第2話 飲んじゃう私

私が彼女に出会ったのは高校二年の時だ。

私は昔から極度の不安症であり、人前に出るのも苦手な為、精神科に通っていた。

いつものように精神科を受診すると

「沙夜ちゃん。今日は新しい薬試してみる?」

そう神崎先生が提案してくれた。

「症状が良くなるなら何でも飲みます!」

とは言ったものの少し不安だ。


家に着いてからいつもより少し小さい薬を飲んでみる。


あれから何日か過ぎたが、前の薬より効いている感じがしない。

「うーん。効いてるのかなー。」

そう感じた沙夜はいつもの倍の量服用してみることにした。

「よし、飲んじゃお」

すると、頭痛と共に激しい眩暈に襲われた。

突然ボーっとした沙夜は目の前にもう1人の自分が立っていることに気が付いた。

悲しそうな顔をしている自分...。

彼女がこちらを向くと、私に近付き私の身体と重なった。

彼女が自分に憑依したのを感じると、意識がスーッと遠のくのを感じた。


次に意識を取り戻した時には、外が明るくなっていた。

「やばい!学校遅れちゃう!」

沙夜はスマホを見る。すると、日付が2日経っていることに気が付いた。

「マジ?無断欠席じゃん」

普段から独り言が多い沙夜は最近特に酷い。


支度をし、急いで学校へ向かう途中に久美と出会った。

「おはよー!沙夜」

「あっ、おはよー。」 

久美は普段と変わらない。

(今まで真面目だけが私の取り柄だったのに、久美は何も思わないのか...。)


いつものように久美と他愛もない話をしながら教室に入ると、桃香がいつものポジションにいた。

「きたきた。沙夜おはー!」

「お...おはー。」 

桃香もいつも通りの調子だ。

(私が無意識のうちに学校へ通ってる?)

その後も普段通り授業を受けるが、教師も他の生徒も自分への態度は変わらない。


休み時間もいつも通り一軍女子が輪を作り中心に向かって言葉の刃を投げている。

(この風習だけは見たくもない。)

そう思った沙夜は、学校を終えると急いで家に向かい、もう一度例のあれを試してみることにした。


「今日は薬4倍にしてみよ。」

薬を飲んだ沙夜は一瞬でボーっとした。そして"それ"が現れた。

彼女は前回とは違い、首に深い傷を負っていた。

そして虚ろな目でこちらを向くと、私の身体にスーッっと溶けていくのを感じた。

自分の意識も麻酔をかけられた時のように遠のいた。


次に目を覚ました時には、4日後の深夜2時になっていた。

沙夜は、神崎医師には症状は伝えずに、上手く利用することにした。

見なくて良いものは見ない。 


その後も、イヤなことがある前日に、沙夜は薬を過剰摂取した。


大きな試験の前、苦手な体育祭、文化祭、期間や状況に応じて服用する量を変えた。


その度に"彼女"がボロボロになっているのに...。

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