第11話 私、自分勝手だった

・登場人物・

ヤマト……主人公、勇者。

フォルカー……S級冒険者。魔動車の設計者。

ブラシュ……剣士。C級冒険者。リーダー。

パァス……スカウト。ムードメイカー。

パレッタ……魔法使い。学院主席。

クェント……センチネル。あまりしゃべらない。

アキ……聖職者。性別不詳。


**********


「あと、”祝福ブレス”? の影響か、いつもより魔法の発動が少し早い気がして――」


 バレッタが先ほどの戦闘を振り返っている。

 パレッタはスラスラと淀みなく話し続け、自分自身だけではなく、ウチ等や敵挙動の一部始終を把握しているみたいだった。


 しかしウチは……。


 ああ……泣いてもうた……。

 カッコ悪る……。


 分かってはいた。

 ウチとパレッタ……いや、ウチと他のメンバーの間には明確な力の差がある。


 今回、ウチは今までにない強敵と立ち会って、メンバーと自分との力量差を目の当たりにした。

 そしてそれよりも、自分のせいで味方全体の足を引っ張ってしまったのが本当に堪えた。


 しかし、もう一つ大きな後悔がウチにはあった。


「パァスちゃんの事はどう思った?」


 ヤマトさんがパレッタに尋ねる。

 ウチは自分の心臓の鼓動が早くなるのを感じた。


「ええと、パァスの索敵魔法が暴発して、機能せずに敵に狙われているのは把握してました。でも、幸か不幸かそれが敵の正常な判断を乱してくれて、クェントが一人であそこをおさえてくれた……いいえ。私も今までのパターンからそう感じていただけで確信はなかったので、本来ならそのことを彼女に伝えるべきだったかなと思います。結果的に上手く対処できたものの、彼女を焦らせていたずらに危険にさらしてしまいました」


 あの状況でそこまで気を回してくれていたのなら、彼女は本当にすごい魔法使いメイジやと思う。


「なるほど。続けて」


 冷淡さと柔和さが混じる低い声。


 ウチの憧れのヤマトさんの声。


 そんなヤマトさんの前で、自分は酷い醜態を晒してしてもうた。


「ここまでスムーズに行ったのは、運の要素もあったかと思います。本来ならもっとスマートに。今一度、強敵に立ち会った時の対応をパーティーで共有した方が良いと思います。……ええと、以上です」


 パレッタがそうやって締めた後、ブラシュは、


「はえー、やっぱ良く見えてるなあ」


 そう言って感心している。


「今回私はずっと標的の対象外だったからね。ブラシュこそあの状態でよく判断できてたと思うよ?」


 というようなやり取りで、お互いを褒め合っている。

 私はそれに対して疎外感を覚え、また泣きたい気持ちが溢れてくる。


「おーけー分かった。じゃあちょっと待ってて」


 ヤマトさんはそう言うと、フォルカーさんとハルさんの方へ歩いて行き、何か相談し始めた。


 初めて見る生のヤマトさんは、よく聞く噂とは全く違い、ずっとフレンドリーで優しい人のように見えた。

 そして何より、かなりのイケメンだった。


 って、こんな時にまで私は何を考えているんだ……。


「ゴメン……ウチのせいで……」


 私は仲間の元に戻ると一番にそう切り出した。

 今の私は相当ひどい顔をしていると思う。

 鼻声なのも恥ずかしい……。


「いや、オレが一番悪かった。リーダーなのに最初テンパったのが状況を悪くしたわ」


 ブラシュがそう言ってフォローしてくれる。


「そういう学びを得た。それでいいんじゃないか? 誰かが死んだわけでも怪我したわけでも無いんだし。パァスは標的になってちょっと焦っちゃっただけで、いつものパァスなら次はちゃんとできるだろ」


 クェントも私を気遣ってくれている。

 皆のやさしさに再び涙が溢れてくる。


 しかし、MVPであるはずのパレッタだけは、なぜか先ほどから難しい顔をして何か考えているようだった。


「さっきパレッタも言ってたけど、この辺でこの感じじゃあ多分、いや絶対北部では通用しない。もう一度初心に帰ってオペレーョンを組みなおそう」


 ブラシュは既に切り替えて、次の事を考えていた。


「どうしようか? ヤマトさんに言って、もう一度チャンスをもらおうか? 時間的にはまだ余裕あるよな?」


 クェントが提案する。


「うーんどうだろう? さっきヤマトさんは最初に遭遇戦を見たかったみたいな事を言ってなかったっけ? それをもう一度って可能なのかな? そもそも時間があるかなんて俺たちが判断していい事なのか?」


