心霊科学考

人名

はじめに(駒込研究室HPより引用)

 駒込研究室のホームページへようこそ。

 当研究室では日本グローバリゼーション医療科学大学に現に所属する学部生から、これから院進しようと考えていらっしゃる他大学生・社会人の方まで幅広く受け入れております。見学のお申し込みなどはサイト下記の問い合わせ窓口よりご連絡ください。

 ただ、心霊研究室と聞いて誤解されてしまう方がいらっしゃるかもしれませんので、まずコンタクトを取る前に私のポリシーについてご理解いただければと存じます。



 私はホラーが好きです。ただ、怪談は嫌いです。



 誤解のないように言うと、創作だと分かりきっている怪談は素直に面白いと感じられます。「この物語はフィクションです」という一文さえあれば話がどれだけ具体性を帯びていようが現実には侵食してこないからです。また『寺生まれのTさん』のように荒唐無稽である話は害意を感じることなく楽しめます(あれをホラーと分類するかはさておき)。

 しかしながら、まるで本当に起こったことであるかのごとく伝えられる怪談には少し違和感を覚えます。そのような話は悪意がなかったとしても影響力を持ってしまうからです。以下にはその理由について説明しようと思いますが、初めに言っておくと、私はホラーの担い手となっている創作者の方々を責めたいわけではありません。勿論ホラーを純粋に楽しんでいる人を糾弾したいわけでもありません。ただ、私自身がこう考えているというだけです。なので、ホラーが好きだという方は無理に自分の考えを捻じ曲げて私の理念に合わせたりなどせず、他の研究室に所属することをおすすめいたします。


 影響力とは、まず、怖さの「得体」となった人を傷付けてしまうということが挙げられます。例えば凄惨な事件が起こった現場で幽霊を見たなどと記せば、確実に読み手はその事件の被害者が幽霊となって人々を脅かしていると想像するでしょう。しかし、その方が幽霊になったという証拠はどこにもありません。そもそも(後に詳しく述べますが)幽霊が存在する証拠もありません。なので被害者の方は濡れ衣を着せられ勝手に怖がられたり勝手に風評被害をばら撒かれたりしていることになります。惨たらしい亡くなり方をした上に後世にデマを作られるなんて文字通り死体蹴りも良いところです。死んでるんだから人権はないだろうと主張される方もいるかもしれませんが、亡くなった方の遺族や関係者の方なども風評被害の被害者であると思います。実際、事故の慰霊碑が肝試しに使われ荒らされてしまったりといった実害も出ています。そもそも、愛していた人が突然化け物として有名になって嬉しい人はいません。

 加えて、怪談がヘイトスピーチを助長してしまうことも考えられます。ヒトコワ系の話などはその最たる例であると思います。傍からみて異常な行動、不気味な行動、迷惑な行動などをしている人を怖がるこのジャンルは、マイノリティをその得体とすることが多いです。例えば精神疾患者、知的障害者、被差別部落、地方出身者、新興宗教信者、外国人など。しかし、そういった方々に関するデマを広めたり、無理解に怖がったりすることは特定の集団を排除することに繋がるのではないでしょうか。実際に、因習村ジャンルが流行ったことで地方の伝統ある(勿論害のない)祭事まで奇異の目で見る人が出てきたり、精神疾患に関する怖い話の感想に「気◯いは全員犯罪者予備軍だから隔離しろ」「障害者は迷惑だから中絶しろ」などといった暴言を吐く人が続出したりといった害は出てきてしまっています。本人にその気がなくとも、特定の集団を怖いと感じさせる話は差別に繋がります。私もそのような話は好きでしたが、私達が楽しい思いをした裏で苦しませてしまった人もいたのではないかと反省しています。

 次に、エセ科学を助長してしまうことが大きいです。幽霊の存在はまだ証明されていません。エディンバラ大学では超常現象を専門に扱う研究室もあるようですが、それでも尚再現性のある証明はされていません。もし幽霊の存在を証明できれば冗談抜きにノーベル医学生理学賞を受賞できるでしょう。これまでの延命の概念を根本から打ち砕くことになるわけですから。もし幽霊の細胞片を少しでも採取できたら、それだけで一生分の金と名誉は保証されることでしょうね。しかし、それでも幽霊を証明できる人は唯一人といません。未科学なだけであるという意見を否定はしませんが、現状では幽霊が存在する可能性は限りなく無に近しいと言えるでしょう。ならば怪談は、現実では存在し得ない科学的に正しくない話を広めることであると言えます。

 それの何が駄目なのか。1番は詐欺などに用いられてしまうことです。霊感商法という言葉を聞いたことがある方も多いでしょう。「あなたは祟られているから有料でお祓いを受けなさい」とか「このツボを買えば幸せに成れます」とかの誇張された宣伝で高価なものを買わせる詐欺手段のことです。幽霊の存在は証明されておりませんから、ありもしない効能を示すのはボッタクリでしかありません。しかし、怪談はこの手の売り文句を正当化させたりもっともらしく聞こえさせたりするのに一役買ってしまっています。怪談の中で祟は存在する、お祓いが効いた、という証言を載せれば、機能性表示食品の広告に「個人の感想」を載せる以上の説得力になりますから。さらに霊感商法以外にも疑似科学を用いた商売はたくさんあり(スピリチュアル、気、魂、心みたいな)、怪談を信じた方がそれらの餌食になることも考えられます。創作だってことなんて分かりきってるんだから怪談を信じる奴が悪いと思われるかもしれませんが、実話系の怪談ではさも本当にあったことかのように思わせることが重視されていますし、心が弱っている方や追い詰められている方、情報に疎い方などの中には騙されてしまう人がいても責めることはできません。

 このようなことから、ありもしないことをフィクションだと明言せずに語る怪談に対して私は違和感を覚えてしまうのです。1人の考えた怪談が世界中に広がってしまう現代だからこそ、そのあり方を見直さなければならないのではないかと考えております。



 そこで本研究室ではこのような考えに基づき、心霊現象を科学的に検証することでホラーのあり方について考察することを目的としております。ただホラーを楽しみたいだけの方には少し辛い研究となってしまうことが考えられますので、私の理念に共感した方のみを受け入れることができればと思います。本ホームページには過去の研究例や在学生の紹介もありますから、是非参考にしてください。

 皆様と一緒に研究できることを楽しみにしております。

 

                駒込 太一

 

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