第8話

「え、何、何があったんですか、何があったらパンツ一枚だけでそれも街中で土下座することになるんですか」

「だから言ったろ?喧嘩で負けただけだって」

「だからなんでそんな状況でそんなクールでいられるんですか、まるで自分は悪くないみたいな顔やめてください」

俺はレータが全力ダッシュで持ってきてくれたシャツと、半ズボンを吐いて、ギルドの談話室で会話している。


どうやらこの服はすべてお父さんのものらしい。煽るように「もしかしてこれってレターのぉ?」とか聞いたらめっちゃ冷めた顔でそう言われた。


「あなたは私の恩人です、なるべくならそんな人間の尊厳を捨てた格好はやめてください」

「ひどい!俺だって必死に戦ったんだよ!」

「黙って」

「うす」

いやこわぁ、クエストに行ったときのレータちゃんはこんなに威圧的じゃなかったのに。


「はぁ、一緒にクエストに行ったときのあなたはあんなに頼もしかったのに」


と、レータちゃんも同じようにクエスト中とのギャップを感じていたらしい。


「とりあえずその服はあげます、けどなんで三級ハンターのイルスさんに突っかかたんですか?五級のあなたが勝てるわけないのに」


………この世界のハンターには階級というものが設けられている。それは7級からあり、ハンターとして熟練していくたびに数字は低くなっていき、割のいい仕事も受けれるようになっていく。


階級をあげるにはギルドから突然言い渡されるギルド命令の他に進級試験という、超絶難しい試験を受けることでも可能である。あとギルド側から言い渡されることもあるな。


そして一番上の階級というのが特異点級というものだ。この世界の歴史そのものを変えられるような強大な力を持った人間に与えられるその称号をここガンマ拠点で持っているのは駐屯ハンターのパーガスさんとガンマギルド団長スウェル・キャリウスのみだ。


まぁそんなのは天上の人間の話で、ほとんどのハンターは4級から7級である。


まぁ超絶難しい試験と言っても七級、六級、五級、四級に上がる試験はこのギルド内部で行うからそこまで危険ではないけどね。


七級のとき、俺はノームジャスの討伐の補助をしたとして六級にあげられ、ジャスを単独を討伐したとして五級にあげられた。と、いかんいかんつい自分語りをしてしまった。


まぁつまりレータはこの世界の上澄みである三級ハンターになんでつかかったのかが謎なんだろうな。


「………調子に乗ってたんだろうな、俺は」

「………」

ひとたび俺がシリアスそうな空気を流すとレータは息をのむ。

「ノームジャス討伐はレータの補助やヒダリのあの一撃があったから成せたことだ、あれがなかったら俺は死んでただろうしな、そういやまだ礼がまだだったなありがとうレータ、あのときは助かった」

「わた、しはほとんど何もしてません、討伐のMVPは絶対にミスナさんです、だからそういうのはやめてください、少し、気恥ずかしいです」

レータが栗色の髪をなびかせぷいっとそっぽを向いた。頬が少し赤くなっている。


「まぁまぁそういうなってあれがナイスアシストなのには変わりないんだ、なんかおごるぞ?」

「………いえ私はそういうの断れるので」

「なにが断れるだよ、さっきからメニュー表チラチラ見ながら値段の高さを見てうなだれてたじゃないか」

ここはカフェのように軽い軽食はできるからな、気になるのも無理はないだろう。

「うぐっ!そこまで見られていましたか」

「バレバレだったよ、結構」

全く隠せていなかったことを告げるとレータは俯いて肩をがくっと落とす。


思えばレータはかなり表情を表に出すようになった。最初にあったときは「え、石造?」って思うくらい表情硬かったのに。まぁ初の大型モンスターだったらしいし緊張してたんだろうな。


