第4話 大型モンスター
どうやら最近、リスナ密林(俺が昨日採取クエストに行った森のこと)に行ったハンターたちが行方不明になる事件が多発しているらしい。………俺は運がよかったようだ。
少数の偵察隊などは何度か派遣したようなのだが、それらすべてが行方知らずになったことでギルド側もこの問題を重くとらえ始めた。そしてついに近々大規模な遠征隊を組むらしく、その選抜を行うそうなのだ。
その選抜は2週間かけて行われるとジュリさんは言った。
だがその選抜のせいで多くの熟練ハンターがクエストを受けに来なくなり、残ったのはまだまだ新人のハンターと俺みたいなやる気のないハンターたちだけだったのだ。
そうなれば大型モンスターの討伐数は減っていくわけで、ノームジャスなどの大型モンスターのわりにはあまりおいしくないクエストは余りに余りまくっていたらしい。
しかしノームジャスとて大型モンスター、人類の領土を広げるためには討伐する必要があった。
それにパーガスさんが非番のときなどはどうやらノームジャスが時折駐屯しているハンターたちを食ってしまう事件もあったらしい。
「と、いうことでして大変心苦しいのは承知なのですがミスナさんにギルド命令を下します、ノームジャスの討伐をしてください」
ギルド命令、それはハンターが決して逆らえない命令だ。言われたが最後そのクエストを受けるほかないのだ。受けなければハンターとしての資格を奪われてしまうからな。
だがその分保障も手厚い、報酬金は最低100000ネルだし、帰還係も無償でつけてくれる。まぁ悪いことばかりではないってことだ。
多分先週までのジュリさんの勧誘があんなにしつこかったのはギルド命令を出したくはなかったからだろうな。出せばギルドに損失が出ちゃうから。
だが流石に看過できなくなってきたギルド側がその重い腰をあげてギルド命令を出したということだろう。
「………了解です、それでチームは?」
トラウマはあるがチームを作らないと大型モンスターの討伐には危険が付きまとうからな。
「その………あちらにいる方々です」
え、何その気まずそうな顔、と思いながら恐る恐るジュリさんが指した方向に振り返る。
「ようやくモンスターと戦えるぅぅ!」
「まぁここからこの俺、百姓とびのナカ様の異名が響き渡ることになるだろう」
「もうみんな騒ぎすぎ、たかがノームジャスごときにさぁ、あんな雑魚は僕達にとっての踏み台でしかないでしょ」
とか言ってるそいつらはギルド側からハンターとしての資格を持ったときに渡される初期装備を誇らしげに着込んでいた。
「あ、帰還係は明日の朝九時に門の前に向かわせますがそれでよろしいですか?」
「え、あ、はい」
俺の返事はあまりに軽かった。
・
結論から言おうこいつらは新人ハンターだった。名前は右からミギ、ナカ、ヒダリ、の三人組だ。
どうやら仲良し三人組らしく子供のころからハンターに憧れていて、この世界の成人である16歳となった今年無事ハンターとして就職することになったそうな。
「よろしくなぁ!先輩」
「ふっまだジャス装備ですか情けない」
「僕の足を引っ張らないでくださいね先輩」
こいつらしゃべるときも右から順に喋っていくのかよ。謎に統一されてやがる。そんでもってめちゃくちゃ生意気。
「あのなぁお前らノームジャスのこと舐めてないか?」
「正直」
「この俺に勝てないわけがなかろう」
「僕にかかれば瞬殺できます」
ミギは快活そうな少年、ナカはきりっとした目が特徴のナルシストっぽい少年、ヒダリは一番小生意気そうな僕が主語の腹立つクソガキだ。
『どうやらミスナさんのリスナ密林から無傷で帰ってくることがかなり多いということをギルドの本部が評価いたしまして新人教育もかねて、ということで………すいません』
ジュリさんにそう言われたことを思い出す。
………ジュリさん、俺一回も大型モンスター倒したことないんですけど。
まぁ多分そういう風におだててギルド側にヘイト向かないようにしてるんだろうな。バレバレだけど。
「お前ら俺の言うこと聞けるか?」
「時と場合によるっす!」
「俺は俺の命令しか聞かん」
「僕に命令するとか先輩何様ぁ?」
あぁまずいこいつら、多分このままだと死ぬ。
「じゃあまずはノームジャスの出現場所についてだが………」
俺がギルド側からもらったノームジャスについての情報を手にこいつらに説明しようとした。
「あぁわかってるよ、どうせミスナ密林前でしょ?」
「その通りだ」
生意気クソガキヒダリが口をはさんできた。………もうしゃべるのやめようかな。
ただでさえ二度目の大型モンスター討伐で緊張してるのにこんなクソガキ共の相手をしていたら萎えるわ、普通に。
その後もたくさんノームジャスについての情報を心が折れそうになりながら伝えていったが多分こいつら何も頭に入ってないな。ずっとはしゃいでいやがる。
「んじゃあお前ら各自準備してから明日朝9時に門の前に集合な」
「了解です、ミスナ先輩」
「この俺にかかれば早起きなどたやすいことよ」
「えー十時にしなーい?」
「だめだヒダリ、それだと帰還係の人に迷惑をかける」
「えーガチめんどいー」
………もうほんと、疲れる。なんなのこの子達。
