第4話 俺の「わざ」を見せてやる
「あーあ、おれ知ーらねっ」
ホール内にいる誰かがそう言った。
その声を皮切りに、遠巻きにオレ達の様子を眺めていた野次馬が、いそいそと壁際へ避難を始める。
「ヤ、ヤマトやめとこうぜ。これ以上借金を増やしたくないだろ? なあ?」
オレは一定の距離を取りつつ彼をなだめるポーズをする。
「俺はやめてもいいよ? でもアメリアはどうするかな?」
ドッ!!
「うわっ!!」
オレは思わず声が出てしまった。
先ほどアメリアがダイナミック退室した入口の方からすごい勢いで何かが飛んできたかと思うと、
バシンッ!!
ヤマトの目の前で半透明の何かが弾けて大きな衝撃波を放った。
それは通称”|
もくもくと薄く立ち上る砂埃の向こう側に、うっすらと影が浮かび上がる。
砂埃の向こうからアメリアのシルエットが現れ、ツカツカとギルド内へ入って来ていた。
そして、いい感じの距離で立ち止まり、言い放つ。
「フッ……棺桶を一つ用意しておいてくれ」
誰に言ったのか分からない台詞とともに斜に構えて真っ直ぐヤマトを指差す。
アメリアは途中で落とした三角帽子を拾い上げ、パタパタとほこりを払うとそれをボサボサの頭に被った。
「ピチカ。俺はお前の名前が大好きだ」
ヤマトはウィンクしてニヒルな笑いをピチカに向ける。
「うふふ。意味が分かりませんわっ!」
にっこりと満面の笑みでピチカが答える。
アメリアはそんな二人のやり取りに唾を吐き捨て、右手を前に突き出し、構える。
「ちょ、ちょっと待ってください! 室内ですよ!」
その光景を見て焦った女性ギルド職員がカウンター越しに声を上げる。
『”
アメリアの叫びと共に、魔力で出来た壁がヤマトに向かって放たれる。
バシンッ!!
そしてその壁は丁度二人の中間あたりで弾けて、大きな衝撃波を放つ。
バシンッ!! バシンッ!! バシンッ!!
”M・W・R”。
”マジック・ウォール・アタック”を連続で放つ魔法。
魔法障壁の打ち合いである。
バシンッ!! バシンッ!! バシンッ!!
魔法が弾ける度、それは周りに衝撃波をまき散らす。
テーブルの上に乗っているマグやギルドの備品がガタガタと揺れて音を立てる。
「おい! 何事だ!?」
裏にいたギルドの職員が慌ててホールに駆け込んでくると、その光景を目の当たりにして、絶望の表情を浮かべながらしゃがみ込む。
バシン! バシン! バシン!
心なしか魔法の発射間隔が短くなっている気がする。
バシッ! バシッ! バシッ!
いや、明らかに早くなっている。
「何だアメリア? もう疲れてきてないか?」
ヤマトが余裕の表情でアメリアに語り掛ける。
「はっ! ぬかせ! まだまだいくぜ!!」
バシバシバシバシ!!!!
その言葉に応えるように、魔法の打ち合いは激しさを増す。
アメリアが先ほど飲んでいたマグが倒れ、少しだけ残っていたらしい中身がテーブルの上にこぼれる。
バシバシバシバシ!!!!
「やっべえぞ! これ逃げた方がいいやつじゃね?!」
騒音の中で野次馬の一人が叫ぶ。
「つっても! 出口あそこだし!」
別の人物がアメリアの背後を指す。
ババババババババ!!!!
「うぉっ!!」
壁に掛けてあった額のガラスがパリンッと割れる音がする。
まずい、この世界の工業レベルだと、透明度の高いガラスはなかなかに高い。
ババババババババ!!!!
「……っ!!」
俺がそんな心配をしている間に、徐々に衝撃波の発生源がアメリア側に寄って行っている。
アメリアを見ると、先ほどの自信満々な顔が陰り、眉間にしわが寄っていた。
つまり、アメリアが押されているわけだ。
ザリッ。
その様子を見てか、ヤマトが一歩足を踏み出す。
「……くっ!! この!!」
アメリアは伸ばした右手の手首に左手を添える。
ババババババババ!!!!
