第1話 研究助手アルバイト
「ふふふふふん」
山城はコーラ片手に上機嫌に鼻歌を歌った。
今日、というか昨日はアルバイトの最終日だった。辛かった居酒屋の仕事。ポットの如くすぐに沸点に達する店長に、猫かと思うくらい吐きまくる客。それらともすべておさらばなのだ。
アルバイトを終えたあとの解放感と深夜テンションで浮足立ちながら、山城はベッドへとダイブした。そして即座にスマホを構え、検索窓に出てきた候補をタップする。
『オカルト板 怖い話』。出てきた検索結果をスクロールし続けると、すぐに目的のスレッドに到達した。
そのスレッドは実話系の怪談の投稿を目的としていて、オカルト板の他スレよりもリアルなホラーを楽しめるのが売りだった。ただ、現実志向ではあるものの決して怖さに妥協しているということはなく、トラウマレベルのものから読むと霊障が起こると言われているものまで幅広く高品質な怪談が揃っている。創作は基本的に禁止で、体験した話しか書けないというのも怖さをより引き立てていた。
山城はスレッドを辿りながら今日投稿された怪談に目を通していく。因習村での出来事、生霊に祟られたこと、肝試しで幽霊に遭ったこと。バラエティに富んだ投稿に思わず頬が緩んだ。仕事後の深夜に読む怪談ほど心地よいものはない。ホラージャンルは媒体を問わず好きだが、特に実話系怪談は最近のお気に入りだった。もはや日課となった掲示板の巡回はストレスの多い生活の中で唯一の娯楽となっていたのだ。
「ん?」
50レス分読み終わった頃だろうか。ふと、1人の投稿内容に目が留まった。それは怪談でもなければ話の感想でもない、アルバイトの求人だった。
『研究助手募集 時給2000円』
そう題されたレスには次のような文言が続いていた。
『怪談を科学的に検証する研究室です。データ入力や被験者の案内などをしてくれる方を募集します。興味のある方は日本グローバリゼーション医療科学大学駒込研究室まで』
『未経験歓迎 必須条件はExcelの基本操作ができること、ホラーが好きであるということ、超常現象を信じていないこと』
このレスに対してスレッド内では特に触れられておらず、荒らしと判断して無視を決め込んだようだった。それもそうだ。こんな所に求人を出す人などマトモな訳がない。
「時給2000円ねぇ……」
しかし山城は無視し切れずに数回読み返し呟いた。怪しい。怪しいが高給だ。
「2000円ね」と何度か呟いて再び読み返す。研究の仕事はしたことないが、仕事内容自体は一般的なもののように思われた。しかし、異様なのはその研究内容だ。怪談を科学的に検証するなど聞いたことがない。そんな研究テーマが存在するのだろうか。しかも必須条件にはホラーが好きでかつ超常現象を信じていないこととある。そんな人いるのか?ホラーが好きな人はホラーを信じているから好きなのではないのか?
少し考え、ブラウザバックする。そして検索窓に『日本グローバリゼーション医療科学大学駒込研究室 アルバイト』と打ち直した。
怪しげなサイトに飛ばされるかと身構えていたが、意外にもしっかりとした作りのホームページが出てくる。どうやら日本グローバリゼーション医療科学大学も、駒込研究室も実在するらしい。
ホームページ内で採用情報というボタンをクリックすると、スレッドで見たのと同じ内容の求人が表示された。
山城は画面を睨んだまま考え込む。仕事が辛すぎてやめたアルバイト。しかし、その後の生活のことはあまり考えていなかった。まだ大学生であるし、仕送りも十二分に貰っている。ただ、色々と事情があり貯金は全く無い。そんな時に現れたこの求人は怪しさを忘れてしまう程には都合が良かった。
頭で色々な考えをめぐらしながら、ホームページ内を巡回する。と、教授の挨拶が載ったページに辿り着いた。山城はまじまじとそれを読み……教授と連絡を取ることを決意した。
何も教授の理念に共感したからではない。教授のことを信用したわけでもない。ただ、「超常現象は実在しないという意見に反駁してみたいと思ったのだ。ホラー好きとして。先生の信者として。
それが山城と駒込教授との出会いであった。
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