そしてノームジャス討伐当日、俺は自分に必要なものをあらかた昨日のうちに揃え、でかいリュックと共に集合場所である門の前であいつらを待っていた。
先輩だから先に着いてないとなと思い、20分前に着いたのだが10分経ってもあいつらは姿を現さなかった。だが一つの人影がこちらに小走りで向かってきた。
「あ、こんにちは今回帰還係を務めさせていただきます、レータと申します」
レータと名乗る彼女はまだ年端もいかないような若い少女だった。まぁロリかと言われればそうではない、ほんとに成長途中といった感じだ。
髪が栗色でいい天気な今日にはよく映える。それにきゅるんっとしたかわいい瞳は俺を真っすぐに見つめている。装備は帰還係らしく目立たないような迷彩柄の軍服みたいなものだ、後ろには巨大な板のようなものと、俺のよりはるかにどでかいバッグを背負っていた。
帰還係の仕事は非常にシンプルで戦闘が終わるまで近くの目立たない場所で待機し、大型モンスターを討伐したときはそれを引っ張る役目を持っている。そして大型門スターに負けたとき可能なかぎりハンターの救出を手伝うというものだ。
「あなたがミスナ様でお間違いないですか?」
「あぁそうだよ、よろしくねレータさん」
「はいよろしくお願いします」
レータさんから差し出された手を俺は迷いなく取った。
「ではクエスト敗北時の撤退判断について聞きたいのですが」
「あぁそれはレータさんに任せるよ、何しろ俺が先輩ハンターとなっての始めての大型モンスター討伐だ、焦らないわけないからな」
「了解です」
レータさんは無機質な表情のまま敬礼をした。………あぁあのクソガキ三人衆もこんな風に真面目だったらよかったのに。
そしてレータさんと会ってから五分が経った。
「………まぁあと5分あるし」
そう信じて3分後ようやく二つの人影がこちらにやって来た。
「おはようございますミスナ先輩」
「あいさつはしといてやるおはよう、先輩」
ミギとナカがなんともまぁ軽装備でやって来た。
ミギはまだましで、ギルドからもらった最初の装備と背中が埋まるくらいの少しでかいバッグを背負っていた。どうやら武器は片手剣のようで盾がバッグに飾られるようについている。
だがナカは終わっている。手提げバッグに雑に入れられた槍は役目を失ったかのようにぐったりしている。装備はミギと同じものだが、明らかに手提げバッグには槍以外何も入っていない。………まじかよ。
「あぁおはよう、ところで聞きたいんだがその手提げバッグには何が入ってるんだ?」
まだ信じられなかった俺は最後の希望に、ナカにそう聞いた。
「ふん、何も入れないに決まっているだろう、ノームジャスなんかに俺は小細工などしないのだ」
「………あっそ、ほれじゃあこの回復瓶やるからもっとけ」
俺はバッグから予備としてとってあった回復瓶をナカに渡す。
回復瓶を飲めば傷付いた体は一瞬のうちに治っていく優れものだ。これを持たず狩りに出たものと、持って狩りに出たものとでは生存率は雲泥の差がある。この回復瓶こそが俺達ハンターにとっての必需品なのだ。
「………ならばもらっておこう」
案外素直にナカはその回復瓶を受け取った。………まぁ回復瓶は少し高価だからな手を出せないのもわかる。
「ミギは回復瓶持ってるか?」
「持ってます!」
「そうか、そりゃよかった」
どうやらミギだけはきちんと狩りの心得を持っているようだ。
「んじゃあ後はヒダリだけだな」
と、待つこと20分、すでに15分の遅刻だ。だんだんイライラし始めているレータさんにひやひやしながらも内心俺も怒っていた。
狩り行くのに友達と遊びに行く感覚でいられちゃ困るんだが………。
「あぁいたぁいたぁ、髪整えるのに時間かかちゃった」
まるで悪びれる様子もなくのそのそと歩いてきたヒダリはその言葉通りばちこり髪を決めていた。
「おい、ヒダリ何髪決めてんだよ、そんなの狩りに必要ないだろそんなのするくらいなら集合時間に遅れず来い」
「は?うっさ、何?僕は僕がやりたいように生きるんだから先輩はほっといてよ」
「おまっ!さすがにそりゃないだろ!ヒダリ!」
あぁこいつぶん殴ってやろうかな、と拳を震えさせていたところにミギが横やりをいれてくれた。………え、何ミギ優しいじゃない。
「お前遅刻しといて先輩に暴言とかいい加減にしろよ」
「何?僕は僕の生き方を貫いてるだけ、ミギには関係ないでしょ?」
「おまっ「はいはい、そこまで、これ以上レータさんに迷惑をかけるわけにもいかないからさっさと行くぞ」」
そこからめんどくさそうな喧嘩が始まりそうだったので止めた。これ以上遅延行為をしてしまうと今でさえヒダリのことをゴミのような目で見てるレータさんがヒダリのことを殺しちゃうからね。
「じゃあ出発するぞ、作戦は道中説明しよう」
そして俺にとって初めてである俺主導の大型モンスタークエストがぐだりながらも始まった。
………正直不安しかない。理由はこいつらがチームというのもあるが、それとは別に俺個人の過去のトラウマの件もある。昨日なんか緊張しすぎてほぼ寝れなかったわ。
でもやるしかない、やるしかないんだ。そう心に決め震える足に鞭うって俺達はノームジャス討伐に向かった。
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