ってよくよく考えたら俺達のチーム大型モンスター初心者しかいなかったんだな。………今後はそういうことにならないように自分からチームを作っていかないと。


「まぁまぁここは大人の俺に任せなさいよ」

「じゃ、じゃあオレンジジュースを一つ」

「了解だ」


俺は後ろを振り向き店員さんを呼んでオレンジジュースを一つとコーヒーを一つ頼んだ。


ここは大人の余裕ってやつを見せてやるか。


「おまたせしました、こちらオレンジジュースとコーヒーになります」

ふっ見ていろレータ、これが大人の余裕ってやつだ。


俺は届いたオレンジジュースを幸せそうに顔を崩して飲んでいるレータの前で、コーヒーを口にする。ブラックで。


そうブラックで!!!(大事なことなので二回言います)


「え、にが」

うわぁなんだこれ日本のやつの10倍は苦いぞ、エスプレッソにエスプレッソを加えたみたいな苦みだ。まぁとにかくものすごく苦い。このままでは飲み進めることができないくらいには。


ま、まずい、このままブラックのコーヒーが飲めないとレータにばれたら、幻滅されてさっきの冷めた顔を向けられる。そ、それだけはそれだけはいやだ!!!


「お客様、こちらサービスでございます」

と、苦悩していたところにシロップのようなものが天から降りてきた。斜め上を見てみるとそこには受付嬢であるはずのジュリさんがいた。

「え、ジュリさっ」

「しーっ、………ではこれで」

しっとりとした赤い唇に人差し指を当て何事もなかったかのように彼女は元の仕事場に戻っていった。


理解ができず彼女の方を向くと、彼女はもう一度唇に人差し指を当てた。


なるほど、ジュリさんは俺がブラックコーヒーを飲めないことを見越してシロップを持ってきたってことか、………ありがとう、俺はあなたのようなできた人に出会えて幸せです。


俺はジュリさんがシロップをいれてくれたコーヒーを目に感謝の涙を浮かべながら飲み始める。


………でも苦い。


俺はさらに泣きそうになった。


「そうだ、ミスナさんに用があったんでした」

そんな俺の葛藤などどうでもいいかのようにレータがそう切り出してきた。

「用?どしたの」

「ナカの件です、あいつが噂を流した張本人らしいので、とっちめましょう」

「えー、いいよあいつはギルド側が対処してくれるでしょ」

「だめです!こういうのはやり返してやらないと一生ナカに舐められますよ!」

「流石にナカも懲りるって」

正直俺はもうナカに関わる気はない、あいつがどんな噂を流そうが一度ギルドが対処しちまえばその噂を信じるやつもいなくなるだろうしな。


なによりめんどくさい。


「………むぅ、ミスナさんがそこまで言うなら別にいいんですが」

「そ、俺は気にしてないからね」

「じゃあミギはどうしますか?あいつクエストから返ってきて以来家に引きこもっているらしいんですけど」

「え、なんで?」

「さぁ、私の情報収集能力だとわかりませんでした、確認しに行きますか?」

「うーん」


そこで一度考えるように苦いコーヒーを口にする。ちらっちらっとレータが俺のことをどう見てるかが気になったがどうやらレータは今でもオレンジジュースに夢中らしい。


まぁそれはいったん置いといて、ミギねぇ、あいつちょっといいやつだからなぁ、あんときは逃げちゃったらしいけど気にしてないからなぁ。


………まぁ装備が作られるまで結構時間あるし少しミギの面倒見てやるかぁ。


「じゃあ様子見にだけ行こう」

「了解です、ミギのいる場所は知ってるので案内しますよ」

「あぁ頼む」

「な、なんであんたが生きてんだよミスナ」

「あぁ?」

さぁ今から行こうと席を立ったとき後ろから腹の立つ自信に満ちた声が聞こえた。


後ろを振り返ると俺のあの悪評を流した張本人であるナカがいた。なにやら豪華絢爛で派手派手な服を着たナカは謎にサングラスをかけている。隣には胸元をがっつり開けて男を誘惑するようなドレスを着たねぇちゃんがいた。


「あんたはノームジャスとの戦いで一人取り残されて、それで………死んだはず」

「ぎりぎり倒せたんだよ、ヒダリとレータのおかげで」

「………ちっゴキブリかよ、行こうぜ」

ナカはそのえっちぃねぇちゃんの肩を抱いて踵を返す。


………なんでこんな急に金遣いが荒くなったんだ?


