第24話 憲兵団団長
・登場人物・
ヤマト……主人公。勇者。清掃業。
アメリア……女魔法使い。ゲロイン。魔法は火力だぜ!
バジョン……魔動車の運転手。整備もこなすエリート。
**********
「おいバカ、待て!」
後ろの上官らしき人間が止めるのも聞かず、一人の憲兵が勢いよくこちらに走って来る。
彼らはこの辺では珍しく、浅黒い肌をしていた。
「はあ、はあ、ぜえ、ぜえ……! お、そこの、はあ、はあ、所属を、言えっ!!」
拘束した三人には目もくれず横を素通りして、息を切らした若い憲兵はバジョンに向かって指を指しながらそう言った。
「あ、えっと。こちらは冒険者ギルド”フィナレス市”支部の者です。要人をプラソディー町まで送る道中です」
若い憲兵は汗だくで俺達の前までようやくたどり着くと、
「……要人? ハアハア……その要人は……ンフ、どこに?」
バジョンが俺を見る。
そして憲兵の目線が、俺の隣のアメリアに移る。
「お嬢さん? ゴホゴホ、ン゛ン゛っ。迷子の護送かなんかかな?」
流石にそんな訳はないだろ。
「おい! ”ンゴニー”! 待てと言っているだろ!」
彼の上官らしき人物かこちらに小走りでかけてくる。
その後ろから別の二人の憲兵も付いてきている。
そして彼はその二人にさっき俺が拘束した三人を調べる様に指示を出すと、素早くこちらに駆けよる。
俺はとりあえず、三人の口を塞いでいた魔法を解除しておく。
「いや、すみません。コイツ新人なもんで、血の気が多くて」
そう言って帽子を取ると、額の汗を拭う。
「ええと、見ない魔動車ですが、ギルドの方ですよね」
彼からそう言われたパジョンが、先ほどやった自己紹介を繰り返す。
「そうでしたか、それでその、要人というのはどちらにいらっしゃいますか?」
まあ、この身なりで俺達が要人だとは思わないだろう。
「あたしだぞ!」
そう言ってアメリアが胸を張るが、それを聞いて、困惑する憲兵二人。
そしてンゴニーと呼ばれた憲兵が少し腰を落とすと、アメリアの顔を覗いて、
「これはこれは、どちらの貴族のご令嬢なんですかねぇ」
そう言いながらアメリアの頭を撫でようとする。
「ストップ」
俺はその手首を素早く掴む。
掴まれたンゴニーが俺を睨む。
「ああん?」
「やめろンゴニー。 ええと、私はプラソディー町駐在の憲兵、”ジャウベ”だ。この三人を拘束したのはキミか?」
彼はそう自己紹介をした後、俺に目線を向ける。
「ああ。俺はヤマト。いまはこんな格好をしてるが、一応憲兵だ」
そう言うとジャウベは目を細めた後、首を傾げて、
「そう言えば先ほど”ラウド”でそんなことを言ってたね。いったいどういう経緯で……」
そこまで言って彼は一瞬固まり、
「……今なんと?」
「先輩! ちょっとこいつの拘束といてもらえませんか?」
後ろから、追加で一人の憲兵が駆けつける。
「えあっ。ちょ、ちょっと待ってくれ」
ジャウベはその後輩の憲兵を振り返る。
駆けて来た後輩の憲兵は、逆に俺を見る。
目と目が合う。
「……勇者ヤマト?」
ぼそっと彼の口が動いた。
その瞬間、ジャウベの体がピョーンと大きく飛び上がると、そのまま一歩飛びのいて、俺に正対する。
そして背筋を伸ばすと、聖王国式の敬礼をして、
「大変失礼いたしました! 自分は、ベビシュテン地方憲兵隊プラソディー町駐在所で巡査主任を仰せつかっております、ジャウベと申します!」
よく噛まずにいえるなと感心したくなるような早口で、改めて自己紹介をした。
「お、同じく! 自分は後輩のオルトウと申します!」
先ほど目の合った憲兵も、慌てて続いた。
その二人とは対照的に、その様子をアホずらで眺めるンゴニー。
それを下がれのジェスチャーで自分たちの元に呼び寄せようとするジャウベ。
「おいっ。いいから下がれ。いいからっ」
ンゴニーに全く反応が無いので、たまらず小声で嗜めるオルトウ。
「いやいいよ、慣れてるから気にするな」
俺はとりあえずこう前置きをして。
「本部のヤマトだ。なんか変なタイミングでの対面になっちゃったけど、今日そちらにお邪魔する予定になってる。もしかして聞いてなかった?」
出来るだけ角が立たないように言ったつもりだったのだが。
「申し訳ございません! 自分は承知しておりましたが、後輩には伝えておりませんでした! 元より冒険者ギルドの魔動車を見た時に気づくべきでした! 自分のミスであります!」
後輩に伝えてないのは、なんか機密保持的なのがあるんだろう。
なんか謝らせてしまって悪い事をした気分になる。
そして、なおも状況の分かっていないンゴニーに対して、バジョンが気を利かせて、
「こちらの方は、憲兵団
「はい! 存じております!」
改めて身を正すジャウベ。
そして未だにパっと来ていない様子のンゴニー。
多分、頭の回転が遅いんだろう。
「ひゅー! 憲兵団長様ぁー!」
なぜか、アメリアがそう言って茶化したことでやっと何かに気づいたンゴニーの顔が、みるみる青く変色していく。
バカ二人で謎のシンパシーがあるのだろうか。
「あんまり固くなるな。団長って肩書だけど完全なお飾りだから。そんで、こんなことしてる時間が無駄だから、とっととやることやってしまおう」
俺の言葉にジャウベは「失礼しました!」と大きな声で返事をすると、拘束した三人の方を見て必死で何か考えている。
そしてその隣で後輩のオルトウが、こちらを申し訳なさそうにチラチラていた。
そういえば拘束を解けとか何とか言いに来たんだったな。
そう思って、俺は三人の拘束を解こうとすると、
「あのー……」
その声の主を見ると、なんか三倍くらい小さくなった気がするンゴニーが、手をすり合わせながらおれに上目を遣っている。
上目遣いは女の子だけでいいんだよ……。
そしてンゴニーは不安そうに口を開く。
「俺って、もしかして死刑になったりします?」
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