第9話 ガンマ拠点の英雄
「ジュリさんに建て替えてもらって助かりましたね」
「いやほんと助かった、危うく大犯罪者になるところだったぜ」
「………まぁださいのには変わりないですけど」
「………そんなこと言わないでくれよぉ」
ギルドから抜け出した俺達はレータの案内の元ミギがいるらしい家に向かって歩いていた。
しばらく歩き続けると、巨大な屋敷のような建物が見えてきた。
「え、これがミギの家?」
「らしいですけど、でかいですね、あまりにも」
「いややべぇよ、今の時代、こんな家を構えてる人間がいるなんて」
この世界では基本的にでかい家を持つことへのメリットは特にない。土地が広いからなんだ、家がでかいからなんだ、そんなことをしたってモンスターは狩れない。
そういう狩人思考の人間が多すぎるからな、この世界は。
「ん?君たちは一体………」
「あ、私達はミギさんとパーティーを組んでいたもので」
無精髭を生やした初老の男が花に水をあげながらこちらを見てそう尋ねてきた。
「そうか君たちが、入りなさい」
彼はどうやら俺達のことを知っていたのか特に戸惑う様子もなくそういって彼は家の豪華絢爛な扉を開けて見せた。
中も外の豪華な装飾にそぐわないほど綺麗であった。
「うわぁ綺麗ー」
レータはこういうきらびやかな家を見るのは初めてだったのか目を輝かせてあたりを見渡している。
俺達を出迎えてくれたのは威圧感のある鉄甲冑を着込んだマネキン、そして奥に見えるでかい階段はおよそ十人が横並びで歩けるほどだ。そんなエントランスはすべてがきらびやかとしていて天井にはシャンデリアもつるされている。
………正直言ってハンターには必要のないものばかりの趣味嗜好全振りの内装であった。こんな無駄に豪華な建造物を俺はギルド本部くらいしか知らない。
「………珍しいですよねこんな大狩猟時代っていうのにこんなっ…すいません!」
自分で言ってすぐに口を閉じた。失言だ、人の家を皮肉るようなことを言ってしまった。
「いやはや、私もこんな時代にこれほど大きい家を持つつもりはなかった、これを建てたときの私はきっとまだ若かったのだろう、自分の権威を示したくて仕方なかったのだ」
前を歩く男の人が気恥ずかしそうに頬を掻いた。だがその言葉の端にある違和感を感じ取った。自分の権威を示したい?それってとんでもないお偉いさんなんじゃ、と恐る恐る口を開く。
「………失礼かもしれませんがお仕事は何を?」
「私はギルドの裏方で財務処理などを行っていただけのただの老骨です」
自らのことをあざ笑うように髭を撫でる。
「………財務処理って、上司じゃないですか」
だらだらと汗を垂らす帰還係のレータ、財務処理となると事務方面の仕事だ。この大狩猟時代の中で事務方面の仕事というのは優秀の人しかつくことしかできない、そして優秀な人しかつけないということはその職業であるだけでかなり上の立場なりえるからな、冷や汗を流すのも納得だ。
「いやいやもう仕事はしていませんので気にせず接してくだされ」
「う、でも、うぅ」
その小柄な体をプルプルと震わせ目の前の遥か格上の相手にびびっている。まぁさっきかっこが付かなかったからなここは見せてやりますか先輩の度量っちゅうもんを。
「すいませんね、レータは少し緊張しいなところがあるのでぇ」
「いやいや気にしてませんよ、それよりもあなた方はミギに会いに来たのでしょう?」
「………そうですけど、やけに話が早いですね」
「息子からあなたたちのことは聞いてましたからね、何度も悔やんでいましたよ「ミスナさんを殺しかけたのは自分だ」って、何度も何度も壁に爪を掻き立てて爪がむけるくらい後悔をしていました」
彼はある扉の前で歩みを止めた。その扉の前に手つかずの冷え切った料理が置かれたお盆がある。きっと彼がミギのために用意したものなのだろう。
「すいません自己紹介が遅れました、私はミギの父であるザユウです」
惚れ惚れするような綺麗なしぐさと共に見せてくれたそのお辞儀は目を引くものがあった。
「あ、すいません俺も自分も名前を名乗っていませんでした、私はミスナといって一応ハンターをしています」
「あ、あ、私はレータです!帰還係をしています!」
「そうか、ありがとうね紹介してくれて、君たちが本当にパーティーのメンバーだったのか実のところ不確かだったからとても緊張していたんだ」
「え、わからないままあの対応してくれたんですか?」
「うん、大人の対応を見せたいなぁって思ってね」
「あ、そうっすか」
おじさんの照れ顔など見たくもないが、どうやらお堅い人ではないことにほっと胸を撫でおろした。
「………じゃあ早速ミギに会ってくれるかい?私じゃこの部屋から出すことすらできなくてね」
「わかりました、でもあんまり期待しないでくださいね」
「ありがとう、本当にありがとう」
