魔法用にわざと二重にしてあるんですよ。箱の中で箱を浮かせることで、中身に地面の振動が直接伝わらないようになってます」


 そして問題は、この魔法が使われている時点で、この箱の中身は相当貴重な物だということだ。


 俺はとりあえずその緩衝魔法が解除されていることを確認すると、その魔導コアと”魔力石”を取り出す。


「魔力残量はあと二日分くらいだな」


 この魔力石にはバッテリーのように魔力をためておくことが出来る。

 しかし、こういったある程度高度な術式や出力が必要な魔法を維持できる大容量の魔力石は製造方法が完全には確立しておらず、これ自体が下手なの貴重品よりも高価な物なのだ。


「近隣宛ての荷物だとは思えないので、この先のどこかで魔力を充填するか何かしらの措置をする手段があるんでしょう」


 ジャウベが俺の思った事と同じことを口にする。


「えっと、ヤマト団長。これはどうなってます?」


 バラボンが聞いてくるので、


「もう魔法はかかってないから、普通にあければいい」


 俺が答えると、ジャウベはバラボンに目線で箱を開けるように促す。

 そして、それを受けたバラボンが、箱の留め具を外し蓋に手をかける。


「開けますよ?」


 そう前置きして、バラボンは箱をゆっくり開ける。


 周りの人間は恐る恐るその様子を眺めていた。


「うっ」


 バラボンが小さくうめいて、箱から顔を背ける。


 何事かと思ったが、遅れて箱から甘酸っぱいような鼻を突く香りが漂ってくるのを感じた。


 そして、その箱の中に現れたのは。


「!? 妖精!?」


 小さい体を更に縮込めて、箱の角に張り付くようにそれが居た。


 箱のふたが完全に開けられると、それは目をしかめながら怯えるように体を震わせていた。


「ああ……よりによって妖精とは……」


 ジャウベが額に手を当てて空を仰ぐ。


 人間の幼児ほどの背丈にピンク色の巻き毛。

 そしてトンボのような透明の羽を背中に生やしている。


 皆が皆、妖精と言われて想像するあのままの姿だった。

 流石の俺もこのタイプの妖精を直接見るのは初めてだ。


 しかしそれにしても……


「うわ汚ったねっ!」


 どこの誰がどの口でそんなことを言っているのか、アメリアが鼻をつまみながら箱を覗き込む。

 まあ、実際それはその通りなのだが……。


 どの位の間かは分からないが、生き物を閉鎖空間にとても長い時間閉じ込めていたわけである。

 しかも、緩衝魔法がかかっているとはいえ、あのスピードで走る馬車の荷台は相当揺れだだろう。

 つまり、そういうことだ。


「これヤバくないっすか? てか、空気穴とか開いてるんすか?」


 今まで黙っていたンゴニーが急に口を開く。


「緩衝術式まで使ってるのに、えらく扱いが雑だなぁ……。それとも眠らせてた魔法が途中で解けたとかか?」


 バラボンがそう口にして首を傾げる。


「おいヤマトかわいそうだろ洗って差し上げろ」


 何が嬉しくて一日に何度も子どもの失敗の処理みたいなことをしなきゃならんのだ。

 本当に今日は厄日か何かか?


 と思ったが、ここ最近ずっとこんな感じだったな。


「はあ……仕方ないな」


 ここまで来たらついでみたいなもんだ。


 俺は先ほど箱にそうしたように、妖精の体を魔法でふわりと浮かせる。

 抵抗してくる様子は無い。


「あっ、ヤマトさん。そっとですよ?」


 言われんでもわかっとる。


 それにしても小さい。

 見た目的には女の子か?

 顔は汚れてぐちゅぐちゅだし、妖精の性別は分からん。


「う……ううう……」


 妖精が震えながら呻く。


 そして妖精を宙に浮かせたまま、改めてそれを観察する。


 白いワンピースらしき服を着ているが、これはもう駄目だな。

 てか、羽の部分どういう風になってるんだ?


 俺は背中側を確認しようと妖精の背後に回る。


 ちょろちょろちょろ。


「うぉっ」


 漏らした。

 

 もうこのくらいでは汚いとも思わなくなってきた。


 うーん。

 まあ、もうとりあえずいいか。


「バンザーイ!」


 俺は妖精に向かって万歳のポーズを取る。


「はぁ? 掃除させられ過ぎて気でも狂ったか?」


 アメリアの声が後ろから聞こえる。


 そして妖精は意味が伝わっていないのか、一層怯えている。


「いや違うな、この場合はか」


 そしておれは上げた手を下ろして、今度は背筋を伸ばして気をつけの体制を取る。


「いやだからなにやってんだよ? ラジオ体操?」


 もう俺は面倒くさいので、妖精が胸の前で組んでいた腕を、魔法でゆっくりと気をつけの体勢に持って行く。


 そして。


「ほいっ」


 すぽーん。


 妖精の服を下へ抜き取った。


「えっ」


「んっ?」


 ??


「ぴゃあああああああああああああ!!!!」


 突然妖精が甲高い悲鳴を上げた。


 あれ? もしかして俺、何かやっちゃいました?


「ちょちょちょちょヤマトさんそれは流石にマズいですよ!!」


「んえ?」


 俺の後ろで憲兵連中が慌てている。


 そして未だに状況を分かっていない俺に、バジョンが隣に駆け寄ってきて、


「ヤマトさんヤマトさん! 妖精は”ヒト”です! 僕らと同じ”人”です! そして彼女は多分子どもではなく立派な大人、レディーですよ!」


 うわあ、まいったなこりゃあ……。


 これは完全に大人の女性の衣服を、男の俺がひん剥いた形になっている。


「ぎゃははははははは!! へんたいだ―!!」


 今は弁解している暇はない。


「じゃあ、とりあえず、馬車の向こうでキレイにしましょうねー」


 俺は平静を装いつつ、馬車の陰へと妖精を連れて行こうとする。

 そして途中で、これはこれでヤバイ絵面だと気づくが、ここで取り乱すと普通にアカン感じになると思うので、そのまま連れて行きましたぁ!


「ぴぃやああああああああああ!!!! やあああ」

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