第2話 日常

この世界は多分狩りゲーみたいな世界だ。例えば”モ〇〇ン”みたいなやつだな。俺はそんな世界に急に転生した。それはもうほんとに突然に、パソコンで動画を見てたら気づいたらここに生を受けていた。


記憶を取り戻したのは5歳くらいだ、最初は地球の記憶を使って無双しようとか馬鹿なこと考えてたけど、よくよく考えたら俺はコーラの作り方も、そのほか便利用具の作り方も知らなかった。


これほど勉強しておけばよかったと思った日はなかったよね。


今はもう家を出てハンターとして飯食ってる。


だがここはゲームとは違う。


あのゲームでは力尽きたとしても自動的に拠点に帰還させてくれるけど、この世界ではそんな便利システムはない。死んだらそれで終わりだ。拠点帰還係を狩りにいくときに雇えば話は別だが、それもそれで帰還係が死んだら結局同じ話だ。ゲームの世界みたいに安全に帰れる保障なんてものはないんだ。


つまりガチリアル狩りの世界、それがここ”サリアル”という世界だ。


「雑魚はさっさと帰ってママの母乳でも吸ってろ」

ノームジャスの首を取ってくれたこの人はパーガスさんといって、駐屯地の隊長を請け負っている。粗暴は荒いけど実力は確かだから彼を尊敬する人は案外多い。


荒々しい無精髭を生やし、無骨な雰囲気を醸し出した彼は膨れ上がった筋肉をこれ見よがしに見せるようにタイツのような体に密着型の服を着ていて、両手持ちのはずの大剣を片手で持っているのがトレードマークのいかついおっちゃんだ。


「じゃあ俺はこれで失礼します」

「おう」

一礼してからその場を後にした。


駐屯してるハンターの皆さんは主に拠点近くにやってきたモンスターの駆除または撃退が主な任務だ。そしてパーガスさんがいるというだけで拠点周辺はもうほとんどモンスターが現れなくなった。現れるとしてもさっきみたいにノームジャスがたまに襲ってくるぐらいだ。


それくらい彼の実力はすさまじいということだ。俺みたいなひ弱なハンターにとっては心の支えだな。でも苦手、言葉強いもんこの人。


そして俺はパーガスさんに救ってもらった命を大事に持ちながら拠点に戻りクエスト成功の報告をしにギルドへと向かった。


ここは人類第三拠点”拠点ガンマ”、なんか厨二くさい感じだけど偉い人達にとっては大真面目な命名の仕方だ。

拠点は結構賑やかで商業とかも栄えている。マダムたちがリンゴや野菜、肉などを買い集め夜食のための準備をしている、今は昼だからといわれるかもだけど夕方になったら居酒屋とかがにぎやかになり始める。そうなるとクエスト帰りのハンターたちが行きかい始め夜の祭りが始まるというわけだ。


そしてその中心に位置しているのがガンマギルドだ。白色に着色された城のような建造物はガンマ拠点のどんな建造物よりも高い。


ほんとどこに金かけてんだよと言いたくなるがどうやら自分たちの権力を誇示したいがためのものらしい。………思考が小学生だ。結局は建物がでかいだけなのだが、案外効果てきめんで拠点の人々はギルドこそがこの拠点の最高権力だと思っている。


だからこの町をとりまとめているのはギルドだ。


「すいませーん、クエスト報告に来ましたー」

いつものようにやる気のない報告をすると裏からはきはきとした眼鏡をかけたべっぴんねぇちゃんがやってきた。というか胸すごいな毎回思うけど胸が放漫すぎて白シャツの上で山を形成してるよ。そんでもってショートボブっていうのも俺好みだった。


俺は彼女の前の受付皿にさっきとってきた草の塊を置く。

「はい!お疲れ様ですミスナさん、生きて帰ってきてくれてうれしいです!竹長草の採取ですね、確認いたしますので少々お待ちください」

「よろしくです」

俺はいつも無理して夕方まで狩りにでることはない。なぜなら夕方の時間に帰るとこのクエストの報告をするためのギルドカウンターがえげつないほど混むからだ。ほんとそれだけは勘弁したい。


