第12話 ゴリ押しでドカーン
・登場人物・
ヤマト……主人公、勇者。
フォルカー……S級冒険者。魔動車の設計者。
ブラシュ……剣士。C級冒険者。リーダー。
パァス……スカウト。ムードメイカー。
パレッタ……魔法使い。学院主席。
クェント……センチネル。あまりしゃべらない。
アキ……聖職者。性別不詳。
**********
酷い話だが、パレッタが泣いたことで、さっき自分が泣いてしまったことが薄まるような気がして、少し気が楽になった。
「パレッタちゃん。 君は少し気負い過ぎだ。自分が何とかしなきゃって思うのは責任感から来るものかもしれないけど、それは同時に、仲間を信頼していないって事にもなる」
「お前がそれを言うのか?」
ヤマトさんの言葉に、フォルカーさんがツッコミを入れる。
このパーティーのリーダーはブラシュだが、実質的にパーティーを仕切っているのはパレッタだ。
確かに、彼女はリーダーのブラシュを差し置いて自らの意見を押し通すことが少なからずあり、これまでにも衝突したことはままあった。
パレッタはこのメンバーの中で唯一まともな教育を受けているため、難しいことが分からないウチらは言いくるめられてしまい、思うところはありつつも彼女の意見に従がって来たわけだ。
しかし、それは結果的に責任を彼女一人に押し付けていたわけでもある。
ここに来て面と向かってヤマトさんから指摘を受けたことにより、その空回りが表に出た形になる。
今回はパレッタが一人怒られているわけだが、その実、責任は今まで彼女に甘えて来たパーティー全体にある。
それも含め、ウチらは一度このパーティーの在り方を話し合った方が良いと思った。
「えっと、何だっけ……そう、確かにキミの言う通り、運に助けられた要素も多くて決してスマートだったとは言いにくい。納得できないのも分かる」
ヤマトさんの話を、パレッタは涙目ながら真剣な顔をして聞いている。
「ただ、俺達が見たかったのは最初に言った通り、”遭遇戦に対処できるか”って部分だったわけだ。それに関しては見事にやってのけたわけだし、その後の反省を聞いていても、自分たちの課題をしっかり把握出来てるなと判断したんだよ」
正直、全くいい所が無く、反省うんぬん以前の問題だったウチとしては非常に情けない事である。
「でもまあ、あれだ。ぶっちゃけちゃうとクリアできると思ってなかったんだよ。一発で戦闘に勝利したパーティーはキミ等が初てだ。ああ、俺が担当した
そう言って、ヤマトさんは微笑んだ。
「え? でも……あっ……」
口出ししてはいけないと思ったのか、ブラシュが言いかけて、慌てて口元を抑える。
「どうぞ」
そう言ってヤマトさんが、ブラシュに発言を促す。
「いや、あの、確かにもう一度やって上手くいくかは分かりませんが、そんなに誰もクリア出来ないほど難しいとは思えないんですが……すみません、なんか自分で喋っといて要領を得ない感じになっちゃって」
放し終えたブラシュが頭を掻く。
「そう思えるだけでも十分、C級の域に達してるってことだよ」
そう言ってヤマトさんは続ける。
「キミ達が思ってることはこうだろ? そんな簡単に合格出しちゃっていいんですか? いくら帝国出身の冒険者のレベルが低いからって、今のも運が良ければ誰でも勝てるんじゃないですかってな? ね、アキちゃん?」
「あの……なんでいちいちボクに振るんですか?」
毎度オチに使われて、アキさんがまた困っている。
ヤマトさん的には、アキさんを緩衝材にしてウチらへの当たりを丸くしてくれているつもりなんだと思う。
「まあなんつーかよ! 帝国のやつらがそんだけ酷でえってこったよ!」
フォルカーさんが補足して、またガハハと笑い、それを聞いたアキさんも、
「そのせいで、ヤマトさんやフォルカー先生みたいな最上級の冒険者がC級の試験官なんてやってるんですよ。酷いのだと、逆切れしてくる冒険者もいますからね」
最初にヤマトさんは代理で来たと言っていたが、本来来るはずだった試験官も、やはりそれなりに名のある人だったのだろうか。
「こんな事頼むのは不躾だって思うんですけど、さっきの戦闘の模範みたいなのを実践してもらうことって出来ませんか? もちろん、時間が余ったらとかで大丈夫なので」
ブラシュはその後で「駄目なら全然大丈夫です」とそえる。
「ああ、その辺は………」
そう言うと、ヤマトさんが何もない茂みの方を指す。
「え?」
ウチらがその茂みに目をやった瞬間、先ほどと同じシャドーウルフが一体、ブラシュを目掛けて飛び掛かった!
「うわぁあ!!」
情けない声を上げながら、ブラシュが尻もちを搗く。
ドカンッ!!
そこにパレッタの”ファイヤーボール”の魔法が突き刺さる。
その衝撃で吹っ飛ばされた魔物は、そのまま地面に転がり落ちて、すぐに動かなくなる。
「えっ!?」
思わずブラシュが声を上げる。
ウチも驚いた。
その魔物はそのまま黒い霧にな散ってしまい、跡形もなく消えてしまった。
まさかと思い、ウチは先ほど倒した魔物の方を見ると、そちらも同様に霧散して消えてしまった。
魔物と言えどその肉体は残るはずなので、この現象は普通ではない。
「やっぱり……」
パレッタが呟いた。
「もしかして”
思わず私の口からも言葉が漏れる。
「そう、全部俺の魔法。それにしても、今のに反応するとは、キミ、本当に優秀だね」
ヤマトさんが言っているのは、パレッタの攻撃魔法の事だろう。
「いえ」
こんなの普通だと言わんばかりの言い方だが、そういうパレッタはの表情は少し照れくさそうだった。
「そう言う事だから、村近くに帰ってからでも実践できるよ」
ヤマトさんは微笑みながら事も無げに言ってのけるが、しかし、あれほど精巧な幻影体を本物さながらに、しかも複数動かす何て生身の人間が可能な事なのだろうか?
「ヤマトさんって、こんな繊細な魔法も使えるんですね。もっとゴリ押しでドカーンって感じなのかと思ってました!」
ブラシュは楽しそうに言っているが、それは……。
「ブラシュ……何ちゅーことゆうてん? ヤマトさんに失礼やろ?」
ブラシュはマズいという顔をした後、「すみません」とヤマトさんに謝っていた。
ウチもブラシュを咎めはしたものの、似たようなことを思った手前、少しばつが悪い。
「それ、よく言われるんだけど、俺ってそんなに脳筋なイメージなのか?」
ヤマトさんが苦笑する。
「ガハハハ! 昔のお前は尖ってたからな! ワシも何度お前の素行には泣かされたか」
フォルカーさんの言葉に、今度はヤマトさんがばつの悪そうな顔をして。
「いや、まあ……そう言う事もあったかな? あの時は迷惑かけて悪かったと思ってるよ。うん」
頭を掻くヤマトさんの背中を、フォルカーさんは無言ドンと叩いた。
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