またもザユウさんは深々と礼をした。
まぁ正直言ってミギに敵前逃亡されたのは少しむかついたけどそのせいで爪がはがれるくらい後悔しているというのならそれは見逃せない。俺の一言でもしミギが救われるのならいくらでも言ってやる。
俺は二度ミギの部屋の扉を叩く。
「お父さん、俺はもういいんだ、関わらないでくれ」
「違う、俺だ、ミスナだ」
「っ!」その瞬間ばんっと扉が開かれる。前に立っていた俺は数メートル吹き飛ばされ後ろにある壁に打ち付けられる。
「おまっもうちょいゆっくり開けろや」
「ミスナさ、ごめんなさいあのとき逃げちゃって、そのせいであなたは死ぬかもしれなかったのに」
壁に打ち付けられてうなだれてる俺に駆け寄って来たミギは俺の元に駆け寄ってきて目の前で土下座をした。
その顔はひどく荒んでいて隈も酷く、髪も体もここ最近は洗っていないのか少し匂ってきた。
「おまっいいってそういうの」
「でも、ミスナさんは俺のせいで」
「あぁそうだなお前のせいで俺は死にかけた、それはもう死ぬほど反省しろ、けどな反省した後はもう前向け、俺にはもう謝ったんだからそれでいいじゃんか」
「………ミスナさん、あなたという人は」
ミギはすがるように俺の服を強くつかんだ。
「勇気が、出なかったんです、ノームジャスを倒す勇気が、そして自分からミスナさんに謝る勇気もなかった、どうしようもないクズなんですよ、俺は」
「で?そうやってふさぎ込んでまた誰かに迷惑かけるのか?」
「っ、そんな、こと、は」
ミギはちらっとザユウさんの方を見た。
「だからよ一歩踏み出してみろよ、じゃないと男じゃないぜ」
「ミスナさん、本当にいいんですか?」
ミギは爪がなくなった指で俺の服を撫でた。
「だからさっきから言ってるけどよぉ俺はハンターだ、狩り以外のことはあんま興味ないんだぜぇ」
どんどん近づいてくる隈だらけのミギの顔面を押しのけるように肩を強く押す。
「わかりました、でも、その何かお礼くらいは………」
その言葉を待ってました、と言わんばかりに俺は押しのけたミギに急接近してにやついた。
「じゃあ回復薬と携帯食料をそれぞれ10個ずつ買ってくれ」
「え、あ、はいそれくらいでいいなら」
「それでもなんかもやもやするっていうならその恩を一生覚えとけ、そんでそれを誰かに返すんだ、それが俺からお前に求めるもんだ」
「っはい!!」
ようやく生気を取り戻したらしいミギはやる気に満ち溢れたのか右手を強く握った。
「………はぁ、ほんとこの人は」
レータがなにやら大きなため息を吐いているが、まぁ気にしないでおこう。
「ありがとうミスナさん、息子を引きずり出してくれて」
「いえ俺にできることならやりますよ」
ザユウさんが薄い笑みを浮かべながら俺の顔をじろっと見る。まるで俺を品定めするようなその視線につい顔をそむけてしまった。
「………うん、いい目だ君はきっといいハンターになるだろう」
無精髭を撫でてザユウさんはそう答えた。
「ううぅおじさんに舐められるように見られた、レータで補給しなきゃぁ」
「ちょっ何するんですか!」
俺はすぐにザユウさんの元を離れレータの近くにふらふらと近寄って同じように舐めるようにレータの顔を拝観する。
うん、美しい顔だ。クールでつり目がちな猫のような瞳、落ち着いた栗色の髪からはいい匂いがするし、焦って冷や汗を流す姿も愛らしい。
「近寄らないでもらえます?変態」
「………すんません」
もう軽く人を殺しているのではないかと思うほど冷たい瞳で見られてしまった、うんこれ以上からかうのはやめよう。俺は一歩後ろに下がる。
「私からも何かお礼したいのですが、何がいいですか?」
まじかよ!こんな豪邸持っている人からのお礼なんて一体何がもらえるんだ………と、今にも浮足立ちそうになっている俺の背後から落ち着いた女の人の声が聞こえてきた。
「やぁザユウ」
その声の方向に体を向けるとそこには少し背が小さい、未発達中学生みたいな少女が腰に手を当てて偉そうに仁王立ちしていた。肩になにやらド派手な装飾品をつけていて背中には地面についてしまうくらい伸びたマントを垂らしている。頭の上にはその小顔に似合わないほど巨大な士官帽のようなものをかぶっている。
白く長い髪は腰あたりまで伸びていて、驚くほどきめ細かであった。その白い髪に合っている白色の軍服のようなものがより彼女の完璧さを際立たせる。見た目は中学生、だがその威圧感は決して中学生の人間が持ちえるものではなく………。
「おぉこれは団長殿」
「ぶふぅぅぅぅぅ!?」
ザユウさんの声を聞いた瞬間俺は目を見開いた。だ、団長だと!?てことは、今俺の目の前でふんぞり返ってるこの少女こそがシリウス・ルナ、ガンマ拠点の英雄だとぅ!?
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