今はまだ昼時クエスト報告に来るハンターはまばらだ。いるのは………

「なぁなぁジュリちゃーん、いい加減俺と付き合ってくれよぉぉ」

昼間っから酒を飲んる飲んだくれと、今日は休むことにしたらしいチームのメンバーなどだ。


ギルドには談笑スペースといって端の方に丸テーブルが置いてあるスペースがある。ここでは非番のハンターとかが談笑のために来たりするらしい。


「ミスナさん、クエスト完了の確認ができましたのでこちらにお越しください」

俺はさきほどの眼鏡巨乳美女であるジュリさんの元へと歩き出す。

「今回は竹長草300グラムの採取のところを500グラム納品していただいたので400ネルの報酬が出ますよ、よかったですね」

「おー、いい報酬じゃないですか」

「内訳としてましては300グラムまでで300ネル、そして追加の200グラムで100ネルと言った感じです」

「じゃあ今日はこの金でジュリさんを飲み屋に誘おうかな?」

俺は皿に置かれた4枚の紙を取って見せびらかすようにジュリさんの前でひらひらさせる。


「お断りしておきます、私はギルドの人間ですので」

「………ですよねぇ」

俺の淡い希望はここで潰えた。

「そうだミスナさん、そろそろ大型モンスターの狩猟などをしませんか?採取クエストよりも格段に稼げますよ」

「………怖いです」

「もう!二年もこの拠点で五体満足で生きてるハンターが何言ってるんですか」

「それでも怖いものは怖いんですよ、第一結構前に買ったこの刀すらまともに触れないんですよ」

「そんなの訓練場に行けばすぐ使えるようになります」

「うぐっ、でも大型モンスターと戦えるほどの装備もないし」

「大丈夫ですよ、そのジャス装備で倒した人なんて五万といます、自信持ってください」

なぜジュリさんはここまで大型モンスター狩猟を進めてくるのか、その理由はこの世界の仕組みにある。


この世界で人間という立場はあまりにも弱い。それは人なんて餌としか見ていないようなモンスターが闊歩しているからだ。だから人間はある限られた危険なモンスターが少ない安全地帯でしか生きることができない。


だがそんな窮屈な生活を人間は許容できなかった。危険なモンスターが闊歩している地域にあるのは人類にとってとても有益な資源たちだ。そのためにも人間は開拓を進めていきたかった。


最初は騎士団なるものを編成し、よく鍛えられた屈強な兵士たちは強大なモンスターたちに立ち向かっていった。そして騎士団はある一体のモンスターによって壊滅させられた。


星滅級モンスター破滅龍”ドルラオス”、やつの圧倒的な力でギルドが手塩にかけて育てた騎士団は皆殺しにされた。その被害は甚大であったため、ギルドはある一つの案を立てた。