「いとしーの いとしーの いとしぃーのピチカぁー」
何か歌いながら、ヤマトがまた一歩アメリアへ近づく。
ドドドドドドドドドドドドドドド!!!!!
打ち合いの間隔はどんどん早くなり、既にオレの目では負えない速さへと達している。
「うおおおおおおおお!!!!」
アメリアが雄たけびを上げる。
叫ぶことに意味があるのかは分からないが、衝撃波の発生源は既にアメリアの目と鼻の先だ。
そして、その時はあっけなく訪れた。
バキャーーーンッ!!!!
「あべしっ!!」
アメリアが変な悲鳴を上げる。
ひと際大きな衝撃の後、再び
外に人が居ないことを祈ろう……。
「だ、大丈夫か?」
「死んだ?」
外の様子を伺おうと、何人かが恐る恐るドアの縁
ボッッ!!
「うわっ!!」
「あぶねっ!!」
覗こうとしたそいつらの鼻先を掠めるように、物凄い速さでまた何かがギルド内に飛び込んできた。
ドゴーーンッッ!!!!
オレの目は全く追い付かなかったが、見るとヤマトの顔の前で拳を突き出したアメリアが、スー〇ーマンのような恰好をして空中で制止していた。
バリバリバリバリ!!
アメリアの右手はヤマトの鼻先で、激しい”魔力のエフェクト”をまき散らしている。
「上げてくぜぇッ!!」
アメリアのその雄たけびとともに、彼女の拳が赤く発光し、そこから煌々と熱線が放たれる。
ミョーーン! ミョーーン! ミョーーン!
それと同時に、ギルド内に聞き慣れたブザー音が鳴り響く。
攻撃魔法を感知した際のアラームである。
危機を感じた何人かが、今の内だとばかりにギルドの外に飛び出していき、ギルドの職員もどこかへ隠れているのか、姿が見えなくなっている。
「おいアメリア!! それ以上はいけない!!」
オレは精一杯のボリュームでアメリアに向かって叫ぶ。
ミョーーン! ミョーーン! ミョーーン!
おそらくオレの声は聞こえているはずだが、アメリアは魔法を一切止める気は無い。
「おい”オリー”!! |早なんとかしろー!!」
野次馬の誰かが遠くでオレの名を呼んで叫ぶが、そんなことできるならとうにやっとるわ!
「やったねヤマト!! 借金が増えるぞー!!」
また別の誰かの声だ。
今度の声は何故か少し楽しそうで、もはやこの状況を楽しんで煽っていらっしゃる。
いや、むしろ大抵の人間は、その様子を壁際でニヤニヤ眺めるだけで、誰も本気で制止しようとはしない。
って、そういえばウチの他のパーティーメンバーは何してるんだ?
ユラリとピチカの姿が見えないことに気づき、俺は後ろを振り返る。
二人はいつの間にか、俺を盾にする様に真後ろに待機していた。
こいつら……。
「オリーさんっ! 今こそ男を見せるときですわっ!」
その顔はニッコニコの満面の笑みである。
「ゆらり……」
声は聞こえないが、ユラリの口が確かにそう動いた。
それにしても、この二人は全く何を考えているか分からない。
と、思ったが、ユラリの手が腰の刀にゆっくりと伸びるのが見えた。
マズい!
オレではない男が、今まさに男を見せてしまおうとしている!
オレは急いでヤマトの方に視線を戻し、それを伝えようと全力でユラリの方を指差す。
流石にアメリアを真っ二つにしてしまう事は無いと思うが、この人はヤマトのためなら何をするか分からない。
ヤマトにそれが通じたのかは定かでないが、彼の顔はこっちこそ見ないものの、ゆっくりと手を上げ、オレの後方にいるユラリを制止するように手をかざした。
そして、かざした手でユラリを指差すとニヤリと笑う。
「俺の
その言い回しに若干の違和感を感じたが、騒音の中、恐ろしく通る声で
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