前までのこいつは回復薬一つもらうのにも感謝してたくらいなのに。


「なぁ、お前今何してる?」

「あぁ?ん-あぁなんだ俺が女抱いてるのが不服かぁ?」

「違う、お前がなんで急にそんな金を使い始めたのかが気になるんんだ」

「はっある人に金をもらったんだよ」

「ある人ぉ?」

「あぁカネトリーさんっていう優しいお方の慈悲で俺に1000万ネルもくれたんだ」

「おまそれっ」


闇金だろ絶対!しかもカネトリーってここいらで有名な闇金業者だろ、多分果てしない利子をつけられてるぞこれは。


「そのカネトリーってやつに金もらったときに紙になんか書かされなかったか?」

「あーそういや名前をここに書けって言われたな、まぁ名前書くだけで1000万ネルももらえたんだ今後もそうやって金をくれるらしいから、俺の人生はもう安泰なんだ」

「………はぁ、おい今すぐ金をもらうのをやめるんだ、絶対に後悔するぞ」

「嫌だね、俺はもうハンターなんて危険な職業やめてのんびり暮らしてやるんだよ」

「くっ、そうかよ勝手にしろ」

「はっ言われなくてもそうしてやるわこの愚図ミスナが」

もうこいつの顔だって見てやらない。まじむかつくわ、勝手にどこまでも堕ちていけくそが。


とか悪態をついてたらがたっと椅子を蹴飛ばしたレータが一直線にナカの方に向かっていく。


「あ?なんだ君も俺に興味を持ったのか?いいよ君みたいなかわいい子はいくらでも抱いてっぎゃっ!?」


完全に油断したらしいナカはレータのかぶりを振った隙だらけのパンチを思いっきり頬に喰らう。


数メートルは吹っ飛んだナカはきりもみ回転して壁にぶつかる。


「ミスナさんの悪口を言うな!お前なんかがミスナさんの何を知ってるっていうんだ!お前がお前が逃げたからミスナさんはボロボロになったんだぞ!それにくそみたいな噂まで流して!っざけんなっ!」

「ひっ、ひぃっ!」

レータがもう一度壁にもたれかかったナカに向かって殴り掛かろうとしたらナカは一目散に四足歩行で情けなく逃げ出した。


「逃げんなくそがっ!」

「まぁ落ち着け落ち着け、ここギルド内だから」

まだ頭に血がのぼってるレータの

「でもミスナさんっ!」

「でもじゃないの、やるなら外でやりなさい」

まぁ正直俺のために怒ってくれたのはうれしかったので外でなら大歓迎だ。


え、そういやギルドの人達まるでレータのこと止めようとしなかったな。


周りを見渡しても我関せずと仕事に集中する人ばかりだ。え、何あいつギルド職員の皆さんにも嫌われたの?


うわぁどんまいと思いながらも今なお肩で息をしているレータをなだめるため口を動かす。


「でも俺のために怒ってくれてありがっ」

「あの野郎!なにより私のことを危険な状況にしたのが許せない!!」

「………そですか」

どうやら俺のためなのは付け足しだったらしいです。


俺がお礼を言うのにかぶせてものすごい語気でそう言ってきた。その頬は少し赤らんで見えた。


「はぁとりあえずミギのとこに案内してくれ」

「あ、はい了解です」

「と、その前に金払わない、と………あ」

「どうしたんです?」

そこで俺は思い出してしまったイルスに有り金と装備をすべて奪われ俺は今情けなくもレータのお父さんのおさがりを着ているということを………。


「金がない………」

「………ださ」

ぼそっとしたレータのつぶやきがすごく心に刺さってしまった。












  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

理不尽狩りゲーの世界に転生した @rereretyutyuchiko

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