それは一般人である俺達に狩りに行かせるというものだ。もちろん報酬は用意するし、装備も渡す。だがノウハウは自分で身に着けろ、という少々放任主義がすぎる案だった。


それによってハンターという職業が生まれた。そしてギルド側は当初の目標である人類活動領域の拡大のためその障害となる大型モンスターの狩猟をしてほしいのだ。


「ほんとお願いします、まずはノームジャスの狩猟とかどうです?チームもこちらで用意いたしますので」

「いやあいつも十分強いっすよ俺じゃ勝てないくらいには」

「報酬金は30000ネルですよ!」

「………ほう?」

30000ネルと聞いちゃ黙ってられない。前までの勧誘では15000ネルほどだったが二倍じゃないか。それれほど大型モンスターを倒してほしいのだろう。


「どうです?どうです?」

「うーむ、うむむむむぅ」

「お願いしますぅ」

ジュリさんがきゅるりとしたかわいい瞳を俺にぶつけてくる。くっ!その目はやめてくれ!俺に効く。


「………でもごめんなさい、お金は魅力的だけど俺は命の方が大事なんです」

「そうですかぁ、それは残念です、けどもし心変わりしたらいつでも言ってくださいね!」

「はいそのときは頼りにさせてもらいます」

そこで俺達は会話を切り上げて今日の売り上げである400ネルを手にギルドを後にした。


このネルというお金はギルドが発行しているものでこのガンマ拠点の通貨となっている。


そして1ネルで買えるものといえば………

「へい!痛んだじゃがいも10個、10ネルだよ」

「じゃこれで」

「はいよ毎度あり!」

畑で作られた中でも痛んでしまったじゃがいも一個分だ。


まぁこれも調理すれば全然食える、たまに腹壊すけどそんだけだ。

「んじゃあ飲みにでもいきますか」

クエスト帰りといえばやっぱり飲みだろう。


日はだんだん落ちかかってきており、空はオレンジ色に染まって来た。これを見計らい俺は他のハンターよりも少し早く行きつけの飲み屋に足を踏み入れた。

「らっしゃい!っておいミスナかよ行儀よくして損したぜ」

「んなこと言うな、俺だって立派な客だろうが」

「かっかっ!クソガキが減らず口叩くようになりやがって」

快活に笑うおっちゃん店主が来店した俺を出迎えてくれる。俺は一年前くらいからこの店を気に入って通い続けている。そのおかげでこの店では俺は常連の扱いを受けている。


店の内装は少し狭い居酒屋って感じだ。開放的なキッチンの前にカウンターがあってそのすぐ後ろにテーブル席が立ち並んでいる。今はハンターがクエストの報告に行っているため人が少ないがこれが完全に日が落ちると席が埋まり始める。


だから俺はこの時間帯に来たのだ。ふっ流石俺、シゴデキだぜ。


「んじゃあいつものでいいか?」

「あぁ頼む」

店主がキッチンで作業を始める。俺はそのうちに道具袋からナイフや採取用の小瓶、そしてその他便利アイテムの点検をテーブルいっぱいに広げる。


そこで失ったものは何か、回復薬などはきちんと足りてるか、ナイフは刃こぼれを起こしていないか、など点検をするのだ。


かちゃかちゃと点検を着々進めていると店主が何を気になったのか声をかけてきた。

「今日はどんなクエスト行ってきたんだ?」

「今日も採取クエストだよ」

「お前大型モンスターを狩りにいかないのか?ここに来る若いもん達は大体そういう大型モンスターを狩ってるって言ってたぞ」

「いいんだよ大型モンスターは危険だ、俺は自分の命がなにより大事だからね」

「たくっ臆病もんが、男なら大型モンスターの一匹や二匹くらい狩ってみろってんだ」

「じゃあ聞くけどオヤジ、大型モンスター狩猟時のハンターの死亡率知ってるか?」

「知らんな」

「23%、驚異的な数字だよ、どんなに安定したチームを組んだとしても死んでしまうときもある、ソロでやってる俺が大型モンスターの狩りなんて無理さ」

「んでも、残りの77%は生きてるんだろ?十分じゃないか」

この世界で、人の命というものは軽い。いや正確には年老いた人ほど命を軽く見てる傾向にある。


その理由として50年前、つまりギルドという存在そのものがなかった時代に生きていていた人達は毎日のようにモンスターに食われていたのだ。そんな殺戮の時代を生き残った人達からすれば23%は少ない数字なのかもしれない。


「いんや、たけぇよ十分」

「そうか、今の時代では高いのか」

そこで店主は一拍置いて切り出した。

「ちなみにお前は大型モンスターと一回でも戦ったことあるのか?」

「あるよ、過去に一回だけね」

「なんだあるなら話せよ」

「あんま話したくなかったんだよな、俺がバカすぎる話だから」

「聞かせろ、肉おまけしてやるから」

店主は料理そっちのけでカウンターから顔を出して前のめりになる。………どんだけ聞きたいんだよ。

「じゃあ話すけどあんま馬鹿にすんなよ」


それはあまりにも情けなくてどうしようもない愚図だったときの俺の話だ。

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