第21話 ゴボゴボブシャアア
・登場人物・
ヤマト……主人公。勇者。目つきが悪い。
アメリア……女魔法使い。魔法は火力だぜ!
バジョン……魔動車の運転手。整備もこなすエリート。
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「ふざけんなよこのクソガキー!!」
このとき俺達は思い出した。
「あぁぁぁ……。なんてことだ……」
この快適な車旅、コイツが居てこのまま快適で終わるわけが無いという事に。
――――ほんの数分前。
「ふあぁぁ……なんか眠くなってきた……」
俺達は昼食を取った後、息つく間もなく今回の目的地であるプラソディー町に向かって魔動車に揺られていた。
食後と車の揺れが相まり、心地よい眠気に大あくびをしながらそう呟いた。
「ヤマトさん昨日も出張からとんぼ返りでしょう? 流石におつかれでしょうに」
そんな俺を気遣ってくれるバジョンの言葉。
「いや、昔からずっとこんな感じだし、それに最近、睡眠は出来るだけちゃんと取るようにしてるんだよ」
前世では多忙に世界中を飛び回っていたし、この世界に生まれ直してからは寝る間も惜しんで勉強と鍛錬をしてしたのだが、最近やっと睡眠の重要性に気づき、意識して寝れる時には寝るようになったのだ。
これは大人になったと言うべきか、年を取ったと言うべきか。
「お休みになっていてもいいですよ? ただこの辺はあまり道が良くないので少し揺れるかもしれませんが」
おそらく湿地であった場所に土木工事で道を敷いたのだろう。
村を出てからの景色は一見広い草原地帯に見えるが、所々に池というか沼というか、水場的な物が見られ、道路も水が浮いて抜かるんでいる箇所が点在している。
「いや、俺は移動中は寝ないって決めてるし、言うて眠気もそこまでじゃないから大丈夫だよ」
昔からの習慣もあり、俺は安全が確保されている建物以外では熟睡しない事にしている。
ガタンと大きく車体が跳ねる。
突き上げるというよりは大型バスに乗っている時のような跳ね方だった。
「思ったより跳ねますね。大丈夫ですか? ばねが柔らかいみたいなので、予想以上に跳ねるかもしれません。頭に注意してください」
現行の高級魔動車にはなんと、従来の馬車に使われているような板バネではなくスプリングを使っているらしい。
加えて魔力による浮遊効果がエアサスのような働きをして、このような悪路だとバスの一番後ろの席のような乗り心地になっているのではないかと思う。
異世界で前世の感覚を味わうのはなんとも奇妙な体験である。
「そういえば、門での検閲を強化してるって話だけど、俺達は流石に大丈夫だよな? 結構仕事が詰まってるから、あんま長引くとまずいんだけど」
現在高ランクの冒険者は絶賛人手不足だ。
借金地獄の自分としては仕事があることについてはありがたいのだが、人員が理由で緊急時の対応が遅れるのはあまり宜しくない。
魔法があるおかげで前世の中世ヨーロッパのような事は無いが、それでも数日待たされることはざらにある。
「もちろん。そのための私ですから。出来る限りスムーズに通行できるようにギルドが取り計らってくれています」
プラソディ町に憲兵の駐屯地が出来たのはごく最近の事で、それまでは自警団がその役目を担っていた。
その時の町の関所はお飾りのような物だったらしく、大陸西側の密輸品がザルのように流れ出ていたと言いうが、ここ十年ほどで魔族被害が激増して自警団だけでは町の治安維持が困難になったために、しぶしぶ憲兵の駐在を受け入れたらしい。
そんな経緯からか、プラソディ町での憲兵の扱いは良いものではなく、組織からはもちろん町民からも疎まれる存在との噂だ。
「あのさ、憲兵と冒険者ギルドは仲悪くないんだよな?」
あえて聞かないようにしていたことを俺はバションに尋ねる。
「プラソディ町のという事ですよね? はい。憲兵とは良好な協力関係にあります。ただ……」
ただ?
「あまり自分の口から言うのは憚られるのですが、ギルドの質はあまり良くないですね」
これも自警団の力が強いためかは分からないが、距離が比較的近いのにも関わらず、中継地としてを除いてプラソディ町には一度も訪れた事が無い。
「ちなみに傭兵ギルドは?」
「そんなものは無いです」
これは酷い。
「俺って憲兵として立ち回るって事でいいんだよな? そうなるとアメリアはどうするの?」
自分で連れてきておいて、なんだか少し不安になって来た。
「アメリアさんって一応、王国軍の魔術士団に籍があるので、今回は強引に憲兵に組み込んでしまったみたいです」
そういえばアメリアを”東海国”から引き継ぐとき、そんな話してた気がするな。
「アメリア、そういうことらしいからあんまり余計な事言うなよ? 変に怪しまれても面倒だからな」
こんなガキを連れているだけでも不信感の塊なのに、こいつの事だからまた何かやらかして要らない問題を起こしかねない。
しかし、さっきから妙に大人しいな、寝てるのか?
そう思い、うつ向いているアメリアの顔を覗き込む。
!?
その横顔は真っ青で、冷や汗で髪の毛が頬にはりついていた。
「おいバション! 馬車をすぐに止め……いやゆっくり止めろ!」
「えっ!? どうしたんです? ここでですか?」
彼は恐らく敵襲か何かと勘違いして計器類と辺りを交互に見回しているが、そうじゃない。
「いいから! 緊急事態――」
その時、隣の女の肩がビクンと震え、両手を口元に持って行くのが見えた。
「ゴボブバァ!! ブシャアアアアアアア!!!!」
「うわぁあああああぁぁああッはあああああ!!!!」
バシャバシャバシャバシャ!!
俺は咄嗟に飛び上がると、めいいっぱい車の角に退避した。
「ゴボゴボブシャアアアアアアアア!!!!」
覆った手の間からアメリア汁が車内にまき散らされる。
「えっ!? なんです!? もしかして吐きました!!?? 吐きましたぁあ!!??」
「ふざけんなよクソガキーーーーーー!!!!」
俺は某警備会社のCMの出来損ないみたいなアホな態勢でアメリアに心からの罵声を浴びせる。
「あぁぁぁ……。なんてことだ……本当に吐いたんですか……?」
残念ながら被害は甚大で、昼に一体何を食ったんだと言う様ような、なんかうわーって事になっている。
「お、お前! なんで早く言わないんだよ!??」
俺は口元を抑えたまま固まっているアメリアを再び怒鳴りつける。
「だっでぇぇぎもぢわるがっだんだもん゛ん゛」
気持ち悪かったって……。
「小学生かよ!!」
「うっうぐっうぅぅふぅ……あ゛あ゛ああぁぁはあぁぁんん……」
一通り吐き終えると、顔から色んな物を垂らしながら、もうこれが本来は良い歳の大人であるとは思えないような声をあげて泣き始めた。
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