第25話 鍵開け

・登場人物・

ヤマト……主人公。勇者。清掃業。

アメリア……女魔法使い。ゲロイン。魔法は火力だぜ!

バジョン……魔動車の運転手。整備もこなすエリート。

ジャウベ……憲兵A。巡査長。

ンゴニー……憲兵B。ヤバいやつの匂いがする。

オルトウ……憲兵C。


**********


「お連れの魔法使いというのは、そちらの方の事ですか?」


 ジャウベがアメリアを見ながら言うが、明らかに「まさかこいつが?」といったようニュアンスを含んでいる。


「そうだぞ!」


 自信満々に腰に手を当てながらアメリアが答える。

 もう完全に本調子の様子だが、こんなんなら素手で掃除させてやればよかった。


「えっと? さん……でしたっけ? すみません、ド忘れしてしまったのでお名前を頂戴してもいいですか?」


「ゲロ魔法使いのだ」


「キュートで最強な魔法使い! アメリア様だ!」


 出来る事ならとっとと町までずらかりたかったが、なんかそうも言い出せない雰囲気だった。

 しかも俺の予想なら、これは俺達にも関係ある案件だと思う。


「ジャウベ先輩。やっぱり例のあれです」


 さきほどの自己紹介コントの時は一人だけ蚊帳の外だったが、この少し小太りの憲兵は”バラボン”と言う名前らしい。


「くそっ。やっぱりか……」


 これは「例のあれって?」と聞く場面だが、まあなんとなく察してはいる。

 そしてこれを聞いたら、もうとっとと町に行きたいなんて、言えなくなるだろう。


「例あれって何?」


 アメリアは躊躇なくジャウベに尋ねる。


「ええと、こいつらこそがくだんの密輸絡みの運び屋だと思われるんですが……」


 ジャウベはそう前置きをして、


「もしかしたらご存じかもしれないんですが、今、魔法錠の鍵開けビジネスなるものが横行してまして、今回のように密輸業者を捉えたは良いんですが、その荷物を開けるために法外の値段を吹っ掛ける業者が居るんですよ」


 そう言って、先ほど捕まえた馬車を見る。


「ん? どういう意味? 全然分からんのだが?」


 アメリアが理解できずに疑問を口にする。

 そして何故かジャウベでなく俺を見る。


「あれだろ? その鍵開屋と密輸してる業者が裏でつながってるって話だろ?」


 俺はバカでも分かるように嚙み砕いて質問する。


「その通りです。この荷物がただの物であれば押収して放置でもいいのですが、いかんせん生き物の場合が多いもので、その辺の駆け引きがかなり厄介なんですよ」


 つまり、開けてみるまで何か分からないため、生物の可能性がある以上、開けざるを負えないという事だろう。

 みんな大好き、シュレーディンガーの猫のの方のやつだ。


「それってお前らが鍵開けできる人間を直接雇えばいいんじゃねーの? 何ならぶっ壊して開ければ?」


 これくらい少し考えれば分かるだろと突っ込みたかったが、俺は一応ジャウベの回答を待つ。


「それが出来れば苦労はしませんよ。あいつらも最近は頭を使ってきていて、封印に独自の暗号術式を開発している上に、トラップまで設置しているので」


 そう言いつつ、再度馬車の方を見る。


 そういえば、こいつら馬車でカーチェイスみたいな事してたけど、普通に馬で追えばよかったんじゃないのか?

 と思ったが、団長なのにそんなことも知らないんですか的な無知を晒しそうだったので黙っておいた。


 そんな事を考えている隙に、アメリアが馬車の方に歩いて行こうとしたため、


「アメリア待て! お座り!」


「わん!」


 その場でアメリアがウンコ座りをする。


「ぐっがーる」


 そう言って頭を撫で、とりあえずアメリアを待たせて、俺はその馬車の後部へ歩いて行く。


「なるほど、これがそうか」


 そして馬車の封印を眺める。

 確かにそこには、ちょっとくたびれた馬車には不釣り合いな立派な木組みの荷台があった。


「触らないでください。この前自警団が勝手に弄って死傷者が出ましたから」


 自警団何やってるんだよ。


「くぅ~~~ん」


 待ての出来ないアメリアが四つん這いで変な声を上げて俺の足に頭突きをしているのを無視して、俺は馬車の結界に触れる。

 ちなみにこれは、俺達がたまにやってるなので、アメリアに対して魔法でどうこうという訳ではない。


「あっ……」


 結界に触れた俺に、バラボンが何か言いかけたがすぐにやめた。


 う~ん。

 確かにかなり複雑な術式で構築されている。

 当たり前だがスキャンも通らない。


「ちょっとあたしにも見せて見ろよ」


「アメリア! 伏せ!」


 多層構造で、迷路型と暗号型の複合タイプ。

 表層から一つづつ順番に解除していくタイプで、絶対開けさせないというよりは、出来るだけ時間を稼ぐタイプだ。

 そして、トラップは強引に破壊しようとした時に限り発動するようになっている。


「これいけるわ。開けていいなら開けるけど、いい?」


 俺がそう言うと、ジャウベが驚いて、


「えっ! ヤマトさんは鍵開けの技術もお持ち何ですか?」


「いや、トラップと結界の術式が別々に組まれてるタイプだから、トラップが解放する前に結界をぶっ壊して完全に遮断する」


 憲兵らが顔を見合わせる。


「そんな事が可能なのなら、ぜひお願いします」


 そんな大層な物ではなく、完全に反射神経任せのゴリ押しである。


「よし、じゃあ一応下がって置いて」


 そういって一応、全員を下がらせておく。


「なああたしにも――」


「ハウス!!」


 俺は呼吸を整えると。


 パキンッ!


「オーケー。もういいぞ」


「アンアン! ア~~ン!!」


 お前じゃねーよ。


 ついに我慢が出来なくなったアメリアが、すかさず観音開きのハッチに手をかけ、それを開けようとする。


「ちょ、ちょっと待ってくださいアメリアさん!」


 慌ててジャウベがそれを止める。


「まさかこんな簡単に……」


 バラボンがそう呟きながら巻かれていた鎖を解くと、今度こそその扉を開いた。


 全員がその中を覗き込む。


「箱……」


 子ども一人が入れそうなくらいの木箱があった。


「この箱にも封印がかかってるな」


 俺がそう言うと、


「開けれそうですか?」


 バラボンはそう言いながら荷台に上ろうとする。


「とりあえず降ろすからちょっと避けて」


 荷台へ上ろうとするバラボンを制止して、俺は浮遊魔法で箱を持ち上げる。


「封印は大丈夫なんですか?」


 ジャウベが不安そうに聞いてくるが、


「封印は中身の保護に対してだし、トラップもないから問題ない」


 彼の反応は普通の反応で、魔法のかかっているものに対して魔法を使う事はあまり良い事ではない。

 実際、この箱の重量は見た目から想定されるよりも重いが、これは箱にかけられている魔法の干渉によるものだ。


 そして、俺の予想なら……。


「じゃあ、あけるぞ?」


 俺は箱を地面に降ろすなりそう言うが、口出しす者はいない。


 パキッ。


 何かが弾ける様な小さな音がすると、木箱の上蓋がゆっくり開く。


 中身は。


「箱」


 箱の中に箱がある。


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