 ブラシュの言う通り、心構えが出来ている状態では、完全な遭遇戦とは言えないかもしれない。

 ヤマトさんの能力なら色々何かやり方があるのかもしれへんが……。


「ホンマにゴメン……ウチのせいで……」


 アカン……涙がボロボロとこぼれてくる……。

 こんな泣いたの何ていつぶりだろうか……。


「あーもう暗いって! パァスらしくないって!」


 ブラシュが無理に明るい声を作って元気づけようとしてくれる。

 それが私にとっては逆に辛いものである。


「いや、大丈夫……いける」


 突然パレッタがそう口にする。


「ん? 突然どうしたんだ?」


 クェントが不思議そうに尋ねる。


「今度は敵を五体以上で、完全に挟まれた状況から戦わせてもらおう」


 パレッタがそう切り出す。


「えっ? それマジで言ってる?」


 ブラシュが不審そうな表情で聞き返す。


「うん。私達の力を見てもらうには、さっきよりも厳しい状況に対応できるかを見てもらうしかないと思うの。敵の数を増やしたっていい!」


 そう言うパレッタに、クェントも戸惑っている。


「いやいや、僕はあれ以上の状況から完璧に捌き切る自信ないよ? それに、そんな都合のいい状況になるとは思えないんだけど……」


 クェントがもっともなことを言う。

 挟み撃ちという事は今度はいきなり二対二で別れて、更に自分達より多い相手と対峙するという事だ。

 そうなると、先ほどパレッタがやった役をウチもやらなければならないかもしれない。

 正直、今のウチにそんな自信は無い。


「ううん。私達ならいけるよ! それに、さっきの戦いもヤマトさんがある程度仕組んだものだと思うの。どうやったかは分からないけど、ヤマトさんならそういう状況を用意できると思う」


 パレッタは自信満々にそういう。


「大丈夫。敵はいつもよりちょっと、速くて大きくて固いだけ。さっきの反省を踏まえて基本をしっかり押さえれば、いつも通りの作戦で対応できると思う。私ちょっとヤマトさんに直談判してくる」


 そういうパレッタにブラシュは。


「待て待て待て。それは良くない。さっきもう一度作戦を見直すって言ったばかりじゃないか? そんなこと言ってヤマトさん達から、焦って無謀な事言ってるって思われたらどうするんだよ?」


「でもっ! 今ちゃんと実力を見てもらわないと――」


 あ、これ喧嘩になる奴や……。


「なあ、お前らそもそもさ、さっきブラシュが言ってた通り――」


 クェントが何かを言いかけた時、


「よし。なんか白熱してるとこ悪いけど、落ち着いて話を聞いてくれ」


 ヤマトさんがそう言いながらウチらの元に歩いてくる。


「ヤマトさん! 聞いてください! 私達もう一度――」


「聞けと言ったのが分からなかったか?」


 その冷たい声にびくっとした。

 ヤマトさんの真剣な声に、少し興奮気味だったパレッタは、


「……すみません」


 そう、一言って言葉を飲み込んだ。


「ええと、三人で話し合った結果、合格にすることにした」


 え?


「まあ、もちろんだけど、ここから特に問題を起こさずに帰還できれば、キミ達は合格だ」


「え? マジっすか?」


 ブラシュもウチらも、この状況に感情が追い付いておらず、クェントに至っては、ポカーンと口を開けている。


「なっ……納得できません!」


 突然、パレッタが声を上げる。


「私達、もっと上手くできます。今のままで合格と言われても――」


「何だキミ? 俺達の審査がおかしいって言いたいの? 別に不合格がいいならそれでもいいけどさ?」


「い、いえ。そういう訳では……」


 ヤマトさんの声は先ほどよりも冷たかった。


「実はさっきのキミらの会話も全部聞いてたんだけど、俺はキミはもう少し冷静な人物だと思ってたんだけどな」


「……えっと」


「俺達はちゃんと話し合った結果、キミ等を合格にすると言ったんだ、それが何だ?  俺等の判断に疑問があるっていうのか?」


 パレッタが何か言う前に、ヤマトさんが詰める。

 なんか、こっちまで怒られてる気持ちになってしまう。


「いえ……。すみませんでした。部を弁えず出過ぎたことを言いました。ただ……いえ、何でもありません……」


 そう謝るパレッタの声は震えていた。


「ガハハハハ!! 嬢ちゃん、見かけによらず熱いヤツだな!」


 その空気を吹き飛ばすようにフォルカーさんが大声で笑うが、ここは一応危険地帯なのにそんな大声出して大丈夫なんだろうか……。


「まあまあパレッタ、さっき言いそびれたけど、今回の試験って裏に一応依頼があるはずなんだし、必要以上に僕たちだけのために時間を割くのは申し訳ないよ」


 クェントは慰めるためにそう言ったのかもしれないが、それはパレッタにとって追い打ちになっていないだろうか。


「そうだよね。私……私、自分勝手だった……」


 ウチからは彼女の後ろ姿しか分からないが、声的にこれは明らかに泣いている。


「ご、ごめんパレッタ! そう言う意味で言ったんじゃっ……」


 焦るクェント。


「ガハハハハ!! この短期間で二人の女の子を泣かせるとは、流石女泣かせのヤマトだな!!」


みたいなのが俺の変な噂を広めるんだろうな」


 二人のそんなやり取りが、しんみりしたこの場を和ませてくれた。

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