第3話 それになりたい

俺は当時狩りに行きたくてしょうがなかった。だってそうだろ?ゲームで戦ってきたようなあのモンスターたちが現実にいるんだぜ?


狩りゲーが好きだった俺に我慢しろって方が無理あるぜ。


だから俺はハンターになってすぐ少し年上の先輩ハンターのチームに入れさせてもらった。


そして俺は初めて大型モンスターと対峙することになった。


俺はまだどこかここがゲームの世界だと思っていたんだ。死んでも拠点に帰れる、モンスターに背を向けて倒れこめば無敵が発生する、と今考えても何言ってんだ、とツッコミたくなるほど馬鹿な考えを持っていた。


そんな考えをもってたからだろうな。俺は最後方でほとんど攻撃が飛んでこないような位置に配置されていたのにも関わらず調子に乗って買ったばかりのナイフを逆手に持って突っ込んでしまったんだ。


俺は大型モンスターの腕にナイフを突き立てた後、逃げるためにモンスターに背中を見せて倒れこんだ。「何してんだぁ!ミスナぁ!」


その言葉を聞いて俺ははっ!となり後ろを振り向いた。そこにはモンスターの歯を先輩の盾が抑えているところだったのだ。


「せん、ぱい」

「いいからそこどけろ!邪魔だ!」

「は、はい!」

俺は急いで態勢を立て直し、すぐさまその場を離脱した。


その後は無事先輩たちの奮闘のおかげでなんとか大型モンスターの討伐に成功しました。俺は元よりの業務だった死体運びをして、拠点まで帰った。


その後「お前使えない」と吐き捨てられ、俺はチームを脱退させられた。


「………と、こんな感じで俺の始めての大型モンスターの狩猟クエストは終わりを告げましたとさ」

「………お前馬鹿じゃないか」

と、店主が俺を呆れた目で見つめてきた。

「もうそんなのわかってるよ、こんなバカだからもうチームを組んで他の人に迷惑をかけるようなことしたくないんだ」

本当にあのときの俺はどうしようもなかった、あれでもし先輩ハンターが死んでしまっていたら俺は罪悪感で二度と外を出歩けなかったと思う。


「まぁそうか、そんなことがあったんだな」

「そ、だから俺は大型モンスターと戦うなんてことはしないの、戦うとしたらチームを組むことになっちゃうからね」

「ソロでやってみてもいいんじゃないか?ほら例えば駐屯のパーガスとか確かソロでノームジャスを倒してたよな?」

「あの人と一緒にしないでくれますぅ?あんなバケモンだったら俺だって今頃大型モンスター狩りまくりだって」

「そりゃそっか」

店主は豪快に笑い、そこで話を切り上げた。ようやく料理の続きに取り掛かってくれるようだ。


しばらくして俺の前にオーブンなどでふんだんに焼かれた焼き魚が出された。身の上に乗っているハーブのようなものが香りを引き立てていい臭いがしてくるぜぇ。


「腕あげたねぇオヤジ」

「はっこんだけ作り続ければそりゃな」

「じゃあいただきます」

箸を親指の間に置き日本独特の挨拶をする。


「毎回思うけど食事する前にするそのへんてこなあいさつはなんだよ」

「俺なりの食事への敬意の現われさ」

「お前だけだぜそのへんてこ儀式をやるやつはぁ、ここでの儀式はお辞儀してラ・ペタラって言うやつだろ、だろ」

「俺にとってはそっちの方がなじみないね」

「お前がほんとにここ出身なのか疑いたくなるぜ」


オヤジは一度ため息きを吐いてからこれから始めるラッシュのためか、裏に下ごしらえしに行った。


「うんまい!」

その後俺は平凡であり懐かしき焼き魚を味わいながら食べていった。


「ごっつあんです!」

「はいよ、お粗末様」

そして俺は居酒屋を後にした。



「ぶひぃぃぃ」

俺は宿に帰り一息つく。ここはギルドの近くに置かれている宿で1年契約で借り受けている。

内装は全部木製で耐久性には少し不安があるけれどまぁガンマ拠点にモンスターがなだれ込むなんてことはパーガスさんがいる限りないんだし、余計な心配か。


今日も硬いベッドの上で目を閉じる。


まぶたの裏に浮かべるは大型モンスターと戦い英雄と讃え上げられる俺、今の自分では絶対に無理だとわかっていてもやはり憧れはやめられなかった。情景は確かに持っていたのだ。


先輩ハンターに一度”使えない”と言われたくらいであきらめられるほど俺はいい子ちゃんではなかったのだ。


「………一度くらいは俺も」

と、いう憧れを持ちながら苦節二年、結局勇気は出なかった………まぁそれでもいいそれでもいいんだ、と自分に言い聞かせながら夢見がちな青年は深い睡眠に体を預けた。


そして一週間後の朝………

「ミスナさん、あなたに大型モンスターノームジャスの討伐を命じます」

「はへ?」

いつも通りクエストを受けようとした俺に告げられたのはそんな処刑宣告にも近しいものだった。

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